迷宮に捨てられた○○、世界を震わせる

たぬまる

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龍人の国

結の村

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  絶対龍王、2000年前に暴力の嵐を齎した、全ての龍の能力を持つ最強の存在。
 伝説に曰く、星空のような鱗を持ち、6属性を使いこなす。
 好戦的で気に入らないものは全て滅ぼしたという。
 それが今ここで酒を飲み、顔を赤くして楽しそうに結の肩を抱きしめる姿を、当時の人々は想像出来ただろうか?

 封印を経て、結にティムされたからだろうか?
 結に言わせると

「元々でしょ?ただ周りが勝手に怖がっていただけだよ」

 と、かつての自分がそうであったように。

 結は飛び級と言う日本ではとても珍しいことをやってのけた。
 それは、生活のためでも有った。
 父と母はギャンブル中毒で、姉は結に暴力を振るい次第に家に帰らなくなった。
 そんな家族を結は当然家族と認識してはいなかったし、早く稼げるようになってさっさと出て行くために、自分の能力を最大限に生かした結果が飛び級だった。

 しかし、学校でもその記憶力と行動力は生徒にも教師にも恐怖を抱かせ、存在しないような対応をされたりしていた。
 最初は教師が間違いを指摘された事に苛立ち、思わず拳を振るった事が切欠だった。
 それを見た生徒が足を引っ掛けたりしていたのだが、それを交わされたからか、だんだんと直接的に暴力を振るい始めた。

 結はそれに対して全く怖がらず、全く気にした風も無かった。
 その姿がだんだんと怖くなったのだろう。暴力は無視に変わっていった。

 だが、結にとって賭博場に出入りする人間の殆どが結を可愛がり、記憶力以外の良い所を見つけて褒めてくれたり、ご飯を食べていない事を知るとご飯を食べさせてくれた。
 結にとっての居場所はそんな賭博所に来る常連であった。
 結の今の性格を作り、育ててくれたのは賭博場の人々だと言えた。

 似たもの同士の二人は今を楽しく過ごしていた。


 一方 セアキワ国に残った転移者たちは

 「ひゃっは」

 和賀 健人達は首都周辺の平原で子ゴブリンやプチスライムを相手にレベル上げにいそしんでいた。
 目に見えるステータスに酔いしれ、周りの迷惑も考えずにひたすら暴れまわっていた。

「王様最高だよね~お陰で好き放題できるし、楽しいよね」

「マジで、あの気味悪い奴どっかに捨ててくれたし」

「あれ?なんだか騒がしいね」

 子ゴブリンをなぶり終わって顔を上げると、前方のほうから叫び声が聞こえて来て、棍棒を持った筋肉質なゴブリンが冒険者を追い回しているのが見えた。

 ゴブリンは健人達の方へと進んできており、それを見た健人達はニヤリと笑い、新たな獲物に興奮したように

「そろそろ子ゴブリンにも飽きたことだ、いくぞ!おい」

 そう言って4人はゴブリンに駆け寄った。
 他の者達は嫌われ者を残して距離を取り、様子を見守った。
 国王の紋章を持った四人は、暴力を振るったり、勝手に家に入ってクローゼットや本棚を勝手に荒らしたり、台所や外に出してある壷を割ったりと、やりたい放題。
 住民が文句を言うと城の兵士に捕らえられる始末。街の住民や冒険者達に国王も含めかなり嫌われていた。

「おらよ!」

 調子に乗った健人が斧を力任せに振り下ろすが、ゴブリンは斧の腹を棍棒で叩き、力をそらす。
 健人のバランスが崩れ、がら空きになった腹を思い切り蹴り上げた。

「うげぇ」

「健人!」

 身体をくの字に曲げて崩れ落ちる健人のフォローをするために、蹴り上げたゴブリンの伸びきった足に思い切り斧を叩き付けた雪だが、別のゴブリンが足と斧の間に棍棒を差し入れ斧を受け止める。
 棍棒から手を離し、回し蹴りを雪に叩き込む。
 雪はガードも出来ずに吹き飛ばされ、何度かバウンドして転がっていく。

 ギャラリーから歓声が上がるが、どちらに向けてかが解らない。

「プチファイアボール」

 追撃しようとするゴブリンに康人が魔法を放つが、サッと交わされてしまう。

「プチファイアボール、プチファイアボール」

 意地になって何度も魔法を放つが次々に交わされ、最後は

”がきん”

