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第二十六話 華々しい冒険者活動の日々
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――あれから数日後。
グレースは完全に生き方を変え、自由奔放な毎日を過ごしていた。
やりたい仕事があれば率先して言い、何事も積極的に取り組む。
そして笑顔を絶やさない。淑女の笑みではなく心からの笑顔を浮かべる。
最初はセイドも少し戸惑っていたようだが、「可愛いね」と言ってくれて、グレースはもう最高の気分になった。
……ただし、まだこの恋心は伝えていないけれど。
こうして過ごしていたある日、グレースの元へ嬉しい知らせが。
「グレー。どうやら僕らのパーティーがBランクに昇格されたらしい」
「まあ、本当ですか! それはそれは素晴らしい。セイド様のおかげです」
「いいや、おそらくは君の業績が大きいと思うよ」
実際にグレーはたくさん稼ぎ過ぎているくらいだしね、と彼は付け足す。
確かに言われてみれば、ここ最近で金貨何枚分も報酬として受け取っている。これがあればドレスの数着は変えそうだとグレースは思った。ワンピースもコルセットがなくて楽でいいが、やはりドレスも一着くらいは欲しいかも知れない。
「セイド様。Bランクに昇格したということは、もちろんのことできる仕事が増えるわけですよね?」
「ああ、そうだけど」
「ならば今後の活動予定を決めましょう。今までよりさらに華々しい活躍をしたいのです」
せっかく昇格したのだ、今までとは違った斬新なことがしたい。
そう思い、酒場の掲示板を見ると、良さそうな仕事がすぐに見つかった。
「これなんていかがでしょう? 暗黒谷の魔法石の採取とあります」
「暗黒谷って……あの?」
暗黒谷とは魔法石の宝庫である。
ちなみに、魔法石というのはランプをつけたり飯炊きをするための火に使ったりする燃料のこと。温めるだけではなく物を冷やすこともでき、色々と便利だ。
それがたくさん眠っている場所が暗黒谷。……なのだが、そこは魔物だらけで足を踏み入れた者の半分が帰って来ないという恐ろしい土地である。
だがグレースは何事も恐れない。
「もちろんです。セイド様とワタクシがいればきっと大丈夫です。そうでしょう、セイド様?」
彼はなんとも言えない顔でルビーの瞳を逸らし、ため息を漏らした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、王国東部の暗黒谷まで向かい、そこで大冒険を繰り広げることになった。
魔法石の宝庫というよりかは魔物の宝庫だ。人喰い犬やら人喰い虎、熊、蛇、果てにはドラゴンまで。
それらを次々に倒しながら最深部へ到達すると、そこにはあらゆる色の輝くを放つ魔法石がゴロゴロと転がっていた。
「まあ、素敵です。これを全て売り払えば金貨一千枚分にはなるでしょうね」
「そうだね。それにしてもこれはすごい……」
ありったけを持ち帰ると、多くの冒険者たちに驚かれた。
そして有り余るほどの報酬を受け取ったグレースは大満足である。
「仕事は順風満帆。暗黒谷での冒険もとても楽しかったですし、本当にいいことづくめです」
彼女はもはや楽しむことしか考えていない。
Bランクの仕事は魔石採取が主だが、世界に数えるほどしかないかなり特殊な薬草であったりとか、要人の護衛、果てには洞窟探索など色々とできる仕事が増える。
それを片っ端からこなしていき、『必勝の牙』の華々しい活動の噂は近隣の領地だけではなく広くに知れ渡った。もしかすると王都にまでこの話が届いているかも知れない。だが、まさか女魔道士の正体をグレースと疑うような賢い人間があちらにいるとは思えないし、心配することもないだろう。
そういえばハドムン王太子は今頃どうしているだろうか。もはや完全に無縁の人となってしまった彼には全然興味が湧かないが。
冒険者は国王からの栄誉賞をいただくこともあるらしいのだが、それは残念ながらお断りしなければならないだろうなと考える。さすがに顔を出してしまえばどんな馬鹿でも彼女の正体に気づくだろう。そうなったらどんな目に遭わされるかわかったものではない。
グレースはこれで一応、王太子に唾をかけたのだから。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「もっともっと働きたいです。次は何をしますか?」
「――なあグレー。僕、思うんだけど」
忙しくしていたある日のこと。
今日の予定を決めようと言ったグレースに、セイドがこんなことを言い出した。
「最近働きすぎじゃないかい? たまには休みを作った方がいいと思うんだけど」
「お休み、ですか……? ワタクシはこれっぽっちも疲れておりませんが」
「僕は剣を振るのは得意だが、あまり忙しなくするのは好きじゃないんだ。たまにはこう、落ち着いた日があってもいいんじゃないかなと思って」
言われて、グレースはハッとなった。
あまりにも毎日に夢中すぎて彼のことを考えるのを忘れていた。そういうことなら確かに休みを作った方がいいだろう。
「では明日は丸々、冒険者のお仕事を休むとしましょう。――その代わり」
グレースはにっこりと笑った。
