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第五章

第45話 監禁場所

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 涼子は、新宿署の寺嶋刑事が運転する車の後部座席に座っていた。
 助手席にはベテランの片岡刑事が座している。涼子たちの後ろには二台のパトカーが続く。
 夜の帳が降り、雨も降り出していた。
 猛から知らされた携帯電話番号のGPSが示した場所へと急行している車内の空気を映し出すかのように暗く重苦しい夜だった。

 涼子たちは新宿の外れにある廃ビルに向かっていた。
「老朽化のため来週取り壊される予定のビルで、立入禁止にはなっているんですが特に警備員などは配置されていないそうです」
 運転する寺嶋が正面を向いたまま説明する。
「で、涼子ちゃん、海藤はそこに何があると言っていたんだ?」
 片岡が助手席から後部座席の涼子を振り返って訊いた。
「猛はそこにミゲルか洋介がいる可能性が高いと言っていました。私は個人的にミゲルの線はないと思っています。これだけ狡猾に物事を進めるミゲルがわざわざ自分の居場所をこんなに簡単に知らせるとは思いません。恐らく洋介の居場所だと思います……私の心配はそこではありません……」
 涼子が言葉に詰まると、片岡が涼子の代わりに「真木先生の生死……か」と続けた。
 車内にいる全員の頭によぎった言葉だが口に出せずにいた言葉だ。
 GPSの示す場所に到着するまでの間、沈黙が三人の上に重くのしかかっていた。

 寺嶋が車を停め、ヘッドライトを消した。
「この先の廃ビルがGPSが示した場所です。ビル内に犯人がいるかも知れませんので、気付かれないようにここからは歩きで接近します。美咲先生は車から出ないようにお願いします」と言う寺嶋の声には緊張の色が濃く含まれていた。
 今から犯罪現場に踏み込もうとしているのだから当然といえば当然だ。経験の浅い寺嶋は凶悪犯が潜伏しているかも知れない現場に踏み込んだ経験は極めて少ない。百戦錬磨の片岡ならいざ知らず、まだまだひよっこの寺嶋に緊張するなと言う方が無理な話である。特に今日は拳銃の携帯が許可されている。これが意味するものは『危険』であるということ。

「あまりのんびりもしていられない。コートに付着していた血痕から推測すると出血量はかなりだ。気温も下がってきている。寒さは体力を奪うからな」
 片岡は淡々と事実を述べているだけなのだが、どの事実も洋介が無事であるという希望を打ち砕くものばかりだ。
 涼子の表情がどんどん険しくなってゆく。
「ごめんな、涼子ちゃん。俺ら刑事はこんな物言いしかできなくて。でも涼子ちゃんは真木先生を信じてあげてくれ。絶対無事だと信じてあげてくれ」
 片岡だって洋介の無事を願わないわけはない。ただ、刑事としては最悪のシナリオを想定して動かざるを得ないのだ。因果な商売だ。だが、片岡も彼の若い相棒の寺嶋も自分たちの仕事に誇りを持っている。自分たちの仕事が誰かの人生の助けになっている、誰かの命を守っていることを知っているからだ。

「寺嶋、お前はB班を連れて裏口に回れ、俺は残りの班と正面から入る。涼子ちゃんは絶対車から出ないようにな」
 片岡は涼子に念を押して、他の警官たちと廃ビルへと向かった。
 一人車の中で待つ涼子にとっては五分が五時間にも感じられた。

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