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第六章

第67話 身も心も

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 猛の手でイカされた洋介は、朦朧とする意識の中でまだ快感に酔いしれていた。
 だが、猛は休むことなく洋介を攻め立てる。
 猛は洋介の足を大きく開き、洋介の左足を自分の右肩に乗せる。
 あらわになった洋介の蕾に指を差し入れ、入り口を少しずつ広げ、慣らす。
 異物の侵入に「うっ……」と小さく声を漏らした洋介の身体は、美しい弧を描いて反る。
 この体勢では否応なく星型の傷痕が猛の目に入る。
 記憶の上書き。今がその時。
 猛が与える快感に身を捩り、潤んだ瞳で猛を見上げる洋介の姿は猛を極限まで煽る。本人は煽っているつもりはないのだろうが、猛の欲情に火を付ける。

 指の数を増やすと、その弧はさらに高くなる。
 猛はぷっくりと膨らんだ洋介の乳首を口に含み、軽く噛む。
 胸への刺激に合わせて洋介の蕾は猛の指をきつく絞る。

「食いちぎられそうだな。洋介、力抜け」
「無理言うな……あぁ!!……」
 猛の指が洋介の一番感じる場所を探し当てた。
「ここか?」
「そこっ、ダメだ!……や…め……あぁっ!!」
「ここだな」
 猛はニヤリと笑って探り当てた場所を執拗に攻める。
 洋介は次第に我を忘れ、快感を貪欲に追い始める。
 身悶える洋介の妖艶な裸体が跳ね、星型の傷痕が猛の目の前で揺れる。
 猛の罪の象徴で罰でもあるこの傷痕。この傷跡が洋介への愛の誓いとなるまで決して目を背けないと猛は心に決めた。
 やっと手に入れた洋介を手放すことなどこの先何があってもあり得ない。三十年間失われることのなかったこの想いが叶った今、猛に迷いなど一切なく洋介が逃げ出そうとしても逃がすつもりはない。追いかけて追いかけて、必ず連れ戻す。

 乱れる洋介を目の前にしている猛の中心は腹に着きそうなくらい勃ち上がっている。
 鮮やかな手つきであっと言う間にゴムを着けると、先端を洋介の蕾の入り口にあてがう。

「さすがに手慣れてるな。こんなに素早くゴムを着けられるとは、いったいお前は何回この作業を繰り返してきたんだ?」と、洋介は単純に感心したが、よくよく考えるとそれだけ抱いた人数が多いということだ。少しばかりの嫉妬を覚える。

 先程まで猛の指で慣らされ、経験したことのない快感を与えられていた部分に猛の雄の存在を感じた途端、少しの恐怖とさらなる快楽への期待で洋介の頬が紅潮する。
 その姿はあまりにも美しい。

 猛は「入れるぞ」と言うと、ゆっくりと腰を動かし半分ほど挿入する。
 快感と痛みで歪む洋介の表情を見下ろしながら、猛は残りの半分をさらに挿入する。
「おっ、おい、猛……あっ!……」
 猛は先程見つけた洋介の感じる場所を自分のものの先端で擦り上げ、洋介を追い立てる。

「……あっ、あぁ!……」

 堪えきれず声を上げる洋介の反応にますます煽られた猛の腰のスピードが徐々に上がる。

「……おい、猛……もっとゆっくり……あぁ!……あっ……あぁ!……」
 もっとゆっくりと懇願する洋介を猛は容赦なく攻め立てる。
「もっと声を聴かせてくれ、洋介。声を我慢するな、もっと、もっと、乱れろ!」
 そう言うと、猛は容赦なく腰を何度も何度も洋介に打ちつける。
 洋介の声が少しずつ大きくなり、絶頂が近くなってきていることが猛には手に取るように分かる。

 猛が不意に腰の動きをピタリと止めた。
 昇りつめようとしていた洋介は急に放り出され、困惑する。
「なんだよ、猛! ここで止めるな! これじゃ生殺しだろ!」
 洋介のこの問に猛は答えることなく洋介の中から自身の硬いままの雄を引き抜く。
 洋介の狭い内部を抜ける途中の敏感な部分を猛のカリが引っ掻く。
「……あぁ!……」と洋介が声を上げたときには猛の雄は全部外に出ていた。

 文句を言おうと開きかけた洋介の口を猛の荒々しい口づけが塞ぐ。
 猛のベルガモットのコロンの香りに包まれながら、洋介は懸命に猛の口づけに応える。
 洋介を抱き起こした猛は、今度は自分がベッドに横たわる。
 洋介の腰を引き寄せ「上に乗るか?」と訊く。
 質問のように聞こえるが、猛は「No」の答えを受け入れるつもりはまったくなかった。
 質問ではなく誘導の言葉だった。

 洋介を自分の上に跨がらせた猛は、洋介の蕾の入り口に自分のものの先端を押し付け、「そのまま腰を降ろせ」と囁く。
 同性との初めてのセックスで騎乗位に挑戦する恐怖はあるものの、その先の世界に飛び込んで違う景色を見てみたいとも思う。今の洋介の身体は自分が思うより遥かに貪欲に快楽を求めている。
 絶頂に到達する寸前に引き抜かれた洋介の身体の内側では不完全燃焼の炎がプスプスと暴れている。
 頭より先に身体が反応し、洋介はすでに腰を降ろし始めていた。

