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プロローグ
異世界転移した兄と残された妹達
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「お兄ちゃんに保護者をしてもらおうよ」
「え~鈴は~おにいちゃん嫌~い」
鈴は私の提案に嫌そうに、いや、確実に嫌だと却下しようとしてきた。
「少しは考えなよ。私だってお兄ちゃんは嫌だけどさ、パパやママはゲーム、特にVRには反対でしょ?
それにお兄ちゃんはゲーム苦手だけど頼めばちゃんと付き合ってくれるじゃん」
私の言葉に頬に人差し指を当ててう~んと悩み始める鈴、この癖が出た時は後一押しの時だ。
鈴も私もVRMMO「オリンポスファンタジー」をやりたいのは同じなんだ。
「それに、お兄ちゃんには生産でもさせておけば初期の回復アイテムとか充実するじゃん」
「そうだね~、仕方ない、おにいちゃんを利用しよう~」
私達は口うるさいけど、最後にはちゃんとお願いを聞いてくれる都合の良い相手のお兄ちゃんを利用しようして、「オリンポスファンタジー」を始めたのだった。
まさかあんなことになるとは思いもせずに・・・。
世界最大のVRMMORPG「オリンポスファンタジー」
あまりのリアリティーと無数に広がる習得スキルによる職業システム。
スキルレベルはあるが、個人にはレベルは無く、プレイヤーの強さはスキルレベルとプレイヤースキルによって決まる。
そして公開から1年後にはプレイヤーランキングによるインセンティブ形式が開始。上位10人には1位からインセンティブ+賞金が貰え、それ以外のプレイヤーも毎月もらえるポイントを交換する事で生活できる者も数多く居た。
更に人気を生み出したのは、オリンポスファンタジーには2年前に追加されたアイドルという職業があり、アイドルはプレイヤーにポイントを入れてもらうことでランキングが決まり、同じ様に上位10組には賞金とインセンティブがもらえ、下100位に入ればインセンティブがもらえるため、かなりの人数のアイドルが生まれていた。
アイドルはその人気ゆえに、上位10位は一般プレイヤーと会話や接触を出来る限り制限されており、正にリアルのアイドルと変わらない扱いになっていた。
その中でも常にトップを走り続けるアイドルが居た。
双子のユニット「アテナ」長女の「パラス」はおっとりとした性格と次女の「ニケ」はボーイッシュな性格。二人はプレイヤーランキング3位でもあり、歌と踊り、ビジュアル、そして何より戦闘しながらのライブコンサートが出来るのは未だにアテナの二人だけだった。
実はあまり知られていないが、ライブコンサートにはもう一人、アテナの二人の兄が必ず参加していた。
兄はアレスと言い、プレイヤーランキング1位の無敵の存在であったが、他のプレイヤー達からはアテナの金魚の糞、アテナのおこぼれでランカーなんだと言われ疎まれていた。
アテナはその事に気がついていなかったが、アレス自体はそれを知っていたがために、一人での狩りもかなり行なっていたのだが、嫉妬に狂った者は気がつくはずもなかった。
「パラスちゃん、今日も良かったよ」
この日もアテナのライブコンサートが終わり、さあ引き上げようとしていた時に、突然シーフ系の男が声をかけてきた。
「ありがとう、でも、ごめんねお話できないルールだから」
「それに、急に接触は禁止だよ」
アテナの二人が注意すると、男はアレスを指差し唾を撒き散らしながら
「その男は良いのかよ!俺のほうが二人を幸せに出来る!
