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第五章

第46話 突入

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 廃ビルの内部は光源がまったくないため、片岡をはじめとする警官たちは手持ちの懐中電灯で視界を確保する他なかった。
 暗闇の中、警官たちはできる限り迅速にビル内の各フロアを捜索し、地上階の安全確認を完了した。
 残るは地下フロアのみ。
 地下への入り口で片岡と寺嶋は合流し、正面入り口と裏口を見張る数名の警官以外全員が地下へと降り進む。
 一部屋ずつ内部を確認し、まだ確認が完了していない最後の部屋、最奥の「ボイラー室」とかろうじて読める札の掛かったドアの前に片岡と寺嶋が立つ。
「後はこの部屋だけだな」と片岡が言うと、「はい、残り全部屋の確認は完了しています」と寺嶋が答える。

「ここで何も見つからないと空振りだな。GPSの信号はまだ生きてるか?」
「はい、現在も発信中です。このビル内にあると思うのですが……」
 片岡と寺嶋のこの会話を他の警官たちが固唾を呑んで聞いている。
「よし、行くぞ!」
 片岡のこの一言で寺嶋がボイラー室のドアを開け、制服警官たちが部屋に入り、続いて片岡と寺嶋が入る。
 部屋の中にいる全員が懐中電灯で室内の四方八方を照らす。
 朽ちたボイラーやホコリだらけの清掃道具などが光で照らされ、浮かび上がる。
 乱れ飛んでいる懐中電灯の光の中に人影が映し出された。
「片岡さん、あそこ!」
 寺嶋が一点を指差して叫ぶ。
「真木先生!」
 片岡が洋介の名を叫ぶ。
 その人影は洋介だった。

 手を縛られ、天井からの伸びる鎖に吊り下げられている洋介に、一斉に懐中電灯の光が集まる。
 目隠しをされ前をはだけたシャツ一枚がかろうじて上半身を覆い、シャツの左半分は腕の傷から流れ出た血でべっとりと赤く染まっている。
 下半身は腰骨のあたりまで引き下げられた下着とズボンが、今にもずり落ちそうな状態で引っかかっている。左下腹部にも血の染みが広がっている。
 顔色は蝋のように青白く、身体はぐったりと垂れ下がりまったく動いていない。
 誰もが「遅かったか」と絶望する中、片岡だけは諦めていなかった。

「すぐ降ろせ! 救急車を呼べ!」と片岡が怒鳴ると、固まっていた警官たちが一斉に忙しく動き始めた。
 鎖から外され、床に横たえられた洋介の脈を調べる片岡。
「脈がある! 誰か毛布持って来い!」
 洋介の身体は驚くほど冷たい。だが、微かではあるものの確かに脈がある。
「真木先生、頼む……、頑張ってくれ……」
 片岡は毛布を洋介に掛け、祈るような気持ちで救急隊を待つ。

「真木先生、たくさんの人があんたを待ってるんだよ……ここで終わりじゃないだろ……あんたはここで終わる人じゃないだろ。頑張ってくれよ……」

 片岡は震える声で洋介に語りかけた。

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