迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

文字の大きさ
上 下
6 / 26
龍人の国

村の変化と結の狩り

しおりを挟む
 結とりゅーちゃん、それと17人の女性達は、半壊した村に昼にたどり着いた。
 村の中を見てまわると、意外なことに村を覆う壁や外側の家は焼けたり破壊されたりしていたが、中心部の家屋は無事な物が多かった。少し掃除したら即使えるものもあったので、17人の女性で手分けして掃除をするように指示を出し、結とりゅーちゃんは外での作業にかかった。

「塀を作り直すのは時間がかかるから、土塁を作ろうと思うんだよね」

「土で作るのか?」

 結は自分の背丈ほど土を掘って堀を作り、その直ぐ横に土塁を作ることで高さを出し、簡単な防衛施設にしようと考えていた。
 
「じゃあやるよ」

 二人は競うように周りを掘っていく。結の提案で箱掘りといわれる底が平らで両面が高くなるように掘り進めた。
 そして村側に掘り出した土をりゅーちゃんの魔法で固めながら、確りとした土塁を築き上げた。
 夕方には二人のステータスをフルに使った巨大な城砦村が出来上がった。

 出来上がった土塁と呼ぶには凄すぎる城壁を見上げて、唖然とする女性たちにりゅーちゃんは。

「聞くがいい、この村は今女しか居ない!敵から身を守るために城砦化した。
 これからも色んな住人が増えるだろうが、お前達が仕え、守るのはこの結だ!
 もし、傷つけたり利用して悪事をたくらめば、契約魔法により命を持って償うことになる」

 助けられた恩もあり、このような事を一日でする二人に感謝の気持ちが強い17人の女性達は、素直に頷く。

 その日の夜は結が何処からともなく出した食材を使ってパーティーになった。
 そして移住の疲れからか、思ったより早く皆眠りについた。


 次の日
 
 セイトから来た兵士は、あまりの村の変わりように驚きつつも、任務をこなす為に門の所で声を上げた。

「私は、セイト県知事の使いで ミサバ・タイと申します。前日ギルドに売られた氷雨と言う女性なのだが・・・金僧侶かねそうりょと言う最初級なら良いが、それ以上の魔法を使うのに異常なほど金がかかる役立たずだと判明してな・・・県知事より貴殿らに無償で差し上げるそうだ。 
 かなり煩いので、猿轡をしておる。
 ここに置いて行くので好きにしてくれ」

 そう言ってミサバは氷雨を置いてそそくさと去って行った。

 りゅーちゃんは蓑虫状態の氷雨を担いで村の広場まで運ぶと、氷雨の前で石を握りつぶしながら

「おめぇは俺達の持ち物になったわけだ・・・おめぇだけ特別にこの村の人間にかすり傷でもつけたら罰が与えられるようにしておいた。
 結にタメ口をきいたら、この石の様にてめぇの頭もなるからな、わかったな」

 氷雨は青い顔をして泣きながら頷いた。

 スッキリした顔をして立ち上がると、氷雨を一先ず掘っ立て小屋に放り込み
 村の女性を集めて今後の話をする事にした。

「この中で、畑仕事した事が有る人~」

 結がりゅーちゃんを置き去りにして、話を進めだした。

「私やった事あります」

 最初に手を上げたのは、年の頃なら15歳ぐらいの少女だった。
 その後に続くように7人の女性が手を上げた。

「最初に手を上げた・・・」

「ショウカです」

「ありがとう、ショウカちゃんが畑班のリーダーね」

 唐突にリーダー指名されたことに驚くショウカをよそに、畑の場所を日当たりから村の東側に作ることを知らせて、残りの冒険者達で森に肉や魚を取りに行く班を決めて話を締めた。

「じゃあ、後でりゅーちゃんが畑を作りに行くから先に行っておいてね」

「ま、待ってください」

 慌てて呼び止めるが、すでに結の姿は無く、ショウカの肩にポンと何かが触れて振り向くと、そこには慈愛に満ちた目をしたりゅーちゃんがいた。

「諦めろ、お前が適任だよ」

 そう言ってニッコリと笑った。

 その言葉に諦めて受け入れたショウカは、少しでも役目を果たすために、気合を入れたのだった。

 東側に集まった女性達を前に、りゅーちゃんが地面に手を置くと、家の焼け跡などを巻き込んで地面がうねり、確りと柔らかい土が出来た。

「す、すご~い」

「ってか何その魔法」

 必要な範囲をあっと言う間に畑に変えたりゅーちゃんは、腰に手を当てて

「こんなもんか・・・種とかは適当に置いていくぞ。それとこのショウカが畑班のリーダーだから迷惑かけんなよ」

「「はい」」

「が、がんばります」

 

 その頃結は冒険者の女性達を引き連れて狩りをしていた。

「そっちに熊の気配がするよ」

 結は動物園に居た熊と同じ雰囲気を感じ取り指を指す。

「え?何も感じないけど?」

 アーチャーのケファンが不思議そうに結を見る。
 結は不思議そうに首をかしげて

「そうかな?行って見ようよ」

 そう言って進路を熊が居るであろう場所に変える。
 低い木々を抜けて暫く行くと、ちょうど熊が鹿を襲っている所だった。

「ホントに居た、何で私より解るのよ」

「気配を覚えたら簡単だよ」

「それが出来ないから驚いてんのよ」

 「後で教えるね」と言って駆け出す結は、仕留められた鹿を掠め取ると、熊を挑発するように指をそろえてクイクイと曲げて挑発する。

「きなよ」

 熊は鹿を奪った結に殺意を向けるが、結は楽しそうに熊に向かって駆け出した。
 狩りには流石に篭手もレッグアーマーも置いてきていたので、加減をしつつ残像が見える程の速度で蹴りを叩き込む。
 熊は声も無く後ろに倒れる。

「ええ~何それ!残像が・・・」

 冒険者の女性たちは驚きすぎて目を見開く。

「ごめ~ん、解体できないから一回見せて」

 顔の前で手を合わせる結に、冒険者の女性達が可愛いなぁと笑いあう。
 ほのぼのとした空気が満ちていった。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

デュアルワールド

たぬまる
ファンタジー
 体感式VRMMORPG「オリンポスファンタジー」1位ランカー「アレス」その妹で双子のニケとパラスは「オリンポスファンタジー」NO1のアイドルユニット「アテナ」はある日アテナと常に一緒に居るアレスに嫉妬した男に謎のアイテムを使われアレスは右腕を残して消えてしまう。  兄アレスは異世界に転移し、妹アテナは兄を探しオリンポスファンタジー内を探し始める。  異世界アレス編と元の世界アテナ編の2部構成で進んでいく、不思議なファンタジー  異世界では異常なぶっ壊れ性能のアレスと絶対アイドルアテナはどんな冒険を魅せてくれるのだろうか?

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。 異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。 人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。 もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。 「わたくし、魔王ですのよ」 そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。 元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。 「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」 果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。 無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。 これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。 ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...