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第十六話 パーティー結成
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「パーティーを組む、ですって……!?」
セイドの言葉に、グレースは声を上げずにはいられなかった。
Aランクの冒険者であるらしいセイド。もちろん仲間になれば一気に上へ近づけるかも知れないが。
「嫌かな?」
「嫌……ではありません。でも」
今日出会ったばかりの人間を信用することはグレースにはできない。
いくら、自分の命を助けてくれた恩人だとしても、だ。実際にハドムン王太子に裏切られた過去がある以上、誰も彼もを信用するようなお人好しではいられないのだから。
グレースには彼を本当に紳士かどうか判断する力がなかった。
確かにいい人そうには見える。しかしそれが見せかけだったら? 第一、出会ったばかりの素性の知れない娘に「仲間になれ」と言っている時点で怪しいものである。
「ワタクシ、おそらくあなた様の足手まといになってしまいます。それにこれ以上ご迷惑をおかけするわけには」
「嫌ならいいんだが。……この前、今まで組んでいた仲間に追い出されてしまってね。僕はそれなりにそこのパーティーで有能だったはずなんだが、ありもしない難癖をつけて。それで今ちょうど新しい相手を探していたところだったんだよ。君ならちょうどいいと思ってね」
彼のルビー色の瞳を見る限り、嘘はないように見える。
しかしうっかり油断して騙されでもしたら大変だ。そう思う一方でグレースは、彼の強さに心から感心していた。
彼さえいれば、先ほどのドラゴンさえ怖くない。国を揺るがすようなことも容易いのではないだろうか。
魔法しか扱えない小娘のグレースにとって、仲間の存在はとても大きいものだった。いざというときに何かに使えるという面もある。
ここは多少の不安があれど、誘いに乗った方が良さそうだ。
「お誘いいただきありがとうございます。ワタクシとぜひ、パーティーを組んでください」
「喜んで」
いつかいらなくなれば捨てればいい。今は必要な駒として手元に置いておこう。
そのように考え、グレースは彼の手を取った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「AランクとDランクが組むのは珍しいのですか」
「そうだね。基本的同じランクの仲間と組むことが多い。特にAは上から二番目、Dは最下層だからね」
ちなみに一番上位はSであるが、このランクはなかなか見かけない存在なので、ほとんどAがトップと言ってもいい。
セイドの実力は、あの戦いを見ていれば一目瞭然だった。あれほどに剣の扱いがうまいのは王国騎士でもあまり見かけなかったように思う。特にそんじょそこらの護衛と比べれば、百倍は美しい剣裁きだった。
――この方ならワタクシを守るに相応しいでしょう。
隣を歩く彼を見ながら、グレースは品定めをする。
体格がいいしグレースと並んでもなんら違和感はない。少なくとも低俗な人間ではないと思われる点も彼女がセイドを認めた理由の一つだ。
とりあえず、パーティーを組むには最適な好物件と言えるだろう。
そうしてグレースたちは再び、ギルドの受付嬢の前にいた。
「いらっしゃいませ。お仕事であればそちらの掲示板から選んでいただけますが」
「今日は仕事でも依頼でもないのです。実は、パーティーを結成したく思います」
「まあ」グレースの言葉に受付嬢は驚いたようだ。「一日でお相手を見つけたのでございますか」
「ええ。この方ですよ」
「戦士セイド。Aランク。彼女、魔道士グレーとパーティーを組みたく思っている」
AランクとDランクと聞いて、さらに受付嬢が仰天してしまった。
なんだか申し訳ない気持ちになりつつも手続きをお願いする。
「……で、では。まずパーティー名を決定してください」
「パーティー名?」
「グループの名前だ」
要は家名のようなものだろう、とグレースは納得。
それならふさわしい名称はたった一つだと思った。
「『必勝の牙』などいかがでしょう?」
今度は、グレースに対してセイドが首を傾げる番だった。
彼女は胸を張りながら嬉々として説明する。
「ワタクシたちは何があっても立ち向かい、勝つのです。例え相手が王国であろうとも!」
「は、はあ」
セイドが意味を理解しなくてもいい。王国へと噛み付く牙となるためなのだ。
本来はパーティーのリーダーはAランクのセイドになるはずだったが、お願いしてグレースがリーダーになるようにも手配した。
こうして、我らがパーティー『必勝の牙』は結成されたのである。
「Aランク戦士とDランク女魔道士。なかなかに面白い組み合わせだね」
「ええ、そうですね。ワタクシたちは牙のように鋭くなるためにこれから精進してまいりましょう。改めてよろしくお願いします、セイド様」
「こちらこそよろしく、グレー」
ドラゴン討伐の報酬は二人で山分けした上に、助けてもらった恩はこの件でゼロに戻してくれるという話になり、グレースは大助かり。しかも大きな戦力が手に入ったのだから嬉しいことこの上ない。
こうして、グレースはまた復讐への道を一歩前進する。
