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第三話 魔術師団からのスカウト

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 ――王宮魔術師団。
 それは、魔術を用いて賊や魔物といった害悪を倒し、国の治安を安定させてくれる、そんな人々のこと。

 その存在自体は知っていたが今まで魔術師に会ったことすらなく、フィルミーには無関係な世界の話だと思っていた。
 他ならぬ王宮魔術師団からスカウトを受けるまでは。

 それは、いつも通りいじめられ蔑まれていた、ある日のこと。
 学園の裏庭に鬱憤を晴らしに行こうとしていたフィルミーは、のしのしとやって来た大柄ででっぷりと腹の出た学園長に呼び止められた。

「フィルミー・ラボリ嬢。君に話がある」

「……え?」

(学園長先生!? 私に話って……?)

 考えてみたが、大事な話をされるような覚えは全くない。とはいえ悪いことは何もしていないし、一体何だろうかと首を傾げる。
 もしもフィルミーがいじめられていることを学園側が把握したとて、いちいち対応してくれるとは思えない。そんなことなら、もうとっくにやっているだろうし。

 「来なさい」と言うなり、学園長はのっそのっそと学園長室へと向かって歩き出す。
 フィルミーは何が何だかわからないままについていくしかなかった。

 これでもしろくな話ではなかったら裏庭を真っ黒焦げにしてやる――そんな風に思っていた。
 しかし結局、そのような事態にならなかったのは、学園長がした話が思いもよらぬ重要な案件だったからだ。

「魔術師団は知っているだろう。そのお偉方が、ぜひに君に会いたいとおっしゃっているんだよ、フィルミー・ラボリ嬢」

「えっ。魔術師団……ですか? どうしてそんな急に」

「詳しいことは伏せさせてもらおう。だがこの話は嘘でも冗談でもないことだけは言っておこう。この学園生でもし魔術師団入りなんていうことになれば、とんでもない名誉だ。どうだいフィルミー・ラボリ嬢、話を受けてみる気はあるかね」

「…………」

 フィルミーは黙り込むしかなかった。

 魔術師団はよほど魔力量やその精度が高くないと入れない、優秀な魔法使いのみの集団。
 確かにフィルミーとて三種類の魔法が使える。それでも、魔術師団に入るに相応しいほどの才能があるとはとても思えなかった。
 それにフィルミーは貧乏男爵令嬢。魔術師団なんていうキラキラした世界にはとても似合わないだろう。

 でも、学園長の圧が尋常じゃなく強かった。
 彼自身口にした通り、もしもフィルミーが魔術師団の一員になれればこの学園に箔がつくことになるわけで、それを望んでいるに違いない。
 ここで辞退の意思表明をしようものなら後でごねられるだけだ。そう判断した彼女は、ひとまず顔合わせの話を受けることにした。

(いざ会ってみて、失望されたらそれまでの話。そんなこと慣れっこだもの)

 数日前に出会った謎の美丈夫。あんな風にフィルミーを褒めてくれる人なんて、ほぼいないようなもの。
 もしかするとあの人がフィルミーを推薦したのだろうか。一体誰だかわからないけれど、さすがに期待し過ぎだと苦笑が漏れた。

「わかりました。魔術師団の人に、了承の返事をしておいてください」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから三日後に学園へ魔術師団がやって来た。
 訪れたのは二人。黒髪に赤い瞳の妖艶な美女、そしてフィルミーより頭二つ分くらい背が低くまだ幼い白髪の少年だった。二人とも、胸に魔術師団員の紋章をつけている。

 魔術師団といえばもっと厳つい男性が多い印象を抱いていたので、フィルミーは驚いた。

 二人の姿を視認した学園の生徒たちは、それまでいじめて遊んでいたフィルミーのことなど忘れたかのように、「わあ!」やら「なになに?」と一気に騒ぎ出す。

「どうして魔術師団がこの学園へ?」
「団員をスカウトしに来ましたのよ、きっと」
「それならお目当ては水魔法使いのわたしね!」
「いや、土魔法が使える俺に決まってるだろ」

 そんなことを口々に叫ぶ彼らに囲まれたフィルミーは、思わず口角を吊り上げてしまう。
 彼らはまだ知らないのだ。彼らが先ほど蔑み、馬鹿にしていた女こそが魔術師団のお偉方たちの目的なのだと。

 こちらへまっすぐ歩いてきた魔術師団の二人、その片方である美女は、歩みだけで人混みを割り、フィルミーの目の前へ。
 そしてにっこりと微笑んだ。

「ごきげんよう。あなたがフィルミー・ラボリねぇ。なかなかに可愛らしい娘じゃないの。今日はよろしくお願いね?」

「は、はい。よろしくお願いします」

 フィルミーが頭を下げたと同時、周囲から悲鳴と怒号が入り混じったような叫び声が上がった。
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