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後日談第五話 叶った願い
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お出かけデート、そして甘やかな夜を経てからというもの、ヒューパート様は今までよりも素直になった気がする。
とはいえすぐに顔を赤くするし、言動の基本はツンデレだけれど……距離感がさらに縮まった。
わたくしを見つめてくれる時間が増えたり想いを行動で伝えてくるようになったり。
ほんの些細なことばかりだが、その全てが嬉しくてたまらない。
あまりに毎日が幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだ。
ヒューパート様と共に城でまったり過ごしながら何気ない会話を交わすのも、お出かけするのも、全部が楽しく心が躍った。
そんな幸福の最中、わたくしたちの元にますます喜ばしい出来事が訪れる。
それは――。
「ジェシカ妃殿下、ご懐妊でございます」
少しめまいを起こしたことがきっかけで王宮医にかかり、わたくしが新たな命を宿していると診断された。
皇太子妃の子。つまり、皇子あるいは皇女になる者だ。
「やったな、ジェシカ!」
紅の瞳を輝かせ、ヒューパート様がわたくしの腹部に触れる。
きっと中で幼な子の形を成したばかりの子が蠢いているのが感じられただろう。
「これで本当の本当に、離縁の危機は去りましたのね」
離縁騒動があってから半年ほど。
思ったより早くに皇帝陛下から提示された結婚継続条件を達成し、わたくしたちの愛の結晶は実ったらしい。
もちろん大変なのはこれからだ。わたくしは常に体を労って生きていかなければならないし、子が何事もなく生まれてくるとは限らない。
でも。
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。私が傍についていてやるからな。あ、もちろんお前が良かったらの話だが」
「……ありがとうございます」
ヒューパート様から力強い言葉をもらえたから、わたくしは静かに頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――それは、窓から差し込む月明かりが綺麗な晩のことだった。
クロエをはじめとした数人の侍女と王宮医に見守られ、そしてヒューパート様に手を握られる中、一つ、そしてまた一つと産声が上がった。
そう、二つだ。誕生したのは女児と男児の双子。
困難を極める出産を、わたくしはやり遂げたのである。
「可愛いな。ジェシカの娘と息子だけはある」
「……抱いてあげて、くださいませ」
「ああ」
わたくしが頼むと、ヒューパート様は泣きじゃくる子らを抱き上げてくれる。
それから「産んでくれて……そしてジェシカが無事でいてくれて良かった」と美しい微笑と共に告げられた。
たったそれだけで疲れも痛みも吹き飛んでしまうのだからわたくしはどこまでも単純だ。
「ヒューパート様のおかげです」
「そんなことはない。さあ、早速この子らに名前をつけなくてはな。娘はジェシカのように美しく、息子にはジェシカのように利口に育つように」
「わたくしをお褒めいただくのは嬉しいですけれども……ヒューパート様似でも悪くないと思いますわよ?」
「それは困る。私に似たらろくに愛しい相手への想いも伝えられないヘタレのダメ男になるだろう」
「それもそうですわね。でもきっと、どんな子に育っても可愛いですわ」
あまりに平和で愛おしい会話に頬が緩む。
そうしながらわたくしはふと、幼き頃の願いを思い出した。
『殿下に愛され笑顔を向けられ、その隣で幸せに微笑む』。
叶わないものと思っていたからアンナ嬢たちとのダブルデートをした時には偽りの願いをしたものだけれど。
こんな最高の形で真の望みが叶うなんて、思いもしなかった。
我が子たちの成長が今から楽しみだ。
サラ様も最近ご懐妊されたと聞くし、今までより賑やかで楽しい毎日になるに違いない。
この幸せがますます大きくなり、続いていきますよう。
わたくしたちを祝福するように空に浮かぶ月へ、新たなる願いごとをした。
~完~
とはいえすぐに顔を赤くするし、言動の基本はツンデレだけれど……距離感がさらに縮まった。
わたくしを見つめてくれる時間が増えたり想いを行動で伝えてくるようになったり。
ほんの些細なことばかりだが、その全てが嬉しくてたまらない。
あまりに毎日が幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだ。
ヒューパート様と共に城でまったり過ごしながら何気ない会話を交わすのも、お出かけするのも、全部が楽しく心が躍った。
そんな幸福の最中、わたくしたちの元にますます喜ばしい出来事が訪れる。
それは――。
「ジェシカ妃殿下、ご懐妊でございます」
少しめまいを起こしたことがきっかけで王宮医にかかり、わたくしが新たな命を宿していると診断された。
皇太子妃の子。つまり、皇子あるいは皇女になる者だ。
「やったな、ジェシカ!」
紅の瞳を輝かせ、ヒューパート様がわたくしの腹部に触れる。
きっと中で幼な子の形を成したばかりの子が蠢いているのが感じられただろう。
「これで本当の本当に、離縁の危機は去りましたのね」
離縁騒動があってから半年ほど。
思ったより早くに皇帝陛下から提示された結婚継続条件を達成し、わたくしたちの愛の結晶は実ったらしい。
もちろん大変なのはこれからだ。わたくしは常に体を労って生きていかなければならないし、子が何事もなく生まれてくるとは限らない。
でも。
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。私が傍についていてやるからな。あ、もちろんお前が良かったらの話だが」
「……ありがとうございます」
ヒューパート様から力強い言葉をもらえたから、わたくしは静かに頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――それは、窓から差し込む月明かりが綺麗な晩のことだった。
クロエをはじめとした数人の侍女と王宮医に見守られ、そしてヒューパート様に手を握られる中、一つ、そしてまた一つと産声が上がった。
そう、二つだ。誕生したのは女児と男児の双子。
困難を極める出産を、わたくしはやり遂げたのである。
「可愛いな。ジェシカの娘と息子だけはある」
「……抱いてあげて、くださいませ」
「ああ」
わたくしが頼むと、ヒューパート様は泣きじゃくる子らを抱き上げてくれる。
それから「産んでくれて……そしてジェシカが無事でいてくれて良かった」と美しい微笑と共に告げられた。
たったそれだけで疲れも痛みも吹き飛んでしまうのだからわたくしはどこまでも単純だ。
「ヒューパート様のおかげです」
「そんなことはない。さあ、早速この子らに名前をつけなくてはな。娘はジェシカのように美しく、息子にはジェシカのように利口に育つように」
「わたくしをお褒めいただくのは嬉しいですけれども……ヒューパート様似でも悪くないと思いますわよ?」
「それは困る。私に似たらろくに愛しい相手への想いも伝えられないヘタレのダメ男になるだろう」
「それもそうですわね。でもきっと、どんな子に育っても可愛いですわ」
あまりに平和で愛おしい会話に頬が緩む。
そうしながらわたくしはふと、幼き頃の願いを思い出した。
『殿下に愛され笑顔を向けられ、その隣で幸せに微笑む』。
叶わないものと思っていたからアンナ嬢たちとのダブルデートをした時には偽りの願いをしたものだけれど。
こんな最高の形で真の望みが叶うなんて、思いもしなかった。
我が子たちの成長が今から楽しみだ。
サラ様も最近ご懐妊されたと聞くし、今までより賑やかで楽しい毎日になるに違いない。
この幸せがますます大きくなり、続いていきますよう。
わたくしたちを祝福するように空に浮かぶ月へ、新たなる願いごとをした。
~完~
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