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第五話 顛末
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「なんだか納得がいかないわ……」
式場を後にした私は、ため息混じりに呟いた。
お義姉様の今までのことが全て公になり、私たちの無罪がはっきりしたところまでは良かった。
だがあの侯爵閣下の頭がお花畑だったせいで結局お義姉様は許されてしまったし、結婚式はそのまま執り行われ、お義姉様は侯爵夫人になってしまった。非常に釈然としないというかなんというか、もやもやが残る結末となってしまったわけである。
長年嘘吐きお義姉様に振り回され、果てには断罪されかけた私たちとしては厳罰を望みたいところだったが、泣きながら喜ぶお義姉様を前にそれを口にすることはできなかった。
「せめて、これに懲りて二度と関わって来なければいいのだけど」
「大丈夫じゃないかい? ベレニス嬢はそこまで馬鹿ではないと思う。それにもしもまた彼女が企んだら僕が完膚なきまでに報復するから大丈夫だよ」
「そうね。お願いするわ」
レンブラントの腕に身を預けながら私は、静かに微笑んだ。
「今日はありがとう、レンブラント。あなたがいなかったら私、今頃牢獄行きだったわ。……あ、でもアゼラン伯爵家に騎士団が乗り込むってリンチェスト侯爵が言っていたけれど、大丈夫かしら」
「ああ、すでに手は回してある。侯爵が訴え、騎士団が動き出す以前に冤罪の証拠を見せたからね」
「何から何までごめんなさいね」
「いいさ、だって愛する婚約者のためなんだからね」
「本当にありがとう。レンブラント、大好きよ」
私とレンブラントがまた唇を重ねていると、お義父様とお母様が式場から出てきた。
彼らはリンチェスト侯爵にもらう慰謝料について、少しばかり話し合いをしていたらしい。
「どうなったの?」
「ありもしない罪で名誉を穢されそうになったのだ、立派な別邸が買えるほどの慰謝料は払わせるつもりさ」
「それでも少ないくらいですけれどね。まったく、許せませんわ」
慰謝料で納得した様子のお義父様の一方でまだ怒りが収まらない様子のお母さん。
これはきっと数日後の茶会で散々愚痴るに違いない。そしてすぐにリンチェスト侯爵の悪評は広がりを見せるだろうが、自業自得というものだった。
私はせいぜいそれで溜飲を下げるとしよう。いつまでも過去のこと――お義姉様の存在に囚われず、私は私の人生を歩んでいくのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくして、アゼラン伯爵家にリンチェスト侯爵家から大量の慰謝料と共に謝罪の手紙が届いた。
お義姉様だった。
それは謝罪というか、どこまでも自分本位な彼女の内心の吐露であった。
私が嘘だと思っていたものは彼女が真実思っていたことで、お義姉様はずっと私が憎くてたまらなかったのだという。
『ワタシは未だに、どこから間違えたかがわからないのです。レンブラントを奪われたくない、ただそれだけでした。
でもワタシはミック様という大切なものを見つけた。そして救われました。だからこれからは前を向いて生きます。
今までのことを水に流してほしいなどとは言いません。反省はしています。でもワタシは後悔はしていませんから』
そう記されていた一方で、最後の一文はこう締めくくられていた。
『ローニャ、レンブラントと一緒にお幸せに』
ああ、本当にお義姉様はどういうつもりなのだろう。
憎んでいた私をそう簡単に許せるのか、それとも許してなどいないのか。私に不幸になってほしいのか幸せになってほしいのか。本当にわからない。けれど、
『お義姉様もどうぞお幸せに』
私はそれだけを書き添え、手紙を送り返した。
――これで私たちの関係は終わりだ。
あまりにも呆気ない顛末。しかしきっとこの結末が良かったのだと思う。
私は手紙を出すのを侍女に頼むと、早速レンブラントとのお茶会へと向かって歩き出す。
