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第五章
第50話 ミゲルの行方
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新宿署の取調室では、片岡が富樫組のチンピラと向かい合って座っている。
片岡の斜め後ろには寺嶋が立っており、目の前の二人を観察している。
「バイク便の事務所に荷物を持ち込んだのはお前だろ? 防犯カメラにバッチリ映ってたぞ」
チンピラは、そっぽを向き、黙ったまま何も言わない。
「お前、弁護士の先生を襲って拉致しただろ。じゃなきゃバイク便に持ち込んだコートを手に入れられないもんな。それとも誰かに頼まれてやったのか? 例えば……きれいな男とか」
チンピラの片方の眉がピクリと動く。だが無言のまま。
「現場で見つかったスマホの契約者を調べたらお前だったよ。でもお前はあの現場に近づいてないよな。あのスマホは、『きれいな男』に貸してやったのか?」
男の表情は能面のようにまったく動かなくなった。
「そうか、喋りたくないか……まあいい、時間はたっぷりある。とことん付き合ってやるよ」
そう言うと、片岡は椅子の背もたれにゆったりと背中を預けリラックスした体勢で向かいに座る男を無言で見つめる。
男の名は井上俊彦。富樫組の末端構成員だ。
片岡に無言で圧力をかけられ、どんどん居心地が悪くなる。
片岡が内ポケットから自分のスマホを取り出し、井上には見えない角度で画面に一枚の画像を表示する。
画面を見ながら「世の中にはこんなにきれいな男がいるんだな」と、わざと井上を煽るように言う。
井上は片岡のスマホの画面を覗きたい衝動を隠せず、チラチラと片岡のスマホに視線を向け途端に落ち着きがなくなった。
片岡は長年の経験から、あとひと押しで井上が喋りだすことを知っている。
あとほんのひと押し。
片岡が井上に仕掛ける。
「えーっと、名前は何だっけ……ミゲルだったか?」
片岡のこの言葉で井上の我慢は限界に達した。
「ミゲルは……ミゲルは今どこにいる?」
この質問は井上からだった。
「こっちが聞きたいよ。お前も知らないのか。もしかして逃げられたのか? スマホまで貸してやったのに、ミゲルってのは薄情な奴だな」
井上が片岡を睨む。
「お前のミゲルはこいつで間違いないか?」
片岡がスマホの画面を井上に向ける。
井上の瞳が僅かにギラつく。
「ほぉ」
井上の反応を見た片岡が感嘆の声をあげる。
「随分とご執心のようだな」
井上は無言で片岡のスマホに手を伸ばし掴もうとする。
片岡はスマホをスッと手前に引き、井上の手をかわす。
「この写真は随分と前のものらしい。今はもう少し大人になって顔も少し変わってるのか?」
「…………」
「もう全部バレてるんだから喋っても問題ないだろ、なあ井上」
片岡が穏やかに井上を諭す。
後ろに立っていた寺嶋が、「落ちたな」と小さく呟いた。
片岡の斜め後ろには寺嶋が立っており、目の前の二人を観察している。
「バイク便の事務所に荷物を持ち込んだのはお前だろ? 防犯カメラにバッチリ映ってたぞ」
チンピラは、そっぽを向き、黙ったまま何も言わない。
「お前、弁護士の先生を襲って拉致しただろ。じゃなきゃバイク便に持ち込んだコートを手に入れられないもんな。それとも誰かに頼まれてやったのか? 例えば……きれいな男とか」
チンピラの片方の眉がピクリと動く。だが無言のまま。
「現場で見つかったスマホの契約者を調べたらお前だったよ。でもお前はあの現場に近づいてないよな。あのスマホは、『きれいな男』に貸してやったのか?」
男の表情は能面のようにまったく動かなくなった。
「そうか、喋りたくないか……まあいい、時間はたっぷりある。とことん付き合ってやるよ」
そう言うと、片岡は椅子の背もたれにゆったりと背中を預けリラックスした体勢で向かいに座る男を無言で見つめる。
男の名は井上俊彦。富樫組の末端構成員だ。
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片岡が内ポケットから自分のスマホを取り出し、井上には見えない角度で画面に一枚の画像を表示する。
画面を見ながら「世の中にはこんなにきれいな男がいるんだな」と、わざと井上を煽るように言う。
井上は片岡のスマホの画面を覗きたい衝動を隠せず、チラチラと片岡のスマホに視線を向け途端に落ち着きがなくなった。
片岡は長年の経験から、あとひと押しで井上が喋りだすことを知っている。
あとほんのひと押し。
片岡が井上に仕掛ける。
「えーっと、名前は何だっけ……ミゲルだったか?」
片岡のこの言葉で井上の我慢は限界に達した。
「ミゲルは……ミゲルは今どこにいる?」
この質問は井上からだった。
「こっちが聞きたいよ。お前も知らないのか。もしかして逃げられたのか? スマホまで貸してやったのに、ミゲルってのは薄情な奴だな」
井上が片岡を睨む。
「お前のミゲルはこいつで間違いないか?」
片岡がスマホの画面を井上に向ける。
井上の瞳が僅かにギラつく。
「ほぉ」
井上の反応を見た片岡が感嘆の声をあげる。
「随分とご執心のようだな」
井上は無言で片岡のスマホに手を伸ばし掴もうとする。
片岡はスマホをスッと手前に引き、井上の手をかわす。
「この写真は随分と前のものらしい。今はもう少し大人になって顔も少し変わってるのか?」
「…………」
「もう全部バレてるんだから喋っても問題ないだろ、なあ井上」
片岡が穏やかに井上を諭す。
後ろに立っていた寺嶋が、「落ちたな」と小さく呟いた。
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