この牙が王国へ届くのも時間の問題に違いない。必ずこの毒牙によって復讐を遂げるのだ。
セイドの言葉に、グレースは声を上げずにはいられなかった。
Aランクの冒険者であるらしいセイド。もちろん仲間になれば一気に上へ近づけるかも知れないが。
「嫌かな?」
「嫌……ではありません。でも」
今日出会ったばかりの人間を信用することはグレースにはできない。
いくら、自分の命を助けてくれた恩人だとしても、だ。実際にハドムン王太子に裏切られた過去がある以上、誰も彼もを信用するようなお人好しではいられないのだから。
グレースには彼を本当に紳士かどうか判断する力がなかった。
確かにいい人そうには見える。しかしそれが見せかけだったら? 第一、出会ったばかりの素性の知れない娘に「仲間になれ」と言っている時点で怪しいものである。
「ワタクシ、おそらくあなた様の足手まといになってしまいます。それにこれ以上ご迷惑をおかけするわけには」
「嫌ならいいんだが。……この前、今まで組んでいた仲間に追い出されてしまってね。僕はそれなりにそこのパーティーで有能だったはずなんだが、ありもしない難癖をつけて。それで今ちょうど新しい相手を探していたところだったんだよ。君ならちょうどいいと思ってね」
彼のルビー色の瞳を見る限り、嘘はないように見える。
しかしうっかり油断して騙されでもしたら大変だ。そう思う一方でグレースは、彼の強さに心から感心していた。
彼さえいれば、先ほどのドラゴンさえ怖くない。国を揺るがすようなことも容易いのではないだろうか。
魔法しか扱えない小娘のグレースにとって、仲間の存在はとても大きいものだった。いざというときに何かに使えるという面もある。
ここは多少の不安があれど、誘いに乗った方が良さそうだ。
「お誘いいただきありがとうございます。ワタクシとぜひ、パーティーを組んでください」
「喜んで」
いつかいらなくなれば捨てればいい。今は必要な駒として手元に置いておこう。
そのように考え、グレースは彼の手を取った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「AランクとDランクが組むのは珍しいのですか」
「そうだね。基本的同じランクの仲間と組むことが多い。特にAは上から二番目、Dは最下層だからね」
ちなみに一番上位はSであるが、このランクはなかなか見かけない存在なので、ほとんどAがトップと言ってもいい。
セイドの実力は、あの戦いを見ていれば一目瞭然だった。あれほどに剣の扱いがうまいのは王国騎士でもあまり見かけなかったように思う。特にそんじょそこらの護衛と比べれば、百倍は美しい剣裁きだった。
――この方ならワタクシを守るに相応しいでしょう。
隣を歩く彼を見ながら、グレースは品定めをする。
体格がいいしグレースと並んでもなんら違和感はない。少なくとも低俗な人間ではないと思われる点も彼女がセイドを認めた理由の一つだ。
とりあえず、パーティーを組むには最適な好物件と言えるだろう。
そうしてグレースたちは再び、ギルドの受付嬢の前にいた。
「いらっしゃいませ。お仕事であればそちらの掲示板から選んでいただけますが」
「今日は仕事でも依頼でもないのです。実は、パーティーを結成したく思います」
「まあ」グレースの言葉に受付嬢は驚いたようだ。「一日でお相手を見つけたのでございますか」
「ええ。この方ですよ」
「戦士セイド。Aランク。彼女、魔道士グレーとパーティーを組みたく思っている」
AランクとDランクと聞いて、さらに受付嬢が仰天してしまった。
なんだか申し訳ない気持ちになりつつも手続きをお願いする。
「……で、では。まずパーティー名を決定してください」
「パーティー名?」
「グループの名前だ」
要は家名のようなものだろう、とグレースは納得。
それならふさわしい名称はたった一つだと思った。
「『必勝の牙』などいかがでしょう?」
今度は、グレースに対してセイドが首を傾げる番だった。
彼女は胸を張りながら嬉々として説明する。
「ワタクシたちは何があっても立ち向かい、勝つのです。例え相手が王国であろうとも!」
「は、はあ」
セイドが意味を理解しなくてもいい。王国へと噛み付く牙となるためなのだ。
本来はパーティーのリーダーはAランクのセイドになるはずだったが、お願いしてグレースがリーダーになるようにも手配した。
こうして、我らがパーティー『必勝の牙』は結成されたのである。
「Aランク戦士とDランク女魔道士。なかなかに面白い組み合わせだね」
「ええ、そうですね。ワタクシたちは牙のように鋭くなるためにこれから精進してまいりましょう。改めてよろしくお願いします、セイド様」
「こちらこそよろしく、グレー」
ドラゴン討伐の報酬は二人で山分けした上に、助けてもらった恩はこの件でゼロに戻してくれるという話になり、グレースは大助かり。しかも大きな戦力が手に入ったのだから嬉しいことこの上ない。
こうして、グレースはまた復讐への道を一歩前進する。
この牙が王国へ届くのも時間の問題に違いない。必ずこの毒牙によって復讐を遂げるのだ。
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