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第一章
第4話 証言
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花屋の店員は事件の一部始終を目撃していた。
通りに面している部分がすべてガラス張りになっている花屋からは、店の奥にある作業台からでも通りの様子がよく見える。
事件が発生したのは花屋から通りを挟んだ向かい側の歩道だった。
店員は、花束や鉢植えをアレンジする作業台の椅子に座ってぼんやりと外を眺めていた。いつもなら混雑している時間帯のはずだったが、この日は不思議と客が途切れていた。
店には店長と店員の二人きりだった。
「やめてください!」
女性の大きな声が突然聞こえてきた。
驚いて声のする方を見ると、酔っぱらいのサラリーマンらしき男が若い女性の腕を掴んで乱暴に揺すっていた。女性の顔は恐怖にひきつっていたが、それでもかなりの美人だとひと目で分かった。周囲の人は単なる痴話喧嘩なのか絡まれているのか判断しかねて、遠巻きに見ているだけで誰も助けようとしていない。
「ちょっと見てきます」と花屋の店員は店長に断り、店を飛び出していった。
花屋の店員が野次馬たちをかき分けて最前列にたどり着いたとき、一人の若者が群集の中から歩み出て酔っぱらいのサラリーマンに声をかけた。
「その人嫌がってるじゃん。止めなよ」
その若者こそが、洋介が弁護することになった菊地尊であった。
「この人かなり嫌がってるみたいだよ。そろそろ止めないと警察呼ばれちゃうよ」
尊はできるだけ穏やかな声で、その酔っぱらいを刺激しないように話しかけた。
「警察? 呼べるもんなら呼んでみろよ!」
男は尊を睨みつけながら怒鳴り散らした。怒鳴っている間も男は女性の腕を掴んだまま、乱暴に揺すっていた。
「あー、危ないよ。そんなに揺するとその人転んじゃうよ」と尊が一歩前に出た瞬間、「お前、ごちゃごちゃうるさいんだよ! お前には関係ないだろ、あっち行け!」と男が尊に向かって大きく腕を振り回した。
その瞬間、女性がバランスを崩し、近くにあった店の看板にぶつかって倒れこんでしまった。
「いい加減にしろよ、オッサン!」と尊は男を声で制し、すぐさま女性を助け起こした。
「大丈夫ですか?」
尊がその女性に声をかけた。
「……大丈夫です」
女性は尊に支えられて立ち上がった。大きな怪我はないようだ。
「どこか痛い所があるんなら病院行ったほうがいいよ」
女性の口が「ありがとう」と開きかけたとき、女性は別の言葉を発していた。
「きゃー、危ない! 後ろ!」
尊が振り向くと、酔っぱらいの男が尊に殴りかかってきていた。尊は女性を庇いながら、男の拳をかわした。
振り下ろした拳は行き場を失い男はよろけたが、体勢を立て直して、今度は全身で体当たりしてきた。
さすがの尊も今度は避けきれず、先程倒れた看板の上に押し倒されてしまった。
だが、若さも力もある尊にとって足元もおぼつかない酔っ払いの中年男は敵ではなかった。
素早く起き上がり、男の腕を後ろ手にねじ上げ、女性に向かって「あなたはこの場から離れた方がいい」と言った。
「でもあなたはどうするの。私だけ逃げるなんてできません!」
「あいつが俺の方に気を取られてるうちにこの場から離れて。俺は大丈夫だから。早く!」
「でも……」
「早く!」
「ごめんなさい。ありがとう! すぐに警察呼んでくるから!」
女性は尊の言うとおりにその場から立ち去った。
「オッサン、これでようやく心置きなくお相手できるよ」
尊は、押さえつけている男に向かって冷たく囁いた。
その言葉に気圧された男の顔色はみるみる青ざめていった。
通りに面している部分がすべてガラス張りになっている花屋からは、店の奥にある作業台からでも通りの様子がよく見える。
事件が発生したのは花屋から通りを挟んだ向かい側の歩道だった。
店員は、花束や鉢植えをアレンジする作業台の椅子に座ってぼんやりと外を眺めていた。いつもなら混雑している時間帯のはずだったが、この日は不思議と客が途切れていた。
店には店長と店員の二人きりだった。
「やめてください!」
女性の大きな声が突然聞こえてきた。
驚いて声のする方を見ると、酔っぱらいのサラリーマンらしき男が若い女性の腕を掴んで乱暴に揺すっていた。女性の顔は恐怖にひきつっていたが、それでもかなりの美人だとひと目で分かった。周囲の人は単なる痴話喧嘩なのか絡まれているのか判断しかねて、遠巻きに見ているだけで誰も助けようとしていない。
「ちょっと見てきます」と花屋の店員は店長に断り、店を飛び出していった。
花屋の店員が野次馬たちをかき分けて最前列にたどり着いたとき、一人の若者が群集の中から歩み出て酔っぱらいのサラリーマンに声をかけた。
「その人嫌がってるじゃん。止めなよ」
その若者こそが、洋介が弁護することになった菊地尊であった。
「この人かなり嫌がってるみたいだよ。そろそろ止めないと警察呼ばれちゃうよ」
尊はできるだけ穏やかな声で、その酔っぱらいを刺激しないように話しかけた。
「警察? 呼べるもんなら呼んでみろよ!」
男は尊を睨みつけながら怒鳴り散らした。怒鳴っている間も男は女性の腕を掴んだまま、乱暴に揺すっていた。
「あー、危ないよ。そんなに揺するとその人転んじゃうよ」と尊が一歩前に出た瞬間、「お前、ごちゃごちゃうるさいんだよ! お前には関係ないだろ、あっち行け!」と男が尊に向かって大きく腕を振り回した。
その瞬間、女性がバランスを崩し、近くにあった店の看板にぶつかって倒れこんでしまった。
「いい加減にしろよ、オッサン!」と尊は男を声で制し、すぐさま女性を助け起こした。
「大丈夫ですか?」
尊がその女性に声をかけた。
「……大丈夫です」
女性は尊に支えられて立ち上がった。大きな怪我はないようだ。
「どこか痛い所があるんなら病院行ったほうがいいよ」
女性の口が「ありがとう」と開きかけたとき、女性は別の言葉を発していた。
「きゃー、危ない! 後ろ!」
尊が振り向くと、酔っぱらいの男が尊に殴りかかってきていた。尊は女性を庇いながら、男の拳をかわした。
振り下ろした拳は行き場を失い男はよろけたが、体勢を立て直して、今度は全身で体当たりしてきた。
さすがの尊も今度は避けきれず、先程倒れた看板の上に押し倒されてしまった。
だが、若さも力もある尊にとって足元もおぼつかない酔っ払いの中年男は敵ではなかった。
素早く起き上がり、男の腕を後ろ手にねじ上げ、女性に向かって「あなたはこの場から離れた方がいい」と言った。
「でもあなたはどうするの。私だけ逃げるなんてできません!」
「あいつが俺の方に気を取られてるうちにこの場から離れて。俺は大丈夫だから。早く!」
「でも……」
「早く!」
「ごめんなさい。ありがとう! すぐに警察呼んでくるから!」
女性は尊の言うとおりにその場から立ち去った。
「オッサン、これでようやく心置きなくお相手できるよ」
尊は、押さえつけている男に向かって冷たく囁いた。
その言葉に気圧された男の顔色はみるみる青ざめていった。
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