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第5話 女子生徒からの嫉妬
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綾小路にはつくづく頭を悩まさせられる。
彼の意味不明な態度もそうだが、彼と近い距離で過ごすということ自体、厄介事を孕んでいるのだ。……あくまで綾小路とは基本的に昼休みと部活だけの付き合いで、それ以外では関わっていないとしても。
廊下を歩くだけで人の目を引く、それが綾小路という男である。
彼の周りにはいつも誰か、主に女子いた。
昼休みによく「オレって人気者なんだよねぇ。困っちゃうよ」などと、愚痴だか自慢だかわからないことを言う綾小路。
彼が異常に知名度が高いのは事実で、入学数ヶ月であっという間に学校の王子様的存在になってしまっている。クラスメートから果ては全く関わりのなさそうな先輩まで、その数は留まるところを知らない。
余談だが、なぜ昼休みに単身で屋上へ来られるのかが謎である。
軽薄で接しやすそうな性格であるし、圧倒的な顔の良さを考えると当然なのだが……。
――こうなるのが目に見えてたから、チャラ男に絡まれたくなかったんだよなぁ。
「あなたが演劇部の小林駿さんですね?」
ある日の放課後。
部活を終えて校門を抜けようとしていた時、僕の目の前に一人の少女が立ちはだかった。
おかっぱ頭に少し気崩したセーラー服が印象的なその少女は、敵意を隠しもせずに僕を睨みつけている。
ちなみに僕の覚えている限りで面識はない。が、きっと彼女にとってそんなことは関係がないのだろう。
「演劇部の友達から聞きました。綾小路くん、やたらとあなたと距離が近いんだとか」
「……君は?」
「私は綾小路くんの同級生で、一番の友達です」
一番の、を強調するのは、牽制のつもりなのか。
僕は呆れて小さく苦笑してしまった。
「何がおかしいんですか!」
「いや……悪いけど、そんなことを言われても」
「まさか綾小路くんと最も仲がいいのは自分だとおっしゃる!? やめてください。綾小路くんの一番は私です。私なんです!!」
感情を昂らせるあまり、彼女の双眸から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
ダメだ。思い込みが激し過ぎて話にならない。
完全に目の前の女子生徒が暴走状態なのは明らかである。女の嫉妬、恐るべし。
「優しくて純情な綾小路くんをたぶらかして! 一体あなたは綾小路くんの何なんですか! あなたなんか、綾小路くんの視界の端に入ることすら烏滸がましいです。背丈はチビで顔面もパッとしない、地味を突き詰めたような男のくせに!」
「うっ……」
なんという言われよう。
綾小路と並んだら僕の姿なんて完全に霞んでしまうのは事実ではある。だからこそ罵倒の言葉に胸を抉られた。
ここまで言われたら少しは言い返してやりたい気持ちになるが、そうもいかない。
だって相手は下級生の女の子である。しかも結構見た目が可愛らしいから、下手に邪険に扱いづらいのだ。
綾小路はひと足先に帰ったあとなので、彼に仲裁を頼むのも不可能。
さて、どうしたものか。
ぐるぐると思考を巡らせているうち、事態はさらに悪化した。
「なんか泣いてるぞ」
「誰だ、あれ」「一年の女子と……男の方はわからん。二年か?」
ここは校門前。こんなところで言い争っていたら、部活帰りの生徒たちが集まってくるのも当然だった。
これはまずい。かなりまずい。早めに人目のつかない場所へ移動しておけば良かった、などと後悔しても遅かった。
これでは完全に『一年生を泣かせているひどい先輩』の図になってしまう。
――詰んだ。
途方に暮れて、軽く意識が遠のきかけた瞬間。
ここにいるはずのない声がした。
「戻ってきた途端なんか騒がしいなぁと思ったら、駿先輩と宮本じゃん」
あ、と女子生徒――宮本という名前らしい――が小さく声を漏らし、顔を上げる。
彼女の視線の先にあったのはゾッとするほど冷え切ったエメラルド色の瞳。そして感情を削ぎ落としたような無表情だった。
「綾小路、くん……?」
「ねぇ宮本。僕の駿先輩に何してくれてるのかな」