こんな男こうだ!」
男はアレスに向かって黒い結晶を投げつけると、慌てて伸ばしたアレスの右手以外を結晶が黒い幕で包み込み、アレスを消し去ってしまった。
その場にはアレスの右手だけが残っていた。
”警告! プレイヤーが禁足事項及びプレイヤーに対する違法アイテムの使用により麻痺処置を行い警察に報告しました。
なおこのプレイヤーと今から接触した場合は、警察の事情聴取対象となります”
警告が出た後男は消えたが、そんな事に見向きもせず、二人はアレスの右腕を抱きかかえ、アレスにチャットコールを鳴らし続けるが一向に繋がらない。
「お、お兄ちゃん無事でいて」
「もう、あんな事はごめんだよぉ」
二人は兄に負い目が有った。
今から5年前。二人がまだ14歳の時、どうしても「オリンポスファンタジー」をやりたかったが、当時は年齢制限に引っかかり、18歳以上の大人と一緒にする必要が有り、無理やり兄を巻き込んだのだった。
「まったく・・・お前達は欲望に素直だな。
そんな所は父さんにそっくりだな・・・」
そう言って頬をかきながら笑った兄を利用して始めたVRMMORPGは楽しかった。
最初のチュートリアルで何度も念を押されたのが、ログアウトする時は必ずポーションで傷を治してからと。
目隠しされた人間が焼けた鉄の棒だと思い込まされて紙の筒を押し付けられると火傷するのと同じで、怪我をしたままログアウトすると、同じ様な怪我をする恐れが有るからだと言われていた。
これが18歳以上の大人が子供を監督する理由だった。
二人は順調に冒険を続け、兄は気楽に生産採取をして二人をサポートする日々が続いたある日。
二人は嫌がるアレスを連れて新発見のダンジョンの攻略にやって来た。
ボス部屋までアレスが採取したアイテムを錬金術で変化させてサポートしていったお陰で、さくさくと進むことが出来た。
「二人共、今日は一旦町に帰らないか?装備も傷だらけだしさ」
「お兄ちゃんは攻略をしないから解らないんだろうけど、此処は行ってしまわないと他のプレイヤーに持ってかれちゃうんだよ」
「そうよ~おにいちゃんの錬金も有るし~行けるわよ~」
二人はそう言ってボス部屋に入って行ってしまった。ボス部屋には2メートルを超えるアルケーニが居た。
上半身は美しい女性で下半身は蜘蛛の姿を見て、アレスは「蜘蛛苦手なんだよな~」と心の中で思っていたが。
二人の妹は次々にダメージを与えて行き、あっと言う間にアルケーニを倒してしまった。
地面に横たわるアルケーニの側で飛び上がって喜ぶ二人をホッとした目で見つめていたが、一つ違和感を感じていた。
モンスターは倒されると光になってアイテムに変わるはず・・・
「危ない!」
アレスはパラスを突き飛ばすと、同時にアルケーニの長い足がアレスの両目を切り裂いた。
「がぁぁぁ・・・」
「お兄ちゃん!こいつ!」
ニケがアルケーニの心臓部分を突き刺し、アイテムに変わるのを確認して、アレスに駆け寄る。
パラスは慌てたようにログアウトすると、そのまま兄の部屋に駆け込み、ヘッドギアから流れる血を見てヘッドギアを外してしまった。
ポーションを使おうとしたニケの前で消えた兄に、現実で起きた事がわかったニケも慌ててログアウトして、兄の部屋に駆け込むと、血塗れの兄の頭を抱いて呆然としているパラス(鈴)が居た。
ニケ(本名)は慌てて救急車を呼び、親に連絡をしたりとした。
この日兄は視力を失い、暫くは三人とも「オリンポスファンタジー」にログインする事無く過ごしていた。
兄はけっして自分達を責める事も無く、二人が無事でよかったよと笑っていた。
その日々が二人には自分達を責めない兄に罪悪感が募り、苦しい日々が続いた。
半年経ったある日、兄が新型のヘッドギアで「オリンポスファンタジー」にログインしている事に気がついた。
「何で!何でおにいちゃんはあのゲームにログインできるのよ!」
そう問いかけるニケに、兄は困ったような顔をして
「新型のヘッドギアなら現実で目が見えなくても、ゲーム内なら見えるんだよ。
だから、気晴らしになるんだ」
衝撃だった。ニケは兄のサポートをするために再び「オリンポスオンライン」を始めた。
パラスも引きずられるように復帰して、気がつけばアイドルに成り、アイドルランキング1位を独占し続けた。
アレスは連続12時間とか睡眠以外ほぼ「オリンポスオンライン」に入り込み、元々人が想像しないようなスキルの使い方が得意なので、瞬く間にランキング上位に駆け上がっていった。
有名になるにつれて、アレスは別行動をしようと言ってきたが、二人はアレスから離れることが出来なかった。
アレスの眼を奪ったトラウマが別行動を拒否させていた。
そのせいで今回の事件が起きたと思うと、心が潰されそうになっていた。
兄が無事だか確認するだけと、動揺しているパラスを残しニケはログアウトした。
そして・・・右腕だけを残して兄の姿は消えていたのを見たときは流石にニケも絶叫して泣き叫んだ。
いつまで経っても帰ってこないニケを心配してログアウトしたパラスが見たのは、いつかの自分を彷彿さとさせるような血塗れのニケと兄の腕・・・
この日世界を騒がせたアレス消滅事件が起きたのだった。
アレスサイド
俺は鳳 悠馬 23歳 男
ゲーム内で無茶な転移をさせられたんだろうな、と現状は理解できてるし、失った右手にハイポーションをかけたが生えてこないところを見ると、まだあの場所に俺の腕は存在してるんだろうな。
「メニューGMコール・・・」
はて?何時もならサッと出てくるメニューが出ないぞ?
