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3:おかしなほどに高待遇

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 使い魔によって控え室に連れて行かれた私は、ドレスを整えられ化粧直しをされて、結婚式場に立つことになった。

 隣に立つ美貌の魔王陛下とは決してお似合いとは言えない、ハニーブロンドの髪に黒装束の花嫁。それが私。

 先ほど魔王陛下に言った通り、誓いのキスはしなかった。そのことに周り――式場に集まった魔族や魔物たち――はどよめいたが、魔王陛下は最後まで何も言わなかった。

 そうして式は無事に終了し、ベリンダ・パーカーズ改めベリンダ・マニグルは、お飾りの魔王妃となったのだった。

 だが安心できない、と私は思う。
 なぜなら、形式だけ結婚したように見せかけて、後でこっそり私をいただくつもりなのかも知れないからだ。性的な意味でも、食的な意味でも。

 しかし――。

「花嫁殿……これからはベリンダ様とお呼びいたしましょうか。ベリンダ様には魔王陛下と別のお部屋をご用意してございます。そちらでご就寝なさってください」

 そう言って使い魔に案内された先、そこは相部屋ではなかったし、信じられないくらい豪華で広いところだった。
 どぎつい真紅の壁面に埋め込まれた金の装飾が煌めき、やけに眩しい。漆黒のベッドは柔らかそうだ。

「えっ?」

 てっきり牢獄に似たところだろうと想像していたのに。
 もしくは見かけだけで寝具に毒でも塗られているのか?と考えたものの、触っても何も異常は感じられない。色彩のどぎつさを除けば私の生家にも劣らぬ……いや、それよりずっと上等な一室と言えるだろう。

 これが、私の部屋。
 確かに考えてみれば魔王妃になったのだから上質な部屋を与えられるのは当たり前である。
 だがおかしい。どう考えたっておかしい。

 私はこの国に生贄同然に嫁いできた身。
 そのくせ夫になる魔王陛下に「あなたを愛しません」と言い放った無礼極まりない女のはずだ。
 サキュバスにだって嗤われた。きっと魔王陛下だって私のことを悪く思っているに違いない。
 なのに何だ、この高待遇は。信じられない。都合のいい夢を見ていると言われた方が、よほど説得力があるくらい。

 ――もしかして私に利用価値を見出している?

 ふかふかのベッドに腰掛けながら、私は首を傾げる。

 ここまで高待遇なのは、魔族側が私に求めているものがあるという理由なら辻褄が合う。
 可能性として一番大きいのは祖国の機密情報。王子妃になる予定だった私だ、当然ながらある程度の知識は備えてある。それを吐いてしまえば王国は簡単に崩壊するだろう。
 よく考えれば、元婚約者の殿下は愚かなものだ。私なんかを魔王の花嫁にするだなんて。きっと近いうちにあの国は滅ぶ気がした。

 ……しばらく思案に耽ったが、いくら邪推しても結局のところ意味がないと思ってやめた。
 どうせ私は逃げられない。城の中を小型魔物がウロウロしているから、逃げ出したのが見つかったら八つ裂きにされるだけだろう。
 慣れれば悪い場所ではないようだし、このまま滞在してみることに決める。どうせ今の私は魔王陛下の言葉一つで死ぬ立場にあるのだ、

「つまらないことを考えて余生を無駄にするだけ馬鹿馬鹿しいですし」

 ゴロンと横になったベッドは温かくて心地良い。
 長旅などで疲れたせいもあるのだろう。ここに来る前、城の地下室で監禁されていた時は緊張しっぱなしだったのが緩み、私はすぐに睡魔に襲われた。

 次に目覚めた時、本当に私の命があるかはわからない。
 けれどそのことについて深く考える暇すらなく、気づけば眠りに落ちていた。
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