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第三章

第25話 手術室前

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「手術中」のランプが消え、ドアが開いた。
 その音に、涼子と洋介は弾かれたように立ち上がった。

「ご親族の方ですか?」
 手術室から出てきた医師が、涼子と洋介に尋ねた。
「いえ、同僚で現場に居合わせた者です。親族は今こちらに向かっています」
 涼子が冷静に答える。
「そうですか。親族の方が到着されたら改めてご説明させていただきますが……幸い重要な臓器に大きな損傷はありませんでした。ただ、出血量が多かったため手術に時間がかかってしまいました。今後は集中治療室で術後経過を監視します。集中治療室での面会は原則親族の方のみですので、親族の方が到着されたらナースステーションまでご連絡ください」
 医師はそう言って手術室を後にした。

 薄暗い廊下に涼子と洋介は取り残される。
 辺りには何の音もなく、時が止まったような空間だった。

「ねえ、洋介。猛なら心配ないわよ」
 涼子が自信ありげに断言して集中治療室の方へと歩きだした。
「涼子さんは楽観的なんですね」
 洋介は立ちすくんだまま、涼子の言葉に対し苛立ちを露わにした。
「さっき先生が言ったこと聞いてなかったの? 重要な臓器に損傷はなかったと言っていたでしょ。それは命には別状がないという意味なの。分かった?」
 先を歩いていた涼子が、優しい眼差しで洋介を振り返った。

「……」

 洋介は無言のまま歩き始めた。
 二人はしばらく無言で廊下を歩き、薄暗い廊下を抜け、明るいホールに出た。
「涼子さん……」
 洋介がポツリと言う。
「何?」
 涼子が振り返る。
 自分の中に何か確かな答えを見つけ、吹っ切れたような表情で「ありがとう」と洋介が言う。
「どういたしまして」
 涼子は、真っ直ぐ前に向き直り、陽が差し込む大きな窓を見つめて答えた。

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