お義姉様のお望み通り、彼と幸せになるために――。
式場を後にした私は、ため息混じりに呟いた。
お義姉様の今までのことが全て公になり、私たちの無罪がはっきりしたところまでは良かった。
だがあの侯爵閣下の頭がお花畑だったせいで結局お義姉様は許されてしまったし、結婚式はそのまま執り行われ、お義姉様は侯爵夫人になってしまった。非常に釈然としないというかなんというか、もやもやが残る結末となってしまったわけである。
長年嘘吐きお義姉様に振り回され、果てには断罪されかけた私たちとしては厳罰を望みたいところだったが、泣きながら喜ぶお義姉様を前にそれを口にすることはできなかった。
「せめて、これに懲りて二度と関わって来なければいいのだけど」
「大丈夫じゃないかい? ベレニス嬢はそこまで馬鹿ではないと思う。それにもしもまた彼女が企んだら僕が完膚なきまでに報復するから大丈夫だよ」
「そうね。お願いするわ」
レンブラントの腕に身を預けながら私は、静かに微笑んだ。
「今日はありがとう、レンブラント。あなたがいなかったら私、今頃牢獄行きだったわ。……あ、でもアゼラン伯爵家に騎士団が乗り込むってリンチェスト侯爵が言っていたけれど、大丈夫かしら」
「ああ、すでに手は回してある。侯爵が訴え、騎士団が動き出す以前に冤罪の証拠を見せたからね」
「何から何までごめんなさいね」
「いいさ、だって愛する婚約者のためなんだからね」
「本当にありがとう。レンブラント、大好きよ」
私とレンブラントがまた唇を重ねていると、お義父様とお母様が式場から出てきた。
彼らはリンチェスト侯爵にもらう慰謝料について、少しばかり話し合いをしていたらしい。
「どうなったの?」
「ありもしない罪で名誉を穢されそうになったのだ、立派な別邸が買えるほどの慰謝料は払わせるつもりさ」
「それでも少ないくらいですけれどね。まったく、許せませんわ」
慰謝料で納得した様子のお義父様の一方でまだ怒りが収まらない様子のお母さん。
これはきっと数日後の茶会で散々愚痴るに違いない。そしてすぐにリンチェスト侯爵の悪評は広がりを見せるだろうが、自業自得というものだった。
私はせいぜいそれで溜飲を下げるとしよう。いつまでも過去のこと――お義姉様の存在に囚われず、私は私の人生を歩んでいくのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくして、アゼラン伯爵家にリンチェスト侯爵家から大量の慰謝料と共に謝罪の手紙が届いた。
お義姉様だった。
それは謝罪というか、どこまでも自分本位な彼女の内心の吐露であった。
私が嘘だと思っていたものは彼女が真実思っていたことで、お義姉様はずっと私が憎くてたまらなかったのだという。
『ワタシは未だに、どこから間違えたかがわからないのです。レンブラントを奪われたくない、ただそれだけでした。
でもワタシはミック様という大切なものを見つけた。そして救われました。だからこれからは前を向いて生きます。
今までのことを水に流してほしいなどとは言いません。反省はしています。でもワタシは後悔はしていませんから』
そう記されていた一方で、最後の一文はこう締めくくられていた。
『ローニャ、レンブラントと一緒にお幸せに』
ああ、本当にお義姉様はどういうつもりなのだろう。
憎んでいた私をそう簡単に許せるのか、それとも許してなどいないのか。私に不幸になってほしいのか幸せになってほしいのか。本当にわからない。けれど、
『お義姉様もどうぞお幸せに』
私はそれだけを書き添え、手紙を送り返した。
――これで私たちの関係は終わりだ。
あまりにも呆気ない顛末。しかしきっとこの結末が良かったのだと思う。
私は手紙を出すのを侍女に頼むと、早速レンブラントとのお茶会へと向かって歩き出す。
お義姉様のお望み通り、彼と幸せになるために――。
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