「コード、メニュー/GMコール」
??反応が無い・・・バグか?
「マップ展開」
俺は出てきたマップを見て唖然とした。
ゲームで生活の資金を稼いでいた俺は、オリンポスオンラインのマップは全部頭に入っている・・・
だが、展開されたマップは俺が知らないマップで、近くに5人のプレイヤーと18人の盗賊のマーカーが出ていた。
「・・・これはイベントかな?
両利きだから戦闘には問題ないか・・・」
イベントの場所に駆け出しながら、俺はステータスを確認してみた。
”アレス 男 LV1000(MAX)
HP5972/9999 MP 8725/9999
職業1 ソードマン 職業2 シノビ 職業3 アルケミスト 職業4 ――――
二刀流LV99
ソードマスタリーLV99
レイジングエッジLV99
スローイングナイフLV95
跳躍LV97
気配遮断LV99
ムービングLV97
暗殺LV94
錬金術LV99
錬金魔法LV99
鑑定LV99
魔法陣眼 LV87
・・・etcノンアクティブ
う~ん全部アクティブにすると脳に負担がかかるから、職業に必要な物だけにしていたけど、ここまで絞り込んでないはずなんだが・・・まぁ良いか、ムービングのお陰で目的地まで直ぐだしな。
走りながら、失った右手の変わりに成りそうなリビングアーマーの篭手を装着してみると、あっさりと馴染んだ・・・俺の生み出す錬金兵の一つだが、此処まで馴染むかね。
不便じゃないから良いが、ためしに早速リビングアーマーの篭手で剣を握ってみる・・・うん、問題ない・・・。
俺は更に速度を上げてイベントポイントに駆けて行った。プレイヤーが2人減ったのだ。
更に一人減った所で俺のスローイングナイフの射程圏内に盗賊を確認できた。
俺は素早くアイテムボックスからナイフを8本取り出すと、盗賊の首に向けて投げつけて8人倒した。再び8本のナイフを投げ、更に8人を倒し、残り二人をレイジングエッジで一気に首を飛ばすと、戦闘はあっさりと終了した。
「大丈夫か?」
呆然としているプレイヤーに声をかけると一人が答えてくれた。
「た、助かった・・・礼を言う。
俺はアテネポリスの王族に使える騎士、ドドリーゴだ」
ドドリーゴは褐色の肌にドレットヘアーのイカツイ頭を下げてくれた。
アテネポリス・・・やっぱり記憶に無い・・・何処なんだ?
「俺はシチリアポリスのアレス、一応冒険者だ。
少し聞きたいのだが」
「ああ、何でも聞いてくれ。シチリアポリスとは聞いた事の無いポリスだな。
あ、主に報告が終ったら一緒にアテネポリスに向かうか?
質問はその時でも良いだろうか?」
丁度情報収集もだが、町に行きたかったので了承した。
暫く待っていると、馬車から美しい女性が出てきた。
「この度は、お助けいただき感謝します。
私はアテネポリスの第二王女 アーリアと言います。
しばしの間よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるアーリアの言葉に質問を受け付ける理由がわかった。
護衛が減りこの先が心配なのだろう、そう素直に言えばいいのに・・・
ドドリーゴに話を聞くうちに、どうやら俺は異世界に飛ばされたのかもと感じ始めていた。
倒した盗賊はアイテムにならないし、血の感覚が妙にリアルだった。
何より、殺されたプレイヤーが復活しないのだ・・・どうやら敵は赤く、味方は青く地図に表示されると解った。
そして、俺のマップはドドリーゴ達には見えない。
それが解った時に、俺は少し嬉しくなった。
見えない現実が有る元の世界より、見えるそして何よりゲームの中の技術が使えるこの世界で生きてみたいと感じていた。
鈴もニケも俺の事を心配しているだろうが、負い目を感じつつ生きて欲しくない。
きっと時が経てば落ち着くだろうと思いたい。
ともかく帰る術は保険で探しておくとするが。
帰れない限り、俺は此処で生きていこう。そう思って現実を受け入れた俺は、少し先に見えるアテネポリスでの生活に胸を躍らせていた。
「え~鈴は~おにいちゃん嫌~い」
鈴は私の提案に嫌そうに、いや、確実に嫌だと却下しようとしてきた。
「少しは考えなよ。私だってお兄ちゃんは嫌だけどさ、パパやママはゲーム、特にVRには反対でしょ?