女の嫉妬は恐ろしい。
だが、綾小路の方がもっと恐ろしいのかも知れない。
彼の意味不明な態度もそうだが、彼と近い距離で過ごすということ自体、厄介事を孕んでいるのだ。……あくまで綾小路とは基本的に昼休みと部活だけの付き合いで、それ以外では関わっていないとしても。
廊下を歩くだけで人の目を引く、それが綾小路という男である。
彼の周りにはいつも誰か、主に女子いた。
昼休みによく「オレって人気者なんだよねぇ。困っちゃうよ」などと、愚痴だか自慢だかわからないことを言う綾小路。
彼が異常に知名度が高いのは事実で、入学数ヶ月であっという間に学校の王子様的存在になってしまっている。クラスメートから果ては全く関わりのなさそうな先輩まで、その数は留まるところを知らない。
余談だが、なぜ昼休みに単身で屋上へ来られるのかが謎である。
軽薄で接しやすそうな性格であるし、圧倒的な顔の良さを考えると当然なのだが……。
――こうなるのが目に見えてたから、チャラ男に絡まれたくなかったんだよなぁ。
「あなたが演劇部の小林駿さんですね?」
ある日の放課後。
部活を終えて校門を抜けようとしていた時、僕の目の前に一人の少女が立ちはだかった。
おかっぱ頭に少し気崩したセーラー服が印象的なその少女は、敵意を隠しもせずに僕を睨みつけている。
ちなみに僕の覚えている限りで面識はない。が、きっと彼女にとってそんなことは関係がないのだろう。
「演劇部の友達から聞きました。綾小路くん、やたらとあなたと距離が近いんだとか」
「……君は?」
「私は綾小路くんの同級生で、一番の友達です」
一番の、を強調するのは、牽制のつもりなのか。
僕は呆れて小さく苦笑してしまった。
「何がおかしいんですか!」
「いや……悪いけど、そんなことを言われても」
「まさか綾小路くんと最も仲がいいのは自分だとおっしゃる!? やめてください。綾小路くんの一番は私です。私なんです!!」
感情を昂らせるあまり、彼女の双眸から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
ダメだ。思い込みが激し過ぎて話にならない。
完全に目の前の女子生徒が暴走状態なのは明らかである。女の嫉妬、恐るべし。
「優しくて純情な綾小路くんをたぶらかして! 一体あなたは綾小路くんの何なんですか! あなたなんか、綾小路くんの視界の端に入ることすら烏滸がましいです。背丈はチビで顔面もパッとしない、地味を突き詰めたような男のくせに!」
「うっ……」
なんという言われよう。
綾小路と並んだら僕の姿なんて完全に霞んでしまうのは事実ではある。だからこそ罵倒の言葉に胸を抉られた。
ここまで言われたら少しは言い返してやりたい気持ちになるが、そうもいかない。
だって相手は下級生の女の子である。しかも結構見た目が可愛らしいから、下手に邪険に扱いづらいのだ。
綾小路はひと足先に帰ったあとなので、彼に仲裁を頼むのも不可能。
さて、どうしたものか。
ぐるぐると思考を巡らせているうち、事態はさらに悪化した。
「なんか泣いてるぞ」
「誰だ、あれ」「一年の女子と……男の方はわからん。二年か?」
ここは校門前。こんなところで言い争っていたら、部活帰りの生徒たちが集まってくるのも当然だった。
これはまずい。かなりまずい。早めに人目のつかない場所へ移動しておけば良かった、などと後悔しても遅かった。
これでは完全に『一年生を泣かせているひどい先輩』の図になってしまう。
――詰んだ。
途方に暮れて、軽く意識が遠のきかけた瞬間。
ここにいるはずのない声がした。
「戻ってきた途端なんか騒がしいなぁと思ったら、駿先輩と宮本じゃん」
あ、と女子生徒――宮本という名前らしい――が小さく声を漏らし、顔を上げる。
彼女の視線の先にあったのはゾッとするほど冷え切ったエメラルド色の瞳。そして感情を削ぎ落としたような無表情だった。
「綾小路、くん……?」
「ねぇ宮本。僕の駿先輩に何してくれてるのかな」
女の嫉妬は恐ろしい。
だが、綾小路の方がもっと恐ろしいのかも知れない。
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