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第3話 告白?
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綾小路が演じた恋する少年は、とても情熱的だった。
練習用の台本の舞台は近未来SF。国家的組織がいくつかに分かれて抗争が行われる中で、少年少女の青春ラブストーリーが描かれている。
少年は、劇の主人公である少女に想いを向けられていて、それを知っているくせに、ふらりと現れた別の女――スパイに惚れ込んでしまうという役回りだった。
少年の切なく求めるような目つき。女主人公に悪いと思うかたわらで身を焦がす恋に悶え、ぽつりと漏らす「好きなんだ」という言葉。
何もかもが痛いほど心に響いてくる。モブ役として控えていた僕は、思わず彼から目が離せなくなってしまった。
彼の視線の先がなぜだかこちらに向けられていた気がしたが、演技に魅入られていたせいでさして気になることなく……ただ、思った。
――やっぱりめちゃくちゃ上手いじゃないかよ。
とはいえ、有能な新入部員が入ってきたことは演劇部にとって決して悪いことではない。むしろ歓迎すべきなのだ。
他の演劇部員は口々に彼を褒め称えた。仕方ないから僕も「すごかったですね」と先輩に同調するようにして言っておいた。
綾小路に直接称賛を伝えるのは、なんだか悔しかったので。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それなのに綾小路は、わざわざ学校の屋上にまでやって来てまで問うてきた。
「ねぇ、この前の台本読み練習、オレの演技はどうだった?」
「どうって……」
「やれば意外にできるもんだね、演技って。それともオレが才能あるってことか!」
フェンスに長身を預ける彼はけらけらと楽しそうに声を立てながら、「駿先輩から見た忌憚のない意見を教えてほしいなって思うんだけど」などと質問を重ねる。
こちらの明らかに嫌そうな顔が見えないのだろうか。あまりの無遠慮さにため息も出ない。
普段なら、この屋上は僕の憩いの場だったりする。静かで誰にも心を乱されることがなかったからだ。……この時までは。
誰だ、僕の居場所を知らせた奴は。ひっそりこっそり過ごしていたにもかかわらず、よりによって綾小路に知られ、足を踏み入れられたのだから最悪だった。
本当は立ち入り禁止の場所なので、僕も含めてここにいてはいけないのだが。
「自慢話をするためにここまで来たのか?」
「まあ、そんなところ。それと駿先輩と一緒に過ごしたいってのもあるかな。これから毎日ここに来てみてもいいかも」
言葉はへらへらとしているのに、エメラルド色の瞳はじっと僕を見つめて離さない。
なんとも言えない圧に気圧されてしまい、僕はただ息を呑んだ。
「なんで……どうして僕なんだ? 他にももっと頼れる先輩がいるだろ」
どうしてなのだろう。
どうしてこの後輩は、僕に執拗に擦り寄ろうとする?
別に僕に媚びを売って得があるとでもいうのか。
部活を一年以上それなりに頑張ってきたのに、あっさりと後輩に負けてしまった雑魚部員、それが僕だ。
それなのに、どうして。
「だって駿先輩……いや、君のことが好きだから」
――。
――――。
――――――――――???
