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第九話 私に魔法を教えてください
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「覗き見るような真似をしていて悪かった。君の力を見定めたかったのが一つ。危なくなったら助けられるというのが一つさ」
フィルミーを面白いと評したレオポルド王子。
彼はそう言ったあと、誤魔化すことも包み隠すこともせず、私が知らされてこなかった事実の数々を語り出した。
「まず、僕は王子だ。面倒だが公務という名の仕事をこなさなくちゃならない。その一環として君の学園を訪れた。そうしたらどこからどう見ても優秀な人材がいるじゃないか。だから魔術師団に引き入れようと決めたんだ。普通はいくら王族とはいえ魔術師団に干渉はできないものなんだけど、何せ今代の魔術師団団長だからね。
「今代の、魔術師団団長……」
「そして実際試してみたら君は期待以上だった。あれほどあっさりと入団試験を通ったのは君が初めてだろう。興味を持った僕は、君に僕が魔術師団団長であることを伏せて、見守ることにしたのさ。
君の頑張りは全て見せてもらった。日々着実に腕を上げ、人々の役に立とうとする君の姿はとても眩しかった。先ほども言った通り僕は強い女性が好きだ。なかなか相応しいと思える相手が見つからなかったが――君は最高に魅力的だよ」
優秀な人材、期待以上、眩しかった。
どの言葉も全てフィルミーを褒め称えるものばかりだ。信じられない。第二王子からこんなにも評価され、魅力的とまで言われるなんて。
しかも彼は魔術師団団長だというのだ。そしてきっとそれは嘘ではないとわかる。
(だってそう考えれば、全て辻褄が合う。リリシアン公爵夫人が妙に第二王子と親しげな口ぶりだったことも、一度も姿を現さなかったのも)
それに何より、わざわざ呼び出して求婚のような真似をしておいて、くだらない嘘を吐くとは思えなかった。
そうか――自分は今、求婚されているのだと、不意に実感が湧いた。
ずっと尾けられてたとはいえ、まだ二回しか顔を合わせたことのない相手からの求婚。幼少期に婚約を結べなかった、あるいは婚約が破談になった場合はお見合い結婚というものもよくある話だが、これはあまりにも異例過ぎる。
「私、ただの男爵令嬢ですよ」
「ただのじゃない。いずれ最強になる魔法使いの男爵令嬢――そうなんじゃないのかい?」
「お言葉ですがレオポルド殿下。あなたの計らいで魔術師団に入れたというのならばその点は感謝してもしきれません。しかし求婚なんてされても、一体どう答えていいやらわからないのです」
だってあまりにも突然だった。
理由を聞かされたところで、簡単に納得できることではないに決まっているのだ。
「身分差を気にしているのかな。それなら心配いらないよ。そこら辺はうまくやる」
身分差の問題はもちろんある。しかし相手は第二王子でしかも魔術師団団長。彼の言う通りであまり気にしなくてもいいかも知れない。
でもフィルミーが言いたいのはそんなことではなかった。
「私はただ聞かされただけ。あなたのことを何も知らない。信頼できるかと言えば怪しいところです」
魔術師団員なら悪い人ではないのは確かだ。それでも、政略でもお見合いでもない結婚をしたいと言うのなら、まずはきちんと交流するところから始めるべきだろう。
「ですから私の望みを叶える手伝いをしてくださったなら、あなたの求婚を前向きに検討することにしましょう。――最強になるために、私に魔法を教えてください」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リリシアン公爵夫人との手合わせで勝つ。
その目標を果たすため、レオポルド王子の力を借りようと思いついたのは彼が団長だと聞いた時だった。
最終的には彼も下さなければ最強には至れないわけだが、それならなおさら彼の魔法を見て覚えたいと強く思ったのだ。
最初は腑に落ちなさそうな顔をしていたレオポルド王子だったが、やがてフィルミーの思惑を察したらしく、「僕を利用しようとはなかなかに豪胆だね」と笑った。
「わかった。いいよ、僕が得意とするのは特に火属性だけど、他の属性も使えるからね。でもまさか僕と師弟関係になろうと提案してくるとは思わなかったよ」
「まったり馬車で旅したり演劇へ行ったり、そういうデートがしたいと言うとでも思いましたか?」
伯爵家や侯爵家などの令嬢令息と婚約していた同級生がそんなことを話しているのを何度か聞いたことがある。
貧乏性のフィルミーとしてはそんな贅沢をする必要性がどこにあるのか甚だ疑問だが。
「いいや、君に限ってそれはない。ただ全て自力でやり遂げようとするタイプだと思ってたから意外だっただけさ。
せっかくだ、リリシアン公爵夫人には内緒で特訓するとしようか。城の一角にちょうどいい具合に暴れられそうな場所があるんだ。来るかい?」
そう言いながらレオポルド王子はフィルミーへ手を差し出す。
しばらくその意図が掴めなかったが、やがて思い当たって身を硬くした。
(これはいわゆるエスコートというやつでは……?)
