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4:公爵令嬢と聖女、休戦協定を結ぶ。

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 どうしてスペンサー様はあたくしを見捨て、あんな女を選んだんでしょう。
 スペンサー様にベタ惚れで尻尾を振りまくっていたダコタならともかく、あの泥棒猫はスペンサー様と話しているところを見たことがありませんのに。

 泥棒猫の名前は確かダスティー。
 没落子爵の娘で、クズ令嬢だなんて呼ばれている女ですわね。あたくし、あまりに興味がないので噂しか存じ上げませんが。

「あんな美貌も学歴もないゴミクズにどうして……! 私はこんなにもあなたを愛しているのにぃぃぃぃぃ!」

 歯を食いしばりながらあたくしは、ベッドに顔を埋めておりましたの。
 泣き叫ぶなどとはしたないことは致しませんが、スペンサー殿下とあの女がイチャイチャしているところを見たくないものですから、ただ今休学中ですの。その間中ずっと腹が立ってしまって、もう荒れまくりなのですわ。
 呪ってやるぅ。あの女、絶対に呪い殺してやりますわよっ。

 でもそんな力、もちろんあたくしにはございませんわ。
 いずれは学園に復帰しなければならないでしょう。そしてスペンサー様に冷たい目で見られるに決まっています。
 耐えきれませんわ。
 婚約破棄された女としてあたくしは嗤われるでしょう。あたくしは孤立無援になり、誰も買い手がつかない『傷物』になってしまうのですわ。

 ……いっそのこと、死んでしまおうかしら。

 ふとそんなことを思いついた時、あたくしの部屋をノックする者が現れましたの。
 顔を上げて扉の方を睨みつけると、返事もしていないのに扉がスゥーっと開きましたわ。

「ヤッホー、遊びに来ちゃった」

 そこに立っていたのは、ピンクブロンドの髪を揺らす少女――聖女ダコタでしたのよ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしてあなたがここに」

 あたくしの宿敵と言っても過言ではない女が、あたくしの屋敷に乗り込んで来た。
 それを悟った時、あたくしは表情を固くなりました。

 ダコタ。
 彼女は元平民でありながら聖女の力を持ち、協会のバックアップを受けて貴族学園に堂々と入学した『成り上がり』娘ですわ。
 ピンク髪で小動物のような愛らしさがあり、幼女趣味の男衆に大人気でしたわ。

 まずは彼女が何用でここまでいらしたのか詰問しなければなりませんわ。
 公爵家に勝手に足を踏み入れたとなればそれは不法侵入罪。厳しく罰しませんとね?

「あなた、誰に断って来たんですの?」

「リーズ様のお身体の様子を見に、かな? 公爵さんに頼まれてわざわざ来たんだよ? そんな顔されるのは心外だなあ」

 お父様が?
 ああ、でも確かに。これだけ部屋にこもっていれば心配されるのも当然ですわよね。引きこもっている名目は「体の不調」。聖女を呼ぶのもある意味納得ですわ。
 ……しかし少なくともダコタの意向が含まれているには違いありませんけれど。

 あたくしはそっと顔を拭うと、静かに問いかけました。

「あなた、あたくしに何の話がありますの? もしよろしければ聞かせてくださいな」

「おやおや、ダコタがお話をしに来たと思ってるの? まあでも『治療のついで』に付き合ってあげてもいいよ?」

 ダコタの、平民らしい下品な笑み。
 本来歯を見せてニヤニヤするのは、貴族であれば打たれても何の不思議もないほどの無礼なのだけれど……、普段は注意するそれも今はどうでもいいですわ。

「なら、『ついで』でお聞かせ願えますかしら」

 あたくしたちは治療のふりをしながら、話し始めましたの。



「……ってことで、休戦協定を結ぼうと思ってね」

「休戦協定、ですの。それはいい考えですわね」

 今までライバル同士であったあたくしたち二人。
 しかしそこに横槍が入ったことにより、協力しようということになったわけですわ。

「リーズ様は王子様を奪ったあいつが憎いんでしょ? ダコタもそう。王子様のことを絶対諦め切れないもん」

「……当然ですわ。あんなゴミクズに渡してはやりませんわよ」

 あたくしたちの意見は、初めて一致いたしました。
 今まで些細なことで争い、いがみ合ってましたけれど、今は少し休戦。なんとしてもあのゴミクズ――ダスティー子爵令嬢を陥れ、スペンサー殿下から引っぺがすのですわ!

「じゃあよろしくね、リーズ様」
「スペンサー殿下のためならあなたと組むことも厭いませんわ。せいぜい力になりなさい、ダコタ」

 公爵令嬢と聖女。
 あのクズ令嬢より身分はずっと格上。そんなあたくしどもの手にかかれば、あんなクズ令嬢は屁でもありませんわよ。
 必ず彼女を泣かせ、二度と口を利けなくなるほどに心をへし折ってやりましょう。

 そうと決まればじっとしている場合ではありませんわね。
 学園を卒業する半年後までの間に、必ずスペンサー殿下を取り返す。

 見てなさいよゴミクズ。お前を本当のゴミに変えて差し上げますわ! ほほほほほ!」

「まさに悪役だね。まあダコタもだけど」

 あたくしどもは意地悪に微笑み合い、初の握手を交わしたのですわ。
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