風に乗って耳心地のいい声が届いた瞬間、頭の中が空白と疑問符で埋め尽くされた。
「――えっ」
「確かに頼れる先輩は他にもいるよ? でも好きなのは君だけだ」
告げられた言葉の意味を理解できたのは、どれほど経ってからだったろうか。
十秒かも知れない。三十秒か一分か、それ以上だったようにも思えたが、本当のところはわからない。
何せ、あまりにいきなり過ぎた。ここで『好きだから』なんて台詞が飛び出すと誰が予想できるというのか。
少なくとも僕には無理だった。
棒立ちになって口を半開きにした僕を、綾小路が可笑しそうに笑う。まるで小悪魔のように。
「ふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
彼はすぐそう言ったものの、煙に巻かれたようにしか思えない。
彼の目つきは、台本読みの時に見た切なく求めるようなそれだったから。
練習用の台本の舞台は近未来SF。国家的組織がいくつかに分かれて抗争が行われる中で、少年少女の青春ラブストーリーが描かれている。
少年は、劇の主人公である少女に想いを向けられていて、それを知っているくせに、ふらりと現れた別の女――スパイに惚れ込んでしまうという役回りだった。
少年の切なく求めるような目つき。女主人公に悪いと思うかたわらで身を焦がす恋に悶え、ぽつりと漏らす「好きなんだ」という言葉。
何もかもが痛いほど心に響いてくる。モブ役として控えていた僕は、思わず彼から目が離せなくなってしまった。
彼の視線の先がなぜだかこちらに向けられていた気がしたが、演技に魅入られていたせいでさして気になることなく……ただ、思った。
――やっぱりめちゃくちゃ上手いじゃないかよ。
とはいえ、有能な新入部員が入ってきたことは演劇部にとって決して悪いことではない。むしろ歓迎すべきなのだ。
他の演劇部員は口々に彼を褒め称えた。仕方ないから僕も「すごかったですね」と先輩に同調するようにして言っておいた。
綾小路に直接称賛を伝えるのは、なんだか悔しかったので。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それなのに綾小路は、わざわざ学校の屋上にまでやって来てまで問うてきた。
「ねぇ、この前の台本読み練習、オレの演技はどうだった?」
「どうって……」
「やれば意外にできるもんだね、演技って。それともオレが才能あるってことか!」
フェンスに長身を預ける彼はけらけらと楽しそうに声を立てながら、「駿先輩から見た忌憚のない意見を教えてほしいなって思うんだけど」などと質問を重ねる。
こちらの明らかに嫌そうな顔が見えないのだろうか。あまりの無遠慮さにため息も出ない。
普段なら、この屋上は僕の憩いの場だったりする。静かで誰にも心を乱されることがなかったからだ。……この時までは。
誰だ、僕の居場所を知らせた奴は。ひっそりこっそり過ごしていたにもかかわらず、よりによって綾小路に知られ、足を踏み入れられたのだから最悪だった。
本当は立ち入り禁止の場所なので、僕も含めてここにいてはいけないのだが。
「自慢話をするためにここまで来たのか?」
「まあ、そんなところ。それと駿先輩と一緒に過ごしたいってのもあるかな。これから毎日ここに来てみてもいいかも」
言葉はへらへらとしているのに、エメラルド色の瞳はじっと僕を見つめて離さない。
なんとも言えない圧に気圧されてしまい、僕はただ息を呑んだ。
「なんで……どうして僕なんだ? 他にももっと頼れる先輩がいるだろ」
どうしてなのだろう。
どうしてこの後輩は、僕に執拗に擦り寄ろうとする?
別に僕に媚びを売って得があるとでもいうのか。
部活を一年以上それなりに頑張ってきたのに、あっさりと後輩に負けてしまった雑魚部員、それが僕だ。
それなのに、どうして。
「だって駿先輩……いや、君のことが好きだから」
――。
――――。
――――――――――???
風に乗って耳心地のいい声が届いた瞬間、頭の中が空白と疑問符で埋め尽くされた。
「――えっ」
「確かに頼れる先輩は他にもいるよ? でも好きなのは君だけだ」
告げられた言葉の意味を理解できたのは、どれほど経ってからだったろうか。
十秒かも知れない。三十秒か一分か、それ以上だったようにも思えたが、本当のところはわからない。
何せ、あまりにいきなり過ぎた。ここで『好きだから』なんて台詞が飛び出すと誰が予想できるというのか。
少なくとも僕には無理だった。
棒立ちになって口を半開きにした僕を、綾小路が可笑しそうに笑う。まるで小悪魔のように。
「ふっ、ごめんごめん。冗談だよ」
彼はすぐそう言ったものの、煙に巻かれたようにしか思えない。
彼の目つきは、台本読みの時に見た切なく求めるようなそれだったから。
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