迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

文字の大きさ
上 下
8 / 26
龍人の国

抗うための準備

しおりを挟む
  セアキワ国を退けた3日目の朝、結達の元に女性冒険者達が集まって来た。

「どうしたの?みんな」

「朝っぱらから何だってんだ」

 未だに眠そうで不機嫌そうに声を出すりゅーちゃんに、若干恐れる女性冒険者達。
 それでも女性冒険者のリーダーが一歩前に出て、片膝を付いて頭を下げると、残りのメンバーもそれに習うように片膝を付く。

「皆で話し合ったんだ。3日前の戦闘でアタイ達はりゅーさんや結ちゃんについていこうと決めたんだ」

 真剣にりゅーちゃん達を見つめる女性冒険者達に、りゅーちゃんは一瞬結を見つめ視線を戻すと。

「聞けよ、俺は結にティムされた絶対龍王「ソウ モウトク」。今はりゅーと名づけられている」

 それを聞いて驚く者、よく解っていない者、だが龍人族の3人は腰を抜かし、地面に水溜りを作っていた。

「そ・・・ソウ モウトク」

 乾いた口と喉が水分を求めるように口をパクパクと動かして、

「モウトク公は帰らずの迷宮に石化の呪いをかけられ封印されたはず・・・」

 まるで死神でも見たかのような顔をした龍人族の冒険者はかすれた声を辛うじて出す。

「そうだな、確かに俺は封じられた。そして結に封印を解かれ、今ここに居る」

「ねぇ、こんな時に言って良いのか解らないんだけど、ソウ モウトクがりゅーちゃんの本名?」

 空気が読めない子がここに居た。

「ああ、昔の名前だな。今はりゅーで良いぜ」

「御伽噺に出てくる、治世の能臣、乱世の奸雄って言われてる「大魔王 ソウ」の事?
 実在したの?」

「あああああああ、アンタ何言ってるのよ!おだまり」

 そう言ってそろりとりゅーちゃんの顔色を伺うが、気にした風も無く平然としている姿をみてほっと胸をなでおろす。

「確か、3つ前の龍人族の皇帝にあまりに苛烈な政策に反旗を翻され、一騎討ちの末に敗れた。
 その時に「俺が復活したら龍人族を皆殺しにしてやる」って言って消滅したってお話だったよね?」

「ほぅ、あのプライドの高いチュータツの言いそうなことだ。
 実際は皇帝に成りたがったチュータツが晩飯の時に呪いの粉を部屋に撒いて、重臣共々石にしやがったってだけだがな」

 りゅーちゃんの思わぬ言葉に唖然とする龍人族の冒険者達。

「だが、俺が苛烈なのは間違いねぇわ。だからって龍人族を皆殺しは作りすぎだ」

 そう言って屈託無く笑うりゅーちゃんにその場に居た全員が頷き

「かなり驚いたけど、やはり貴方達について行くわ。
 あのセアキワ国には戻る気も無いし。
 アタイ達を助けてくれた恩も有るからね」

 そう言って不器用なウィンクをする女冒険者を、少し困ったような優しい笑みで見つめるりゅーちゃん。そして

「ねぇねぇ、いっその事こっちから仕掛けちゃおうか?」

「どうやってだよ!こっちはまだ9人だぞ、防衛位ならともかくどうやんだよ!」

「え~例えば、そこそこの村に健人を放すの。そのついでに井戸に下剤を投げ込むと・・・」

 と手を口に当てて邪悪な笑みを浮かべる結。

「おま・・・」

 ドン引きの女性冒険者と声を上げて固まるりゅーちゃん。

「お前は天才か!
 確かにそうすれば、あいつが来たとたんとなるし、上手くすれば疫病神扱い・・・
 更に噂が広まれば・・・ひひひ。
 楽しそうだな」

”あんたらは天災だよ”と女子冒険者達が突っ込みを入れていた。

「ってまぁ冗談は置いておいて」

”冗談かい!”

「でもある程度仕返ししないとまた来るだろうし」

「そこでだ。あの森の奥に険しい岩山に挟まれた場所がある、そこを塞ぐ形で関を作ろうと思う」

 りゅーちゃんが胸の谷間から地図を取り出すと、机の上に広げて指差して説明した。

「村の壁を作った時のような方法で良いんだよね?」

「ああ、人の胸ぐらいの所に巨大クロスボウを並べて設置し、壁の上には遠くまで届く何かがあれば良いんだが」

 りゅーちゃんの期待に満ちた目を受けて結は

「巨大クロスボウを鋼も混ぜて作ったら飛距離が伸びるから威力も上がるし、矢と矢の間にネットを付けると広範囲で敵兵も捕獲できるよ」

 りゅーちゃんは邪悪な笑みを浮かべて手をポンと叩くと。

「それ良いな。
 捕らえた兵士を結がティムしたら、強くなるしな」

「え?そんな効果があったんだ」

 効果を聞いて驚く結に呆れた顔を向けるとりゅーちゃんは

「自分のスキルぐらい把握してろよ、今の俺なら石化の呪いごとき無効に出来るぐらいだぞ」

「あはは、私には効果ないからね」

 ズイッと前に女性冒険者達が出て来て

「結さん私達をティムしてください」

「ええ!!良いの?」

「「勿論です」」

 あまりの勢いにビックリして纏めてティムしてしまう。

「す、凄い、何この力?一気にレベルが上がったような・・・」

 その日7龍将と言われる女性冒険者達が誕生した。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

デュアルワールド

たぬまる
ファンタジー
 体感式VRMMORPG「オリンポスファンタジー」1位ランカー「アレス」その妹で双子のニケとパラスは「オリンポスファンタジー」NO1のアイドルユニット「アテナ」はある日アテナと常に一緒に居るアレスに嫉妬した男に謎のアイテムを使われアレスは右腕を残して消えてしまう。  兄アレスは異世界に転移し、妹アテナは兄を探しオリンポスファンタジー内を探し始める。  異世界アレス編と元の世界アテナ編の2部構成で進んでいく、不思議なファンタジー  異世界では異常なぶっ壊れ性能のアレスと絶対アイドルアテナはどんな冒険を魅せてくれるのだろうか?

処理中です...