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第二章
第13話 依頼人
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翌日の朝九時、涼子と洋介の事務所には藤田夫妻、涼子、洋介、猛の五人が応接セットに座っていた。
藤田総一朗は八十歳近い年齢とは思えないほど若々しく、健康的に日焼けした老人だ。妻の淑子は、少しふくよかでおおらかな人柄が外見にも滲み出ている。
「まあー、こちらのハンサムな殿方はどなた?」
藤田淑子は、まるで少女のように微笑みながら猛をマジマジと見つめていた。
「はじめまして。海藤猛です。藤田さんの案件のお手伝いをさせていただきます。調査もしますが、ビルの警護も私の仕事です。気になることや、おかしなことがありましたら、遠慮なくご相談ください」
猛は、笑顔で藤田総一朗に自分の名刺を手渡した。
「まあ、私たちを守ってくださるのね。まるで王子様に守られてるお姫様の気分よ」
淑子は、目を細くして嬉しそうに夫の総一朗の腕に軽く手を添えて言った。
「おや、淑子さん。私の前で他の男性をあまり褒めないでください。この老いぼれはあのように若くて逞しい男性と戦っても勝ち目はありませんよ。淑子さんがお望みとあらば、負けを覚悟で戦いを挑みますが」
総一朗は穏やかな笑みを淑子に返しながら、腕に添えられた淑子の手にそっと自分の手を重ねた。
二人のやり取りに、涼子、洋介、猛の三人に思わず笑みが零れた。
「藤田さん、その後何かご自宅の方に嫌がらせはありましたか?」
涼子が切り出した。
「そうですね。郵便受けにゴミが入っていたことが数回ありました」
総一朗が答える。
「店子さんたちへの嫌がらせはどうですか?」
今度は洋介が総一朗に尋ねた。
「私どもへの嫌がらせよりエスカレートしているみたいです。どの店子も客商売ですから、客足にも影響が出ているみたいで、早く解決しないと地上げ以前に潰れてしまいます」
総一朗は顔を曇らせて言った。
「私、あそこの焼肉屋さん大好きなの、無くなっちゃうのは嫌です。一階のお花屋さんのお花は他のお店よりお安いのに長持ちするのよ。梶本さんの豆大福は総一朗さんも大好きでしょ。お寿司の出前はいつも有田さんにお願いしているし、総一朗さんは三階の居酒屋さんに一人で飲みに出かけて何時間も帰ってこないでしょ。ゆらぎさんが選んでくださるワインは幸せな気持ちを運んでくださるものばかり。どのお店も無くなって欲しくありません」
淑子が強い口調で言い切った。
「分かってますよ、淑子さん。美咲先生と真木先生にお願いして守ってもらいましょう。それに王子様の海藤さんもいらっしゃるし」
総一朗が猛に悪戯っ子のような笑みを向けて頷いた。猛もその笑みにつられて頷いていた。
藤田総一朗は八十歳近い年齢とは思えないほど若々しく、健康的に日焼けした老人だ。妻の淑子は、少しふくよかでおおらかな人柄が外見にも滲み出ている。
「まあー、こちらのハンサムな殿方はどなた?」
藤田淑子は、まるで少女のように微笑みながら猛をマジマジと見つめていた。
「はじめまして。海藤猛です。藤田さんの案件のお手伝いをさせていただきます。調査もしますが、ビルの警護も私の仕事です。気になることや、おかしなことがありましたら、遠慮なくご相談ください」
猛は、笑顔で藤田総一朗に自分の名刺を手渡した。
「まあ、私たちを守ってくださるのね。まるで王子様に守られてるお姫様の気分よ」
淑子は、目を細くして嬉しそうに夫の総一朗の腕に軽く手を添えて言った。
「おや、淑子さん。私の前で他の男性をあまり褒めないでください。この老いぼれはあのように若くて逞しい男性と戦っても勝ち目はありませんよ。淑子さんがお望みとあらば、負けを覚悟で戦いを挑みますが」
総一朗は穏やかな笑みを淑子に返しながら、腕に添えられた淑子の手にそっと自分の手を重ねた。
二人のやり取りに、涼子、洋介、猛の三人に思わず笑みが零れた。
「藤田さん、その後何かご自宅の方に嫌がらせはありましたか?」
涼子が切り出した。
「そうですね。郵便受けにゴミが入っていたことが数回ありました」
総一朗が答える。
「店子さんたちへの嫌がらせはどうですか?」
今度は洋介が総一朗に尋ねた。
「私どもへの嫌がらせよりエスカレートしているみたいです。どの店子も客商売ですから、客足にも影響が出ているみたいで、早く解決しないと地上げ以前に潰れてしまいます」
総一朗は顔を曇らせて言った。
「私、あそこの焼肉屋さん大好きなの、無くなっちゃうのは嫌です。一階のお花屋さんのお花は他のお店よりお安いのに長持ちするのよ。梶本さんの豆大福は総一朗さんも大好きでしょ。お寿司の出前はいつも有田さんにお願いしているし、総一朗さんは三階の居酒屋さんに一人で飲みに出かけて何時間も帰ってこないでしょ。ゆらぎさんが選んでくださるワインは幸せな気持ちを運んでくださるものばかり。どのお店も無くなって欲しくありません」
淑子が強い口調で言い切った。
「分かってますよ、淑子さん。美咲先生と真木先生にお願いして守ってもらいましょう。それに王子様の海藤さんもいらっしゃるし」
総一朗が猛に悪戯っ子のような笑みを向けて頷いた。猛もその笑みにつられて頷いていた。
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