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第一章
第7話 涼子
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「ただいま!」
勢いよくドアが開き、長身の美女がハイヒールをカツカツと鳴らしながら入ってきた。
涼子だ。
「勝ちましたか?」と洋介が尋ねる。
「当然!」
涼子は、答えの分かっている質問をするなと威嚇するような目つきで答えた。
「涼子お姉さま、顔が怖いですよ」
猛がからかうように言う。
「うるさい! 今の私はあんたの冗談を受け流す余裕はないの!」
涼子は猛に向き直って真っ直ぐに睨んだ。
「おー、こわ。何苛ついてるんだよ」
猛は両手を上げて降参のポーズで訊く。
「相手の弁護士の態度がムカつく。言葉の端々に『女に何ができるんだ。俺に勝てると思っているのか』っていうくだらない心の声がダダ漏れだったのよ!」
一向に怒りの収まらない涼子の口調はさらに強まった。
「で、再起不能になれとばかりに叩き潰してきたわけですか?」
涼子の気性の激しさに慣れている洋介は、動じることなくサラッと訊く。
「あいつは再起不能になるなんてかわいいタマじゃないわよ。せいぜい一ヶ月くらい私を敵視するだけでしょう。あいつの脳の容量と能力では一ヶ月覚えていられれば上出来よ!」とますますヒートアップする。
「涼子さん、どうして敵ばかり作るんですか? 相手を上手くかわしてこちらの有利になるような状況を気取られないように作るのも弁護士の能力ですよ。法廷では冷静なのに、法廷を一歩出ると手がつけられない」
洋介が半ば諦めたように言う。
「あのね、洋介。私はあなたのそういう冷静で狡辛い態度が時々怖くなる。あなたは自分の感情を隠すのが上手すぎるのよ」
やっと怒りが収まってきた涼子が、珍獣でも見るように洋介を観察しながら言った。
「あなたが下手すぎるんです」
涼しい顔で洋介が返す。
涼子は、はぁーと溜息をついて給湯室へと入って行った。
****
「それは随分有利な証言ね。さすが猛、その聞き込みの才能はもう特殊能力と言ってもいい。どうせ相手をぽーっとさせて話を聞き出したんでしょ」
花屋の店員から聞き出した証言を詳しく涼子に報告した猛に対し涼子はからかうように言った。
「いやー、つい話が弾んでね」
ニヤニヤしながら喋る猛を、洋介は呆れた表情で一瞥した。
「じゃあ、洋介はその子の調書を取る段取りをお願い。私はもう一度最初に絡まれた女の子の話を聞いて調書をまとめるわ」
涼子がテキパキと指示を出す。
「了解」
洋介は涼子に返事をし、今度は猛に向かって「猛、その子の連絡先を教えてくれ」と言った瞬間、猛のスマホが鳴った。
スマホの画面を確認した猛が「おっ、噂をすればだ」と言う。
「まさか花屋の子からか? 頼むから問題になるような行動は謹んでくれよ」
「人聞きの悪いこと言うな。何もしてないよ。調書の件、話しておくよ。いつなら時間ある?」と猛が洋介に訊く。
「明日の午後なら時間がある」と洋介が答えると、猛は電話に出るために立ち上がってその場を離れた。
「猛の餌食になる被害者がこれ以上増えないことを切に願うわ」
涼子の独り言のような呟きに、洋介はただ苦笑するしかなかった。
勢いよくドアが開き、長身の美女がハイヒールをカツカツと鳴らしながら入ってきた。
涼子だ。
「勝ちましたか?」と洋介が尋ねる。
「当然!」
涼子は、答えの分かっている質問をするなと威嚇するような目つきで答えた。
「涼子お姉さま、顔が怖いですよ」
猛がからかうように言う。
「うるさい! 今の私はあんたの冗談を受け流す余裕はないの!」
涼子は猛に向き直って真っ直ぐに睨んだ。
「おー、こわ。何苛ついてるんだよ」
猛は両手を上げて降参のポーズで訊く。
「相手の弁護士の態度がムカつく。言葉の端々に『女に何ができるんだ。俺に勝てると思っているのか』っていうくだらない心の声がダダ漏れだったのよ!」
一向に怒りの収まらない涼子の口調はさらに強まった。
「で、再起不能になれとばかりに叩き潰してきたわけですか?」
涼子の気性の激しさに慣れている洋介は、動じることなくサラッと訊く。
「あいつは再起不能になるなんてかわいいタマじゃないわよ。せいぜい一ヶ月くらい私を敵視するだけでしょう。あいつの脳の容量と能力では一ヶ月覚えていられれば上出来よ!」とますますヒートアップする。
「涼子さん、どうして敵ばかり作るんですか? 相手を上手くかわしてこちらの有利になるような状況を気取られないように作るのも弁護士の能力ですよ。法廷では冷静なのに、法廷を一歩出ると手がつけられない」
洋介が半ば諦めたように言う。
「あのね、洋介。私はあなたのそういう冷静で狡辛い態度が時々怖くなる。あなたは自分の感情を隠すのが上手すぎるのよ」
やっと怒りが収まってきた涼子が、珍獣でも見るように洋介を観察しながら言った。
「あなたが下手すぎるんです」
涼しい顔で洋介が返す。
涼子は、はぁーと溜息をついて給湯室へと入って行った。
****
「それは随分有利な証言ね。さすが猛、その聞き込みの才能はもう特殊能力と言ってもいい。どうせ相手をぽーっとさせて話を聞き出したんでしょ」
花屋の店員から聞き出した証言を詳しく涼子に報告した猛に対し涼子はからかうように言った。
「いやー、つい話が弾んでね」
ニヤニヤしながら喋る猛を、洋介は呆れた表情で一瞥した。
「じゃあ、洋介はその子の調書を取る段取りをお願い。私はもう一度最初に絡まれた女の子の話を聞いて調書をまとめるわ」
涼子がテキパキと指示を出す。
「了解」
洋介は涼子に返事をし、今度は猛に向かって「猛、その子の連絡先を教えてくれ」と言った瞬間、猛のスマホが鳴った。
スマホの画面を確認した猛が「おっ、噂をすればだ」と言う。
「まさか花屋の子からか? 頼むから問題になるような行動は謹んでくれよ」
「人聞きの悪いこと言うな。何もしてないよ。調書の件、話しておくよ。いつなら時間ある?」と猛が洋介に訊く。
「明日の午後なら時間がある」と洋介が答えると、猛は電話に出るために立ち上がってその場を離れた。
「猛の餌食になる被害者がこれ以上増えないことを切に願うわ」
涼子の独り言のような呟きに、洋介はただ苦笑するしかなかった。
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