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第三十八話 打倒義姉作戦
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「王弟殿下を誘拐した人物に心当たりがありますわ」
ハドムンへの好意を意識した翌日のこと。
王の間へやって来たジェイミーは、堂々とそう口にしていた。
国王をはじめ、大臣やら文官やらたくさんの臣下がこちらへ目を向けてくる。
ジェイミーは思わず笑みを浮かべそうになるのを堪え、言った。
「それは我が義姉であった女、グレース。彼女の筆跡の手紙を我が屋敷で見つけましたの」
「なんと。それは一体どういう内容だ」
国王に問われる。
さすがは一国の王、威厳というものがある。元平民のジェイミーからすれば身がすくむ思いだが……まあ別にただの男といえばただの男だし、別に緊張することもないか。
「普段はこのお城に住まわせていただいておりますが、用事があって公爵邸へ戻りましたの。そこで、このような手紙を。筆跡は明らかにグレースのものでしたわ」
全部嘘である。
これは、ジェイミーが思いついた、グレースに自分の幸せを邪魔されない方法。つまり彼女の復讐を阻止すべく一手だった。
取り出した手紙は、綺麗な便箋で何枚も何枚も書かれている。
筆跡はグレースの日記を見せ、専門家を雇って筆跡を真似させた。ジェイミーが見ても姉の字としか思えないほどそっくりな、偽造の手紙である。
「王弟殿下が失踪された前日、王弟殿下よりこの手紙が送りつけられて来たそうですの。どうしてかはわかりませんが……。ここにはどうやら、王弟殿下とグレースがやりとりをしていた形跡がありますわ。
愚姉グレースは王弟殿下に援助を求めた。きっとわたしたちに復讐なさるつもりなんでしょう。それで協力を王弟殿下に求めたものの拒否され、怒り狂った彼女は」
王弟殿下を殺した、とは言わなかった。
でもジェイミーの口にしようとした言葉を彼らは察してくれたことだろう。まあ後は彼らが勝手にやってくれる。
王弟殿下を殺害した疑惑が浮上すれば、それはもちろん指名手配犯になる。そして捕まえられるだろう。
ハーピー公爵の援助があったところで何だ。王家の力は強いし、公爵家だって彼女が犯罪者だと思えば手を切るに違いない。
ジェイミーは悪知恵が働く自負がある。グレースのように勉強はできないが、このような作戦を考えるのは得意だ。
これでまんまとグレースは斬首刑に……。想像するだけでにやついてしまいそうだ。
邪魔者さえ排除できれば、自分はハドムンと一緒にいることができる。
せっかく義姉から奪った婚約者。存分に愛し合いたいと、そう思うようになったから。
「お義姉様、覚悟なさいね? 第二の断罪劇をお楽しみに」
その呟きは、王の間にいた人々には届かないほど小さい。
しかしそこに込められた憎悪はとんでもなく色濃いものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの女が伯父上を殺したというのか。……やはり彼奴は魔女だったか」
「そうなのです。あのような女を義姉と呼んでいたかつてのわたしが悍ましいくらいですわ」
「ジェイミーは私が守る。約束だ」
「ハドムン様、嬉しいっ」
ハドムンと抱き合いながら、ジェイミーは思う。
一度目の断罪劇は甘かった。自分を痛めつけてまで彼女を貶めてやったというのに、追放処分とは何たる軽い罪なのか。
事実、グレースはジェイミーを嘲り笑っていた。あんな女、あの場で首を断たれてしまえば良かった。
けれど今度こそそれが叶う。
本当に王弟殿下を連れ去ったのは誰なのか知らないが、そんなことはどうでもいい。ジェイミーのおかげでそいつの罪はグレースのものとなるのだから。
ああ、なんて素敵なのだろう。
グレースさえいなければ、何も心配することはなくなるのだ。
あの栗色の髪に、吸い込まれるような瞳に狂おしいほどの嫉妬を抱くこともない。今もどこかで自分に復讐しようと企んでいるであろう彼女に怯える必要もない。
(最高の気分だわ! 初めてあのクソ女を超えるのね、最高だわ。これでわたしは満足に王妃教育が受けられるってわけだわ。受けたくないけど……でもハドムン様さえいれば大丈夫よね。よーし、やるぞー!)
