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第八話 彼との再会
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第二王子レオポルド・アーサー・ベリクリス殿下。
フィルミーにとってはあまりにも殿上人過ぎるその人の婚約打診にどう答えるべきか……手紙を読んでからというもの、頭を悩ませ続けていた。
婚約解消して嫁ぎ先を失ったばかりだから、悪い話ではないけれど。
フィルミーは自分が王子妃になれるような人材なんて少しも思っていないし、何より王家などに嫁いだら、魔術師団の仕事が続けられなくなってしまうかも知れない。
けれど王族からの誘いを断るなんてすれば、実家の男爵家が容易く潰れる可能性だってある。そう考えると、迂闊な返事はできなかった。
幸いなことに手紙は期限付きではなかったし、急いで返す必要はない。
リリシアン夫人も、「レオポルド殿下の性格的に考えてゴリ押しはしないと思うからゆっくり考えなさいな」と言っていたし。
(そもそもどこで私は目をつけられたの? 魔術師団で活躍したから? あるいは――)
以前からフィルミーのことを知っていたのか。
思い当たる節は、正直言って一つしかない。ずっとずっと疑ってはいたのだ、あの人物の正体を。
『君の魔法、すごいじゃん』
初めてフィルミーを褒めてくれたあの美丈夫。
あれがもしも第二王子だったとしたら、全ての辻褄が合うような気がした。
ただの勝手な勘違いで、第二王子は彼ではないということも考えられる。でも、もしフィルミーの推測が正しいのなら、再び会ってみたいと思った。
だから――。
(まずは会ってから婚約の話を進めるかどうか決めることにしよう)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔術師団の仕事を休んでやって来たのは王城。
まさか自分がこのような場所に足を踏み入れることになるなんて、とフィルミーはなんとも言えない気持ちになる。
もしもあのまま学園に通い、いじめられる毎日を送っていたなら、絶対にあり得なかったことだ。
今日のフィルミーの装いは、リリシアン夫人から借りた薄青の豪奢なドレスだった。社交界――フィルミーにとってはずいぶんと縁遠いものである――に出る時などに着るものらしい。
少し胸のあたりがぶかぶかだったり、腰がきつかったりするが気にしないようにしよう。
王城の門番に手紙を見せるととある一室まで案内された。
今更ながらに緊張し、全身が強張る。しかしその緊張を振り切って入室し――。
そこで待っていた美丈夫の声に迎え入れられた。
「フィルミー、こうして会うのは久しぶりだね。来てくれて嬉しいよ」
一年ぶりに聞いた声。でも聞き間違えるはずもない。紛れもなく彼だ。
ぎこちない所作でドレスの裾を摘み、頭を下げた。
「お久しぶりです。……やはりあなただったのですね」
「バレていたか」
別に驚いた様子もなく美丈夫はそう言って、フィルミーに座るようにと仕草で促す。
客室であろうその部屋にはガラスのテーブルと二脚の椅子があり、レオポルド王子と向かい合うようにしてフィルミーは腰を下ろした。
そして早速本題に入る。
「私と婚約したいという話ですけど、本当なのですか」
「本気も本気さ。初めて会ったあの時、学園の視察に行っていた時から君には見どころがあると思ってたけど、一年間で立派な魔術師に成長してくれるとは思わなかった。
僕は強い女性――単純な力の問題だけじゃない強さのことだよ――が好きでね。君の強さを目にし、噂を聞いて、君を伴侶にしたいと考えるようになったんだ」
「なるほど、わかりました」
フィルミーは静かに思案した。
レオポルド王子の言葉にきっと嘘はない。でもそんなことだけで男爵令嬢に過ぎないフィルミーに婚約打診などするだろうか。
たかが一回会っただけの相手だ。言葉を交わしたことも大してない。
それなのに彼の口ぶりではこちらのことをよく知っているように感じられ、言葉にし難い違和感があった。それから彼のなんとも言えない視線にも覚えがある。
「一つ質問なのですが」
これだけはどうしても訊いておかなければならないと思った。
「レオポルド殿下、私をずっと影から監視し続けていた理由を聞かせてください」
その問いかけに、レオポルド王子はわずかに沈黙する。
それから小さく肩を揺らして、ニヤリと口角を上げた。