それにお兄ちゃんはゲーム苦手だけど頼めばちゃんと付き合ってくれるじゃん」
私の言葉に頬に人差し指を当ててう~んと悩み始める鈴、この癖が出た時は後一押しの時だ。
鈴も私もVRMMO「オリンポスファンタジー」をやりたいのは同じなんだ。
「それに、お兄ちゃんには生産でもさせておけば初期の回復アイテムとか充実するじゃん」
「そうだね~、仕方ない、おにいちゃんを利用しよう~」
私達は口うるさいけど、最後にはちゃんとお願いを聞いてくれる都合の良い相手のお兄ちゃんを利用しようして、「オリンポスファンタジー」を始めたのだった。
まさかあんなことになるとは思いもせずに・・・。
世界最大のVRMMORPG「オリンポスファンタジー」
あまりのリアリティーと無数に広がる習得スキルによる職業システム。
スキルレベルはあるが、個人にはレベルは無く、プレイヤーの強さはスキルレベルとプレイヤースキルによって決まる。
そして公開から1年後にはプレイヤーランキングによるインセンティブ形式が開始。上位10人には1位からインセンティブ+賞金が貰え、それ以外のプレイヤーも毎月もらえるポイントを交換する事で生活できる者も数多く居た。
更に人気を生み出したのは、オリンポスファンタジーには2年前に追加されたアイドルという職業があり、アイドルはプレイヤーにポイントを入れてもらうことでランキングが決まり、同じ様に上位10組には賞金とインセンティブがもらえ、下100位に入ればインセンティブがもらえるため、かなりの人数のアイドルが生まれていた。
アイドルはその人気ゆえに、上位10位は一般プレイヤーと会話や接触を出来る限り制限されており、正にリアルのアイドルと変わらない扱いになっていた。
その中でも常にトップを走り続けるアイドルが居た。
双子のユニット「アテナ」長女の「パラス」はおっとりとした性格と次女の「ニケ」はボーイッシュな性格。二人はプレイヤーランキング3位でもあり、歌と踊り、ビジュアル、そして何より戦闘しながらのライブコンサートが出来るのは未だにアテナの二人だけだった。
実はあまり知られていないが、ライブコンサートにはもう一人、アテナの二人の兄が必ず参加していた。
兄はアレスと言い、プレイヤーランキング1位の無敵の存在であったが、他のプレイヤー達からはアテナの金魚の糞、アテナのおこぼれでランカーなんだと言われ疎まれていた。
アテナはその事に気がついていなかったが、アレス自体はそれを知っていたがために、一人での狩りもかなり行なっていたのだが、嫉妬に狂った者は気がつくはずもなかった。
「パラスちゃん、今日も良かったよ」
この日もアテナのライブコンサートが終わり、さあ引き上げようとしていた時に、突然シーフ系の男が声をかけてきた。
「ありがとう、でも、ごめんねお話できないルールだから」
「それに、急に接触は禁止だよ」
アテナの二人が注意すると、男はアレスを指差し唾を撒き散らしながら
「その男は良いのかよ!俺のほうが二人を幸せに出来る!