ニコニコ笑顔になりながら、ジェイミーはハドムンの胸に顔を埋めた。
これから数日後、大罪人グレースの名は各地に広まることになる。
騎士団が彼女を捕らえるために国中を奔走し、それまでは大して興味を示さなかった町の人々も、皆彼女の名を聞くと顔を歪めるようになった。
グレースが捕らえられるのも時間の問題。
ジェイミーが『義姉打倒作戦』と勝手に名付けたこの計画は順調に進んでいる。
どうかこの作戦が成功しますように――ジェイミーは心からそう願うのであった。
ハドムンへの好意を意識した翌日のこと。
王の間へやって来たジェイミーは、堂々とそう口にしていた。
国王をはじめ、大臣やら文官やらたくさんの臣下がこちらへ目を向けてくる。
ジェイミーは思わず笑みを浮かべそうになるのを堪え、言った。
「それは我が義姉であった女、グレース。彼女の筆跡の手紙を我が屋敷で見つけましたの」
「なんと。それは一体どういう内容だ」
国王に問われる。
さすがは一国の王、威厳というものがある。元平民のジェイミーからすれば身がすくむ思いだが……まあ別にただの男といえばただの男だし、別に緊張することもないか。
「普段はこのお城に住まわせていただいておりますが、用事があって公爵邸へ戻りましたの。そこで、このような手紙を。筆跡は明らかにグレースのものでしたわ」
全部嘘である。
これは、ジェイミーが思いついた、グレースに自分の幸せを邪魔されない方法。つまり彼女の復讐を阻止すべく一手だった。
取り出した手紙は、綺麗な便箋で何枚も何枚も書かれている。
筆跡はグレースの日記を見せ、専門家を雇って筆跡を真似させた。ジェイミーが見ても姉の字としか思えないほどそっくりな、偽造の手紙である。
「王弟殿下が失踪された前日、王弟殿下よりこの手紙が送りつけられて来たそうですの。どうしてかはわかりませんが……。ここにはどうやら、王弟殿下とグレースがやりとりをしていた形跡がありますわ。
愚姉グレースは王弟殿下に援助を求めた。きっとわたしたちに復讐なさるつもりなんでしょう。それで協力を王弟殿下に求めたものの拒否され、怒り狂った彼女は」
王弟殿下を殺した、とは言わなかった。
でもジェイミーの口にしようとした言葉を彼らは察してくれたことだろう。まあ後は彼らが勝手にやってくれる。
王弟殿下を殺害した疑惑が浮上すれば、それはもちろん指名手配犯になる。そして捕まえられるだろう。
ハーピー公爵の援助があったところで何だ。王家の力は強いし、公爵家だって彼女が犯罪者だと思えば手を切るに違いない。
ジェイミーは悪知恵が働く自負がある。グレースのように勉強はできないが、このような作戦を考えるのは得意だ。
これでまんまとグレースは斬首刑に……。想像するだけでにやついてしまいそうだ。
邪魔者さえ排除できれば、自分はハドムンと一緒にいることができる。
せっかく義姉から奪った婚約者。存分に愛し合いたいと、そう思うようになったから。
「お義姉様、覚悟なさいね? 第二の断罪劇をお楽しみに」
その呟きは、王の間にいた人々には届かないほど小さい。
しかしそこに込められた憎悪はとんでもなく色濃いものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの女が伯父上を殺したというのか。……やはり彼奴は魔女だったか」
「そうなのです。あのような女を義姉と呼んでいたかつてのわたしが悍ましいくらいですわ」
「ジェイミーは私が守る。約束だ」
「ハドムン様、嬉しいっ」
ハドムンと抱き合いながら、ジェイミーは思う。
一度目の断罪劇は甘かった。自分を痛めつけてまで彼女を貶めてやったというのに、追放処分とは何たる軽い罪なのか。
事実、グレースはジェイミーを嘲り笑っていた。あんな女、あの場で首を断たれてしまえば良かった。
けれど今度こそそれが叶う。
本当に王弟殿下を連れ去ったのは誰なのか知らないが、そんなことはどうでもいい。ジェイミーのおかげでそいつの罪はグレースのものとなるのだから。
ああ、なんて素敵なのだろう。
グレースさえいなければ、何も心配することはなくなるのだ。
あの栗色の髪に、吸い込まれるような瞳に狂おしいほどの嫉妬を抱くこともない。今もどこかで自分に復讐しようと企んでいるであろう彼女に怯える必要もない。
(最高の気分だわ! 初めてあのクソ女を超えるのね、最高だわ。これでわたしは満足に王妃教育が受けられるってわけだわ。受けたくないけど……でもハドムン様さえいれば大丈夫よね。よーし、やるぞー!)
ニコニコ笑顔になりながら、ジェイミーはハドムンの胸に顔を埋めた。
これから数日後、大罪人グレースの名は各地に広まることになる。
騎士団が彼女を捕らえるために国中を奔走し、それまでは大して興味を示さなかった町の人々も、皆彼女の名を聞くと顔を歪めるようになった。
グレースが捕らえられるのも時間の問題。
ジェイミーが『義姉打倒作戦』と勝手に名付けたこの計画は順調に進んでいる。
どうかこの作戦が成功しますように――ジェイミーは心からそう願うのであった。
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