 硬質な音を立てて、康人の方へ打ち返されてしまった。
 打ち返された魔法は康人の胸に吸い込まれるように当り、康人は崩れ落ちるように倒れた。

「おい、あれって、ハイバトルゴブリンじゃ・・・」

「あ、ああ、魔法を打ち返すなんて離れ業、ハイバトルゴブリン以上しか居ない・・・間違いない」

 ストレスが解消されるように見ていた冒険者達は驚き、一斉に一歩後ろに下がる。

 「レェスキュア(薄い回復魔法)」

 必死に回復魔法をかける氷雨のお陰で目を覚ました三人は、腰を抜かしてガタガタと震え、ジリジリと後ろに下がっていった。

「ちょっと、闘いなさいよ!あんたらが仕掛けたんだから・・・ぎゅや」

 氷雨は怒鳴りながら下がる三人の後ろに行こうとしたが、その前に棍棒で側頭部をしたたかに殴られて、おかしな声を上げて吹き飛ばされる。

「に、逃げろ・・・」

 倒れた氷雨をみて、弾かれたように後ろに向かって走り出した。
 バランスを崩すようにワタワタと逃げ出した3人を軽蔑の目で見送って、冒険者達は各々の武器を構え戦おうとしたが、そんな冒険者を他所にハイバトルゴブリンは、氷雨と他にも倒れている女性の冒険者を肩に担いで、平原の奥へと消えていった。


 健人の報告を聞いた「サク・ガ・セアキワ」王子は慌てて騎士を派遣したが、ハイバトルゴブリンに追いついた精鋭騎士40はあっさりと全滅した。

 こうして召喚した勇者の一人を欠き、予想外の出来事に国王は焦る事になる。


その少し後

 結は最近活発化しているバトルゴブリンの巣の壊滅の依頼をりゅーちゃんと受けていた。
 洞窟を掘って作った巣に向かうまでに数個の巣を殲滅した時、りゅーちゃんは奥の広い巣はもしかしてと、竹林の開けた場所で休憩を取ると。