こんな男こうだ!」
男はアレスに向かって黒い結晶を投げつけると、慌てて伸ばしたアレスの右手以外を結晶が黒い幕で包み込み、アレスを消し去ってしまった。
その場にはアレスの右手だけが残っていた。
”警告! プレイヤーが禁足事項及びプレイヤーに対する違法アイテムの使用により麻痺処置を行い警察に報告しました。
なおこのプレイヤーと今から接触した場合は、警察の事情聴取対象となります”
警告が出た後男は消えたが、そんな事に見向きもせず、二人はアレスの右腕を抱きかかえ、アレスにチャットコールを鳴らし続けるが一向に繋がらない。
「お、お兄ちゃん無事でいて」
「もう、あんな事はごめんだよぉ」
二人は兄に負い目が有った。
今から5年前。二人がまだ14歳の時、どうしても「オリンポスファンタジー」をやりたかったが、当時は年齢制限に引っかかり、18歳以上の大人と一緒にする必要が有り、無理やり兄を巻き込んだのだった。
「まったく・・・お前達は欲望に素直だな。
そんな所は父さんにそっくりだな・・・」
そう言って頬をかきながら笑った兄を利用して始めたVRMMORPGは楽しかった。
最初のチュートリアルで何度も念を押されたのが、ログアウトする時は必ずポーションで傷を治してからと。
目隠しされた人間が焼けた鉄の棒だと思い込まされて紙の筒を押し付けられると火傷するのと同じで、怪我をしたままログアウトすると、同じ様な怪我をする恐れが有るからだと言われていた。
これが18歳以上の大人が子供を監督する理由だった。
二人は順調に冒険を続け、兄は気楽に生産採取をして二人をサポートする日々が続いたある日。
二人は嫌がるアレスを連れて新発見のダンジョンの攻略にやって来た。
ボス部屋までアレスが採取したアイテムを錬金術で変化させてサポートしていったお陰で、さくさくと進むことが出来た。
「二人共、今日は一旦町に帰らないか?装備も傷だらけだしさ」
「お兄ちゃんは攻略をしないから解らないんだろうけど、此処は行ってしまわないと他のプレイヤーに持ってかれちゃうんだよ」
「そうよ~おにいちゃんの錬金も有るし~行けるわよ~」
二人はそう言ってボス部屋に入って行ってしまった。ボス部屋には2メートルを超えるアルケーニが居た。
上半身は美しい女性で下半身は蜘蛛の姿を見て、アレスは「蜘蛛苦手なんだよな~」と心の中で思っていたが。
二人の妹は次々にダメージを与えて行き、あっと言う間にアルケーニを倒してしまった。
地面に横たわるアルケーニの側で飛び上がって喜ぶ二人をホッとした目で見つめていたが、一つ違和感を感じていた。
モンスターは倒されると光になってアイテムに変わるはず・・・
「危ない!」
アレスはパラスを突き飛ばすと、同時にアルケーニの長い足がアレスの両目を切り裂いた。
「がぁぁぁ・・・」
「お兄ちゃん!こいつ!」
ニケがアルケーニの心臓部分を突き刺し、アイテムに変わるのを確認して、アレスに駆け寄る。
パラスは慌てたようにログアウトすると、そのまま兄の部屋に駆け込み、ヘッドギアから流れる血を見てヘッドギアを外してしまった。
ポーションを使おうとしたニケの前で消えた兄に、現実で起きた事がわかったニケも慌ててログアウトして、兄の部屋に駆け込むと、血塗れの兄の頭を抱いて呆然としているパラス(鈴)が居た。
ニケ(本名)は慌てて救急車を呼び、親に連絡をしたりとした。
この日兄は視力を失い、暫くは三人とも「オリンポスファンタジー」にログインする事無く過ごしていた。
兄はけっして自分達を責める事も無く、二人が無事でよかったよと笑っていた。
その日々が二人には自分達を責めない兄に罪悪感が募り、苦しい日々が続いた。
半年経ったある日、兄が新型のヘッドギアで「オリンポスファンタジー」にログインしている事に気がついた。
「何で!何でおにいちゃんはあのゲームにログインできるのよ!」
そう問いかけるニケに、兄は困ったような顔をして
「新型のヘッドギアなら現実で目が見えなくても、ゲーム内なら見えるんだよ。
だから、気晴らしになるんだ」
衝撃だった。ニケは兄のサポートをするために再び「オリンポスオンライン」を始めた。
パラスも引きずられるように復帰して、気がつけばアイドルに成り、アイドルランキング1位を独占し続けた。
アレスは連続12時間とか睡眠以外ほぼ「オリンポスオンライン」に入り込み、元々人が想像しないようなスキルの使い方が得意なので、瞬く間にランキング上位に駆け上がっていった。
有名になるにつれて、アレスは別行動をしようと言ってきたが、二人はアレスから離れることが出来なかった。
アレスの眼を奪ったトラウマが別行動を拒否させていた。
そのせいで今回の事件が起きたと思うと、心が潰されそうになっていた。
兄が無事だか確認するだけと、動揺しているパラスを残しニケはログアウトした。
そして・・・右腕だけを残して兄の姿は消えていたのを見たときは流石にニケも絶叫して泣き叫んだ。
いつまで経っても帰ってこないニケを心配してログアウトしたパラスが見たのは、いつかの自分を彷彿さとさせるような血塗れのニケと兄の腕・・・
この日世界を騒がせたアレス消滅事件が起きたのだった。
アレスサイド
俺は鳳 悠馬 23歳 男
ゲーム内で無茶な転移をさせられたんだろうな、と現状は理解できてるし、失った右手にハイポーションをかけたが生えてこないところを見ると、まだあの場所に俺の腕は存在してるんだろうな。
「メニューGMコール・・・」
はて?何時もならサッと出てくるメニューが出ないぞ?