「そうか。君は僕の思っていた以上に鋭いみたいだ。――面白い」
フィルミーにとってはあまりにも殿上人過ぎるその人の婚約打診にどう答えるべきか……手紙を読んでからというもの、頭を悩ませ続けていた。
婚約解消して嫁ぎ先を失ったばかりだから、悪い話ではないけれど。
フィルミーは自分が王子妃になれるような人材なんて少しも思っていないし、何より王家などに嫁いだら、魔術師団の仕事が続けられなくなってしまうかも知れない。
けれど王族からの誘いを断るなんてすれば、実家の男爵家が容易く潰れる可能性だってある。そう考えると、迂闊な返事はできなかった。
幸いなことに手紙は期限付きではなかったし、急いで返す必要はない。
リリシアン夫人も、「レオポルド殿下の性格的に考えてゴリ押しはしないと思うからゆっくり考えなさいな」と言っていたし。
(そもそもどこで私は目をつけられたの? 魔術師団で活躍したから? あるいは――)
以前からフィルミーのことを知っていたのか。
思い当たる節は、正直言って一つしかない。ずっとずっと疑ってはいたのだ、あの人物の正体を。
『君の魔法、すごいじゃん』
初めてフィルミーを褒めてくれたあの美丈夫。
あれがもしも第二王子だったとしたら、全ての辻褄が合うような気がした。
ただの勝手な勘違いで、第二王子は彼ではないということも考えられる。でも、もしフィルミーの推測が正しいのなら、再び会ってみたいと思った。
だから――。
(まずは会ってから婚約の話を進めるかどうか決めることにしよう)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔術師団の仕事を休んでやって来たのは王城。
まさか自分がこのような場所に足を踏み入れることになるなんて、とフィルミーはなんとも言えない気持ちになる。
もしもあのまま学園に通い、いじめられる毎日を送っていたなら、絶対にあり得なかったことだ。
今日のフィルミーの装いは、リリシアン夫人から借りた薄青の豪奢なドレスだった。社交界――フィルミーにとってはずいぶんと縁遠いものである――に出る時などに着るものらしい。
少し胸のあたりがぶかぶかだったり、腰がきつかったりするが気にしないようにしよう。
王城の門番に手紙を見せるととある一室まで案内された。
今更ながらに緊張し、全身が強張る。しかしその緊張を振り切って入室し――。
そこで待っていた美丈夫の声に迎え入れられた。
「フィルミー、こうして会うのは久しぶりだね。来てくれて嬉しいよ」
一年ぶりに聞いた声。でも聞き間違えるはずもない。紛れもなく彼だ。
ぎこちない所作でドレスの裾を摘み、頭を下げた。
「お久しぶりです。……やはりあなただったのですね」
「バレていたか」
別に驚いた様子もなく美丈夫はそう言って、フィルミーに座るようにと仕草で促す。
客室であろうその部屋にはガラスのテーブルと二脚の椅子があり、レオポルド王子と向かい合うようにしてフィルミーは腰を下ろした。
そして早速本題に入る。
「私と婚約したいという話ですけど、本当なのですか」
「本気も本気さ。初めて会ったあの時、学園の視察に行っていた時から君には見どころがあると思ってたけど、一年間で立派な魔術師に成長してくれるとは思わなかった。
僕は強い女性――単純な力の問題だけじゃない強さのことだよ――が好きでね。君の強さを目にし、噂を聞いて、君を伴侶にしたいと考えるようになったんだ」
「なるほど、わかりました」
フィルミーは静かに思案した。
レオポルド王子の言葉にきっと嘘はない。でもそんなことだけで男爵令嬢に過ぎないフィルミーに婚約打診などするだろうか。
たかが一回会っただけの相手だ。言葉を交わしたことも大してない。
それなのに彼の口ぶりではこちらのことをよく知っているように感じられ、言葉にし難い違和感があった。それから彼のなんとも言えない視線にも覚えがある。
「一つ質問なのですが」
これだけはどうしても訊いておかなければならないと思った。
「レオポルド殿下、私をずっと影から監視し続けていた理由を聞かせてください」
その問いかけに、レオポルド王子はわずかに沈黙する。
それから小さく肩を揺らして、ニヤリと口角を上げた。
「そうか。君は僕の思っていた以上に鋭いみたいだ。――面白い」
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