「ワタクシとセイド様二人の思い出になるような、そんな素敵な日にいたしませんか?」
グレースは完全に生き方を変え、自由奔放な毎日を過ごしていた。
やりたい仕事があれば率先して言い、何事も積極的に取り組む。
そして笑顔を絶やさない。淑女の笑みではなく心からの笑顔を浮かべる。
最初はセイドも少し戸惑っていたようだが、「可愛いね」と言ってくれて、グレースはもう最高の気分になった。
……ただし、まだこの恋心は伝えていないけれど。
こうして過ごしていたある日、グレースの元へ嬉しい知らせが。
「グレー。どうやら僕らのパーティーがBランクに昇格されたらしい」
「まあ、本当ですか! それはそれは素晴らしい。セイド様のおかげです」
「いいや、おそらくは君の業績が大きいと思うよ」
実際にグレーはたくさん稼ぎ過ぎているくらいだしね、と彼は付け足す。
確かに言われてみれば、ここ最近で金貨何枚分も報酬として受け取っている。これがあればドレスの数着は変えそうだとグレースは思った。ワンピースもコルセットがなくて楽でいいが、やはりドレスも一着くらいは欲しいかも知れない。
「セイド様。Bランクに昇格したということは、もちろんのことできる仕事が増えるわけですよね?」
「ああ、そうだけど」
「ならば今後の活動予定を決めましょう。今までよりさらに華々しい活躍をしたいのです」
せっかく昇格したのだ、今までとは違った斬新なことがしたい。
そう思い、酒場の掲示板を見ると、良さそうな仕事がすぐに見つかった。
「これなんていかがでしょう? 暗黒谷の魔法石の採取とあります」
「暗黒谷って……あの?」
暗黒谷とは魔法石の宝庫である。
ちなみに、魔法石というのはランプをつけたり飯炊きをするための火に使ったりする燃料のこと。温めるだけではなく物を冷やすこともでき、色々と便利だ。
それがたくさん眠っている場所が暗黒谷。……なのだが、そこは魔物だらけで足を踏み入れた者の半分が帰って来ないという恐ろしい土地である。
だがグレースは何事も恐れない。
「もちろんです。セイド様とワタクシがいればきっと大丈夫です。そうでしょう、セイド様?」
彼はなんとも言えない顔でルビーの瞳を逸らし、ため息を漏らした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局、王国東部の暗黒谷まで向かい、そこで大冒険を繰り広げることになった。
魔法石の宝庫というよりかは魔物の宝庫だ。人喰い犬やら人喰い虎、熊、蛇、果てにはドラゴンまで。
それらを次々に倒しながら最深部へ到達すると、そこにはあらゆる色の輝くを放つ魔法石がゴロゴロと転がっていた。
「まあ、素敵です。これを全て売り払えば金貨一千枚分にはなるでしょうね」
「そうだね。それにしてもこれはすごい……」
ありったけを持ち帰ると、多くの冒険者たちに驚かれた。
そして有り余るほどの報酬を受け取ったグレースは大満足である。
「仕事は順風満帆。暗黒谷での冒険もとても楽しかったですし、本当にいいことづくめです」
彼女はもはや楽しむことしか考えていない。
Bランクの仕事は魔石採取が主だが、世界に数えるほどしかないかなり特殊な薬草であったりとか、要人の護衛、果てには洞窟探索など色々とできる仕事が増える。
それを片っ端からこなしていき、『必勝の牙』の華々しい活動の噂は近隣の領地だけではなく広くに知れ渡った。もしかすると王都にまでこの話が届いているかも知れない。だが、まさか女魔道士の正体をグレースと疑うような賢い人間があちらにいるとは思えないし、心配することもないだろう。
そういえばハドムン王太子は今頃どうしているだろうか。もはや完全に無縁の人となってしまった彼には全然興味が湧かないが。
冒険者は国王からの栄誉賞をいただくこともあるらしいのだが、それは残念ながらお断りしなければならないだろうなと考える。さすがに顔を出してしまえばどんな馬鹿でも彼女の正体に気づくだろう。そうなったらどんな目に遭わされるかわかったものではない。
グレースはこれで一応、王太子に唾をかけたのだから。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「もっともっと働きたいです。次は何をしますか?」
「――なあグレー。僕、思うんだけど」
忙しくしていたある日のこと。
今日の予定を決めようと言ったグレースに、セイドがこんなことを言い出した。
「最近働きすぎじゃないかい? たまには休みを作った方がいいと思うんだけど」
「お休み、ですか……? ワタクシはこれっぽっちも疲れておりませんが」
「僕は剣を振るのは得意だが、あまり忙しなくするのは好きじゃないんだ。たまにはこう、落ち着いた日があってもいいんじゃないかなと思って」
言われて、グレースはハッとなった。
あまりにも毎日に夢中すぎて彼のことを考えるのを忘れていた。そういうことなら確かに休みを作った方がいいだろう。
「では明日は丸々、冒険者のお仕事を休むとしましょう。――その代わり」
グレースはにっこりと笑った。
「ワタクシとセイド様二人の思い出になるような、そんな素敵な日にいたしませんか?」
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