「コード、メニュー/GMコール」
??反応が無い・・・バグか?
「マップ展開」
俺は出てきたマップを見て唖然とした。
ゲームで生活の資金を稼いでいた俺は、オリンポスオンラインのマップは全部頭に入っている・・・
だが、展開されたマップは俺が知らないマップで、近くに5人のプレイヤーと18人の盗賊のマーカーが出ていた。
「・・・これはイベントかな?
両利きだから戦闘には問題ないか・・・」
イベントの場所に駆け出しながら、俺はステータスを確認してみた。
”アレス 男 LV1000(MAX)
HP5972/9999 MP 8725/9999
職業1 ソードマン 職業2 シノビ 職業3 アルケミスト 職業4 ――――
二刀流LV99
ソードマスタリーLV99
レイジングエッジLV99
スローイングナイフLV95
跳躍LV97
気配遮断LV99
ムービングLV97
暗殺LV94
錬金術LV99
錬金魔法LV99
鑑定LV99
魔法陣眼 LV87
・・・etcノンアクティブ
う~ん全部アクティブにすると脳に負担がかかるから、職業に必要な物だけにしていたけど、ここまで絞り込んでないはずなんだが・・・まぁ良いか、ムービングのお陰で目的地まで直ぐだしな。
走りながら、失った右手の変わりに成りそうなリビングアーマーの篭手を装着してみると、あっさりと馴染んだ・・・俺の生み出す錬金兵の一つだが、此処まで馴染むかね。
不便じゃないから良いが、ためしに早速リビングアーマーの篭手で剣を握ってみる・・・うん、問題ない・・・。
俺は更に速度を上げてイベントポイントに駆けて行った。プレイヤーが2人減ったのだ。
更に一人減った所で俺のスローイングナイフの射程圏内に盗賊を確認できた。
俺は素早くアイテムボックスからナイフを8本取り出すと、盗賊の首に向けて投げつけて8人倒した。再び8本のナイフを投げ、更に8人を倒し、残り二人をレイジングエッジで一気に首を飛ばすと、戦闘はあっさりと終了した。
「大丈夫か?」
呆然としているプレイヤーに声をかけると一人が答えてくれた。
「た、助かった・・・礼を言う。
俺はアテネポリスの王族に使える騎士、ドドリーゴだ」
ドドリーゴは褐色の肌にドレットヘアーのイカツイ頭を下げてくれた。
アテネポリス・・・やっぱり記憶に無い・・・何処なんだ?
「俺はシチリアポリスのアレス、一応冒険者だ。
少し聞きたいのだが」
「ああ、何でも聞いてくれ。シチリアポリスとは聞いた事の無いポリスだな。
あ、主に報告が終ったら一緒にアテネポリスに向かうか?
質問はその時でも良いだろうか?」
丁度情報収集もだが、町に行きたかったので了承した。
暫く待っていると、馬車から美しい女性が出てきた。
「この度は、お助けいただき感謝します。
私はアテネポリスの第二王女 アーリアと言います。
しばしの間よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるアーリアの言葉に質問を受け付ける理由がわかった。
護衛が減りこの先が心配なのだろう、そう素直に言えばいいのに・・・
ドドリーゴに話を聞くうちに、どうやら俺は異世界に飛ばされたのかもと感じ始めていた。
倒した盗賊はアイテムにならないし、血の感覚が妙にリアルだった。
何より、殺されたプレイヤーが復活しないのだ・・・どうやら敵は赤く、味方は青く地図に表示されると解った。
そして、俺のマップはドドリーゴ達には見えない。
それが解った時に、俺は少し嬉しくなった。
見えない現実が有る元の世界より、見えるそして何よりゲームの中の技術が使えるこの世界で生きてみたいと感じていた。
鈴もニケも俺の事を心配しているだろうが、負い目を感じつつ生きて欲しくない。
きっと時が経てば落ち着くだろうと思いたい。
ともかく帰る術は保険で探しておくとするが。
帰れない限り、俺は此処で生きていこう。そう思って現実を受け入れた俺は、少し先に見えるアテネポリスでの生活に胸を躍らせていた。
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