上 下
44 / 77
第五章

第43話 Star-shaped Scar

しおりを挟む
 ミゲルはポケットから、柄の部分に美しい装飾が施されているバタフライナイフを取り出した。
 慣れた手付きで刃を出し、洋介へと近づく。
 ミゲルは、洋介のみぞおちにナイフの刃先をほんの少し触れさせ、その刃先を洋介の左の腰骨あたりまでゆっくりと滑らせる。
 刃先が辿った道筋にはうっすらと血が滲んでいる。

 洋介は、冷たい金属が肌に触れる感覚に恐怖を感じ、硬直する。
 洋介が恐怖を感じていることを嗅ぎ取ると、ミゲルは満足気に微笑む。
 刃先が腰骨の少し下、足の付け根近くに辿り着くと、ミゲルは刃先を少しめり込ませた。

「うっ!」

 痛みで洋介の顔が歪む。
 ミゲルは、刃先をめり込ませたままナイフをゆっくりと動かしていた。
 皮膚が切り裂かれ、血が流れる。

「あぁっ……っつ……」

 耐えきれず洋介の口から呻きが漏れる。

 ナイフの動きが止まった。

 ――その傷口は星の形をしていた。

「これはね、僕からアイツへのプレゼントなんだ」
 ミゲルは、また踊るように移動しながら楽しげに言う。
「アイツは喜んでくれるかな? きみの身体に僕の印を付けてあげたよ」
 ベルガモットの香りが鼻先をかすめる。
「この印を見るたびに、アイツは僕を思い出す。きみを抱くたび僕の存在を意識する」

 ミゲルは一呼吸置いて続ける。

「楽しいね。きみの身体に付けたこの印を見たとき、アイツはどんな顔をするかな? 僕は直接見ることができないから、今度会ったときに教えてよ。アイツがどんな顔をしたか……ふふっ……」
 ミゲルは楽しげに笑いながら、また踊るように動き回る。

「今ここで、きみを殺すこともできるけど、ゲームが終わってしまうのはつまらない。僕はもう少しきみたちと遊びたい。だからアイツにきみを助けるヒントをあげるつもりだよ。きみの命が尽きる前に、アイツはきみを見つけることができるかな?」

 出血と寒さで、洋介の意識がしだいに遠のいてゆく。
 薄れる意識の中でミゲルの言葉が微かに聞こえたような気がした。

「……間に合うといいね…………またね……」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

沈む陽、昇る月 - 番外編短編集(カクヨム KAC2023参加作品)

蒼井アリス
BL
『沈む陽、昇る月』の登場人物たちの何気ない日常の風景。 カクヨムにて開催されたKAC2023参加作品集。出されたお題に沿って書いた短編を集めました。お題は全部で7つ。「本屋」、「ぬいぐるみ」、「ぐちゃぐちゃ」、「深夜の散歩で起きた出来事」、「筋肉」、「アンラッキー7」、「いいわけ」 『沈む陽、昇る月』の本編は https://www.alphapolis.co.jp/novel/621069969/922531309

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...