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第一章
第9話 知りたい
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尊と涼子はすでに帰宅して、事務所には猛と洋介の二人だけだった。外は霧雨が降りだしていた。
猛はコーヒーカップを手の中で弄びながら窓辺に立ち、霧雨に濡れる街をぼんやりと見つめている。
「お前、花屋の子と寝たのか?」
洋介が何の前触れもなく訊いてきた。
「……気になるのか?」
猛は窓の外を見つめたまま、洋介の顔を見ずに返す。
洋介は答えられずにいた。気になるのかどうか自分でも分からない。でも、猛に問いただしたということは気にしている証拠ではないのかと逡巡していた。
猛が洋介の方に向き直り、洋介を真っ直ぐに見つめて再度訊いてきた。
「気になるのか?」
沈黙が二人の間に横たわる。
「気になる……のだと思う。どうして気になるのかと訊かれると、理由は分からない。でも、お前が誰を抱いたのかを知らないないままなのは、どうにもスッキリしない。かと言って、お前が過去に寝た相手すべてを教えられても呆れるだろうけどな。お前が寝た相手全員を覚えているとも思えないし、過去のことを知りたいわけでもない。多分、今のお前のことを知りたいんだと思う」と洋介が静かに言葉を吐き出した。
少しの沈黙を挟み、「あの子と寝たのか?」と洋介がもう一度尋ねた。
「……いいや」
猛は短く答えた。
安堵で洋介の表情が少し緩む。
猛は、洋介の中で何かが変わり始めていることには気づいているが、それが恋情なのか自由奔放に肉体的快楽を追い求める猛を心配してのことなのか判断できずにいた。
「今まで俺が誰と付き合おうが、誰を抱こうがお前は気にしたことはなかったよな。なぜ今になって気にする?」
答えの分からないこの問に、洋介の唇は固く結ばれたままだった。
「まあいいさ、今は答えなくていい。でも少しだけ俺の独り言に付き合ってくれ」
猛は、霧雨が降り続く窓の外に視線を向け、ゆっくりと話し始めた。
猛はコーヒーカップを手の中で弄びながら窓辺に立ち、霧雨に濡れる街をぼんやりと見つめている。
「お前、花屋の子と寝たのか?」
洋介が何の前触れもなく訊いてきた。
「……気になるのか?」
猛は窓の外を見つめたまま、洋介の顔を見ずに返す。
洋介は答えられずにいた。気になるのかどうか自分でも分からない。でも、猛に問いただしたということは気にしている証拠ではないのかと逡巡していた。
猛が洋介の方に向き直り、洋介を真っ直ぐに見つめて再度訊いてきた。
「気になるのか?」
沈黙が二人の間に横たわる。
「気になる……のだと思う。どうして気になるのかと訊かれると、理由は分からない。でも、お前が誰を抱いたのかを知らないないままなのは、どうにもスッキリしない。かと言って、お前が過去に寝た相手すべてを教えられても呆れるだろうけどな。お前が寝た相手全員を覚えているとも思えないし、過去のことを知りたいわけでもない。多分、今のお前のことを知りたいんだと思う」と洋介が静かに言葉を吐き出した。
少しの沈黙を挟み、「あの子と寝たのか?」と洋介がもう一度尋ねた。
「……いいや」
猛は短く答えた。
安堵で洋介の表情が少し緩む。
猛は、洋介の中で何かが変わり始めていることには気づいているが、それが恋情なのか自由奔放に肉体的快楽を追い求める猛を心配してのことなのか判断できずにいた。
「今まで俺が誰と付き合おうが、誰を抱こうがお前は気にしたことはなかったよな。なぜ今になって気にする?」
答えの分からないこの問に、洋介の唇は固く結ばれたままだった。
「まあいいさ、今は答えなくていい。でも少しだけ俺の独り言に付き合ってくれ」
猛は、霧雨が降り続く窓の外に視線を向け、ゆっくりと話し始めた。
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