「結、今回はハイバトルゴブリンが居るかもしれない」

 そう言って真剣な顔で切り出した。

「そうなの?それは強い?」

「ああ、連携が厄介だ。
 だが、どうにかなるだろう。因みに俺は余裕だぞ」

 ニヤリと笑うりゅーちゃんをみて、少しムッとしたように唇を尖らせると

「私だって余裕だし」

 と言う。
 その言葉を聞いて乱暴に頭を撫でるりゅーちゃん。

「よし!うんじゃあ、どっちが多くハイバトルゴブリンを狩れるか勝負しようぜ」

「そうだね、楽しそう♪」

 その日の昼、竹林の奥にあるハイバトルゴブリンが居る巣に、二人が正面から突撃して行った。

 崖の穴の前で門番をしていたバトルゴブリンを二人で一匹ずつ殴って吹き飛ばすと、門を破壊して中に突入していった。

「まず一匹ぃ」

 りゅーちゃんは物陰から出てきたハイバトルゴブリンの棍棒の上から拳を叩き込み、ハイバトルゴブリンの上半身を吹き飛ばした。

「私も!」

 と結は二匹同時に左右の膝で顔面を蹴り、吹き飛ばす。

「な!ずりーぞ」

 次々に巣のハイバトルゴブリンを吹き飛ばしていく姿に、バトルジャンキーのはずのハイバトルゴブリン達が後ずさっていく。

「あはは、楽しいな♪」

「だね、最近ストレス溜まってたし」

 そう言って次々に吹き飛ばしていくが、奥から更に巨大なゴブリンが出てきた。

「あれはジェネラルバトルゴブリンか・・・」

「も~らい♪」

 結が素早く水平蹴りをしてバランスを崩させると、りゅーちゃんが目線の高さになったジェネラルの顔面に拳を叩き込んだが、咄嗟にそれを噛み付きでジェネラルが防いだ。

「な!」

「も~私の獲物~」

 結はそう言ってジェネラルの後頭部に膝蹴りを叩き込むと、頭が爆散した。
 血の雨を浴びながら、鬱陶しそうに髪をかき上げると

「ち、あと少しだ!狩りつくすぞ」

 結果。結がハイバトルゴブリン18 ジェネラルバトルゴブリン1
    りゅーちゃんが、ハイバトルゴブリン17で、結が勝った。

「かちぃ」

「くそ!次は勝つぜ」

 りゅーちゃんのクリーンと言う浄化魔法で体の汚れを落として、魔石拾いのついでに巣の中を探して残党が居ないかと探したら、牢屋のような場所に数人の女性が囚われていた。

「最近来たのか・・・女共が綺麗過ぎる」

「そうなの?」

「おこちゃまにはちょっと早い話だが、思ったよりも若い巣だったみたいだな」

 軽戦士や魔法師などバラエティー豊かな女性達は、ハイバトルゴブリンを軽く狩ってしまう二人を恐れ、大人しくしたがっていたが

 一人結の名を呼び、自分の下に残れと言い出す者が居た。
 他の女性たちはいい加減にしろと怒りを心に抱いたが、こいつはあの馬鹿共の一人だしと諦めた。

「私と同級生でしょ?だから他の子より優遇してよ」

「え~。覚えてないし、私この世界に来てすぐ迷宮に捨てられたから」

 結はクラスメイトの顔を覚える気も無く過ごしていたので、全く覚えていなかった。
 それに明らかに不満な目をしてギャーギャーと騒ぐ氷雨だが、りゅーちゃんが鼻を鳴らすと。

「こいつ嫌な臭いがするな。陰湿で腐ったそんな臭いだ、置いていこうぜ」

「ちょっと何言ってんのよ!」

「う~ん。りゅーちゃんがそういうなら、置いて行く?」

 二人が不穏当な事を言い始め、自分がピンチだと悟ると再び騒ぎ始めた。

「うるせぇぞ!てめぇは今のところ戦利品扱いだ!
黙って待ってろ!」

「ひぃぃぃぃ」

「そうだ!一旦ギルドで売っちまおう。金にもなるし、面倒もねぇ」

 そう言ってりゅーちゃんは契約魔法をかけると、氷雨は喋れなくなったのか、パクパクと口を動かすだけだった。
 邪悪な笑みを浮かべたりゅーちゃんは氷雨の背中を踏みつける。

「それ大丈夫なの?」

「ああ、俺の魔法は完璧だ!それに結は知らねぇやつなんだろ?
 縁があればまた会えるさ」

「う~ん。知り合いのおっちゃんが前に言ってたけど、利用できる奴は利用しろ」

「良い事言うじゃねぇか、他に使い道あるのか?」

 二人が黒い顔をして話し合っている間、氷雨は生きた心地がしなかった。
 他の女性は一まとめになって少し離れた場所で様子を見守っていた。

「じゃあよ、セイトからちょっと行った所に滅びた村があるんだけどよ。そこを買うってどうだ?」

「持ち金で足りる?」

「そこは任せろ」

 そう言って邪悪な笑顔を浮かべるりゅーちゃん。
 美人がそんな顔したら迫力あるなぁと、結はノンビリ見ていた。

 前回りゅーちゃんが助けた女性も居る上に、これ以上人が増える予感がする二人は、家を買うよりも村を買う事を選択した。
 現在では珍しいことだが、りゅーちゃんが生きた時代では普通の事だったので、滅びた村の情報を確りとチェックしていた。
 滅びた村などは盗賊や魔物が居つきやすいため壊すのにも予算が掛かり、県知事も頭を悩ませる事なので、喜んで売ってくれる。

 この日、りゅーちゃんと結はDランクまで上がり、りゅーちゃんとギルド長との相談で格安で村を手に入れることが出来た。

 とてつもなく疲れたようなギルドマスターと、艶々のりゅーちゃん。何が有ったのだろうか?

「じゃあ、この前の女達も村に行かせてくれ」

 そう言って、自分の前に結を乗せて馬に乗ると、りゅーちゃんは村跡に向かった。

 この日、結達は拠点を村に移して活動する事になった。

 村人は女性が17人に、ピーちゃん、りゅーちゃん、結の20人だった。

 元の家に帰りたい者を探したが、17人全員残ることになった。
 冒険者の女性達は、ゴブリン族に攫われた自分を仲間が受け入れるとは思えなかったのだろう。
全員残ることになった。
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