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後日談第一話 嫁入り準備
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アルトからの求婚を受けた私は、アロッタ公爵家を出てウィルソン侯爵家の夫人となる。
これで二度目の嫁入り。しかし今度は愛のない結婚ではなく、きちんと互いに想い合ってのものだ。だから一度目の時と違ってきちんと結婚式は挙げたい。
私がそう言うと、アルトは喜んで式の日取りを決めてくれた。
「式は半月後、ウィルソン侯爵家で開こうと思う。少し早過ぎるかも知れないけど大丈夫かな?」
「ええ、もちろん。だって一瞬でも早くに一緒になりたいですから」
ただ、大変なのは嫁入り準備だ。
普通は数ヶ月かけてドレスを選んだり会場を整えたりパーティー参加者を集めたりするものなのである。たった半月でどこまでやれるかが問題だった。
(ですがやって見せます。長年夢見た彼との結婚がようやく叶うんですもの)
でも一人だけではさすがに人手が足りない。そこで頼ることにしたのは――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「勝手にしろとおっしゃっていた割には結局私を頼るのね、お養母様は」
「私、使えるものは全て使う主義なのです。……そうそう、これからは私は侯爵夫人となるので名前で呼んでくださっても構いませんよ?」
「いいえ、私がこうして女公爵となれたのはお養母様のおかげだもの。歳は姉妹ほどしか離れていないけれどあなたのこと、尊敬しているわ」
「ふふっ。私のような悪女を尊敬するなんていけない人ですね」
私一人ではとても嫁入り準備が間に合わない。そう考えた私は、アロッタ公爵家本邸にやって来ていた。
ジェシーに手伝いを頼むためである。
「私、お養母様と違って日々執務で忙しいのよ。前公爵の汚名返上をしなければならないし、それから荒んだ領地の復興も必要だし……」
「なら私が資金援助しましょうか?」
「そういう問題ではなくて。――わかったわ、嫁入りの手伝いをしてあげます」
「感謝します」
ジェシーとの話は意外とすんなりと進んだ。
そして話し終えるなり、ジェシーはソファから立ち上がり、「さあ行きましょうか」と歩き出す。早速私のドレスと装飾品を買いに行くのである。
私は社交界に出るために最低限の装飾品やドレスなどを持っているが、それが結婚式に相応しいものかと問われれば否と答える。
せっかくの晴れ舞台、着飾るだけ着飾りたい。しかし誰の結婚式にも参加したことのない私ではしっかり選べる自信がなかったのでジェシーに選んでもらうことになったのだ。
アクセサリー店やかつて夜会のドレスを購入した懐かしの仕立て屋など、私たち二人は馬車で様々な店を巡った。
これまでゆっくり買い物をするような機会がなかったので非常に楽しい。結婚後はアルトと二人でどこかに出かけようとこっそり計画を立てながら、私は買い物を堪能した。
だがもちろん本来の目的を忘れたりはしない。思案に思案を重ねた結果、私の花嫁衣装が決まった。
「お養母様、とてもお似合いよ」
「ふふ、ありがとう」
鏡に写った己の姿を見つめる。
そこにいたのは、控えめに言って花のような美しい女だ。実際は毒花なのだけれど、誰もそうは思わないくらいには可憐だった。
(これならきっと新郎に見劣りしない立派な花嫁になれるでしょう)
アルトの横に立つ己の姿を想像し、思わず笑顔になる私。その時が今から待ち遠しくてならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからアロッタ公爵家から籍を抜く手続きや式の参加者集めなどを行っているうちに、あっという間に月日は過ぎていく。
嫁入り準備はこれで万端なはず。そわそわとして落ち着かないが悪女はそんな姿を見せないと己を律し、私は静かに運命の日を待った。
そして――。
「迎えに来たよ、エメリィ」
結婚式当日、公爵家へ直接やって来た彼に驚くと共に大歓喜することとなった。
これで二度目の嫁入り。しかし今度は愛のない結婚ではなく、きちんと互いに想い合ってのものだ。だから一度目の時と違ってきちんと結婚式は挙げたい。
私がそう言うと、アルトは喜んで式の日取りを決めてくれた。
「式は半月後、ウィルソン侯爵家で開こうと思う。少し早過ぎるかも知れないけど大丈夫かな?」
「ええ、もちろん。だって一瞬でも早くに一緒になりたいですから」
ただ、大変なのは嫁入り準備だ。
普通は数ヶ月かけてドレスを選んだり会場を整えたりパーティー参加者を集めたりするものなのである。たった半月でどこまでやれるかが問題だった。
(ですがやって見せます。長年夢見た彼との結婚がようやく叶うんですもの)
でも一人だけではさすがに人手が足りない。そこで頼ることにしたのは――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「勝手にしろとおっしゃっていた割には結局私を頼るのね、お養母様は」
「私、使えるものは全て使う主義なのです。……そうそう、これからは私は侯爵夫人となるので名前で呼んでくださっても構いませんよ?」
「いいえ、私がこうして女公爵となれたのはお養母様のおかげだもの。歳は姉妹ほどしか離れていないけれどあなたのこと、尊敬しているわ」
「ふふっ。私のような悪女を尊敬するなんていけない人ですね」
私一人ではとても嫁入り準備が間に合わない。そう考えた私は、アロッタ公爵家本邸にやって来ていた。
ジェシーに手伝いを頼むためである。
「私、お養母様と違って日々執務で忙しいのよ。前公爵の汚名返上をしなければならないし、それから荒んだ領地の復興も必要だし……」
「なら私が資金援助しましょうか?」
「そういう問題ではなくて。――わかったわ、嫁入りの手伝いをしてあげます」
「感謝します」
ジェシーとの話は意外とすんなりと進んだ。
そして話し終えるなり、ジェシーはソファから立ち上がり、「さあ行きましょうか」と歩き出す。早速私のドレスと装飾品を買いに行くのである。
私は社交界に出るために最低限の装飾品やドレスなどを持っているが、それが結婚式に相応しいものかと問われれば否と答える。
せっかくの晴れ舞台、着飾るだけ着飾りたい。しかし誰の結婚式にも参加したことのない私ではしっかり選べる自信がなかったのでジェシーに選んでもらうことになったのだ。
アクセサリー店やかつて夜会のドレスを購入した懐かしの仕立て屋など、私たち二人は馬車で様々な店を巡った。
これまでゆっくり買い物をするような機会がなかったので非常に楽しい。結婚後はアルトと二人でどこかに出かけようとこっそり計画を立てながら、私は買い物を堪能した。
だがもちろん本来の目的を忘れたりはしない。思案に思案を重ねた結果、私の花嫁衣装が決まった。
「お養母様、とてもお似合いよ」
「ふふ、ありがとう」
鏡に写った己の姿を見つめる。
そこにいたのは、控えめに言って花のような美しい女だ。実際は毒花なのだけれど、誰もそうは思わないくらいには可憐だった。
(これならきっと新郎に見劣りしない立派な花嫁になれるでしょう)
アルトの横に立つ己の姿を想像し、思わず笑顔になる私。その時が今から待ち遠しくてならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからアロッタ公爵家から籍を抜く手続きや式の参加者集めなどを行っているうちに、あっという間に月日は過ぎていく。
嫁入り準備はこれで万端なはず。そわそわとして落ち着かないが悪女はそんな姿を見せないと己を律し、私は静かに運命の日を待った。
そして――。
「迎えに来たよ、エメリィ」
結婚式当日、公爵家へ直接やって来た彼に驚くと共に大歓喜することとなった。
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