「……ああっ……」
 声を漏らしながら洋介は猛のものを飲み込む。
 下から見上げる洋介の姿は彫刻のように美しく、これまで何度も想像した姿の何倍も妖しく扇情的だ。
 猛は下から手を伸ばし、洋介の赤く膨らんだ乳首を軽く摘む。
 その刺激に合わせて洋介の蕾が猛のものを絞り上げる。

「おい、洋介、あんまり締めるな……つっぅ……」
「無理言うな、猛。自分じゃコントロールできないんだよ……あぁ、また……あっ!……やめろ、猛!……胸を摘むな!」
「やだね。お前感じてるんだろ? お前の中、俺のに絡み付いてくるぞ。最高に気持ちいい!」

 負けじと洋介も猛に「お前の感じている顔はかわいいな。もっと感じさせたくなる」と言ったが、すぐに猛に乳首を攻められ返り討ちにあう。
「……あぁ、猛! そこばかり攻めるな!」
「どっちが感じてるんだ。お前のほうが乱れてるぞ。ほら、こんなに腰が動いてる。自分でいい所を擦ってみろよ」
 そう言うと猛は洋介の腰を両手で掴み、何度も前後に大きく動かした。
「どうだ、ここか?」
「エロおやじみたいな言い方は止めろ……あぁ、そこ……ダメだ、止めろ、猛!」
「止めていいのか? お前の身体は止めて欲しくないみたいだぞ。ほら」
 猛は洋介の腰を掴んでいた手を離す。
 すると洋介の腰は自らの意志で動き始める。前へ後ろへ上へ下へ、快感の得られる場所を探りながら一心に繰り返す。快感の波が徐々に高まり、絶頂がすぐそこまで来ていることが洋介の様子からありありと分かる。
 寄せられた眉根、反り上がる顎、あらわになる白くて長い首、そして艶めかしい声。
 洋介と一緒に絶頂を迎えるべく、猛は下から勢いよく突き上げ始める。
 深いところに届く猛の突き上げに昇りつめる洋介。
「一緒にイクぞ、洋介!」
 猛はスピードを上げ、力の限り打ちつける。
 肌と肌がぶつかり合う音が部屋中に響き、二人の男が同時に達する瞬間を迎えようとしていた。
 洋介の身体は美しい弧を描き、少し開いた濡れた唇からは形容しがたいほど美しい音が漏れる。
 男なら誰もが聞きたい音。セックスの相手が高みに昇りつめた瞬間に発せられる吐息のような音。

「……うっ……あぁっ!……はぁぁ……」

 まだ収まらない絶頂の波に揺さぶられたままの洋介の身体は痙攣しているように震えている。
 猛は、繋がったまま半身を起こし洋介の身体を腕の中にやさしく包み込む。
 ビクビクと痙攣している洋介はまだ外部からの刺激に敏感に反応する。
 猛の腕が洋介の肌に触れた瞬間にも大きくビクリと硬直した。

「洋介……愛してる。今までも、これからも。お前を愛している……」

 猛は震える洋介の耳元で囁く。
 その言葉を聞いた洋介は、満足げに微笑むとゆっくりと瞼を閉じ、意識を失った。

「おい、おい、まだ俺のが入ったままだぞ」
 言葉とは裏腹に猛の表情は優しく、慈しむ眼差しで腕の中の洋介を見つめている。
 猛が軽々と洋介を抱き上げると、繋がっていた部分がスルリと抜けた。

「あっ……ぁ」

 意識がないはずの洋介が悩ましい声を出す。まだ敏感な内部を猛のもので擦られ感じてしまったようだ。

「これ以上俺を煽るな、洋介」
 そう呟くと、まるで大切な宝物を扱うように洋介をベッドの上にゆっくりと横たえ、洗面所から濡れタオルを持ってくる。
 洋介の身体を隅々まできれいに拭い、時折軽いキスを洋介の肌に落とす。
 星の傷痕は念入りに手当をし、最後に一度だけ誓いを立てるように傷痕にキスをする。

 自分のせいで愛する者が傷ついた。
 これは不変の事実で猛が背負っていかなければならない罪だ。
 多分洋介は本気で猛を責めることはない。冗談半分で「お前のせいだ」と言うのは猛の罪悪感を拭うための洋介の優しさだ。だが、猛は罪の償いとは関係なく洋介を愛し抜き、守ることをこの傷痕に誓う。
 幼かったあの頃に初めて感じた洋介への恋情、憧れ、欲情。そのどれもが今鮮やかに蘇る。

「愛情ってのは天井がないんだな。あの時よりも今、昨日より今日、もっとお前を愛してる」

 猛は、静かに寝息を立てている洋介をそっと後ろから抱きしめる。
 もっと洋介の身体を味わいたかったが、これ以上無理をさせると洋介の身体が壊れてしまう。

「まあいいさ。これからいくらでも洋介を抱けるしな」

 腕の中で眠るたった一人の愛する男の存在を確かめながら、いつしか猛も寝息を立て始めた。

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