元婚約者のノディには一度もされたことがなかった。それを、まだ婚約者ではない相手にされるなんて。
なんとも言えない気持ちが込み上げてきてぽぅぅ、と顔を赤らめそうになったが、平静を装いながら彼の手を取った。
「ご指導よろしくお願いします、レオポルド殿下」
フィルミーを面白いと評したレオポルド王子。
彼はそう言ったあと、誤魔化すことも包み隠すこともせず、私が知らされてこなかった事実の数々を語り出した。
「まず、僕は王子だ。面倒だが公務という名の仕事をこなさなくちゃならない。その一環として君の学園を訪れた。そうしたらどこからどう見ても優秀な人材がいるじゃないか。だから魔術師団に引き入れようと決めたんだ。普通はいくら王族とはいえ魔術師団に干渉はできないものなんだけど、何せ今代の魔術師団団長だからね。
「今代の、魔術師団団長……」
「そして実際試してみたら君は期待以上だった。あれほどあっさりと入団試験を通ったのは君が初めてだろう。興味を持った僕は、君に僕が魔術師団団長であることを伏せて、見守ることにしたのさ。
君の頑張りは全て見せてもらった。日々着実に腕を上げ、人々の役に立とうとする君の姿はとても眩しかった。先ほども言った通り僕は強い女性が好きだ。なかなか相応しいと思える相手が見つからなかったが――君は最高に魅力的だよ」
優秀な人材、期待以上、眩しかった。
どの言葉も全てフィルミーを褒め称えるものばかりだ。信じられない。第二王子からこんなにも評価され、魅力的とまで言われるなんて。
しかも彼は魔術師団団長だというのだ。そしてきっとそれは嘘ではないとわかる。
(だってそう考えれば、全て辻褄が合う。リリシアン公爵夫人が妙に第二王子と親しげな口ぶりだったことも、一度も姿を現さなかったのも)
それに何より、わざわざ呼び出して求婚のような真似をしておいて、くだらない嘘を吐くとは思えなかった。
そうか――自分は今、求婚されているのだと、不意に実感が湧いた。
ずっと尾けられてたとはいえ、まだ二回しか顔を合わせたことのない相手からの求婚。幼少期に婚約を結べなかった、あるいは婚約が破談になった場合はお見合い結婚というものもよくある話だが、これはあまりにも異例過ぎる。
「私、ただの男爵令嬢ですよ」
「ただのじゃない。いずれ最強になる魔法使いの男爵令嬢――そうなんじゃないのかい?」
「お言葉ですがレオポルド殿下。あなたの計らいで魔術師団に入れたというのならばその点は感謝してもしきれません。しかし求婚なんてされても、一体どう答えていいやらわからないのです」
だってあまりにも突然だった。
理由を聞かされたところで、簡単に納得できることではないに決まっているのだ。
「身分差を気にしているのかな。それなら心配いらないよ。そこら辺はうまくやる」
身分差の問題はもちろんある。しかし相手は第二王子でしかも魔術師団団長。彼の言う通りであまり気にしなくてもいいかも知れない。
でもフィルミーが言いたいのはそんなことではなかった。
「私はただ聞かされただけ。あなたのことを何も知らない。信頼できるかと言えば怪しいところです」
魔術師団員なら悪い人ではないのは確かだ。それでも、政略でもお見合いでもない結婚をしたいと言うのなら、まずはきちんと交流するところから始めるべきだろう。
「ですから私の望みを叶える手伝いをしてくださったなら、あなたの求婚を前向きに検討することにしましょう。――最強になるために、私に魔法を教えてください」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リリシアン公爵夫人との手合わせで勝つ。
その目標を果たすため、レオポルド王子の力を借りようと思いついたのは彼が団長だと聞いた時だった。
最終的には彼も下さなければ最強には至れないわけだが、それならなおさら彼の魔法を見て覚えたいと強く思ったのだ。
最初は腑に落ちなさそうな顔をしていたレオポルド王子だったが、やがてフィルミーの思惑を察したらしく、「僕を利用しようとはなかなかに豪胆だね」と笑った。
「わかった。いいよ、僕が得意とするのは特に火属性だけど、他の属性も使えるからね。でもまさか僕と師弟関係になろうと提案してくるとは思わなかったよ」
「まったり馬車で旅したり演劇へ行ったり、そういうデートがしたいと言うとでも思いましたか?」
伯爵家や侯爵家などの令嬢令息と婚約していた同級生がそんなことを話しているのを何度か聞いたことがある。
貧乏性のフィルミーとしてはそんな贅沢をする必要性がどこにあるのか甚だ疑問だが。
「いいや、君に限ってそれはない。ただ全て自力でやり遂げようとするタイプだと思ってたから意外だっただけさ。
せっかくだ、リリシアン公爵夫人には内緒で特訓するとしようか。城の一角にちょうどいい具合に暴れられそうな場所があるんだ。来るかい?」
そう言いながらレオポルド王子はフィルミーへ手を差し出す。
しばらくその意図が掴めなかったが、やがて思い当たって身を硬くした。
(これはいわゆるエスコートというやつでは……?)
元婚約者のノディには一度もされたことがなかった。それを、まだ婚約者ではない相手にされるなんて。
なんとも言えない気持ちが込み上げてきてぽぅぅ、と顔を赤らめそうになったが、平静を装いながら彼の手を取った。
「ご指導よろしくお願いします、レオポルド殿下」
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