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第7話 侵入

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 計画決行の夜、ノアの読みどおりに犯人がシステムにアクセスしてきた。
 システム内の犯人の動きはすべてノアに読まれている。すべて予想通り。むしろ予想よりレベルが低い。
 ノアの罠に吸い込まれるように落ちてゆく犯人にノアは落胆の色を隠せなかった。

「もう少し手応えのある奴だと期待してたのに」

 それを聞いたリアムが少し苛立ったような顔をした。
 その表情を見たノアは、アンドロイドなのにこんな表情をするのかと目を輝かせている。
 確かにリアムの学習能力には現在の科学で実現しうる最先端の技術をすべて詰め込んである。その速度は人間の学習能力より速い。だが、学習と言ってもデータベースの情報量が増え、そこから派生する人間の行動や感情の真似をしているだけだ。情報量が増えれば精度が上がり、多様性も生まれる。だが実際に感情を持つわけではない。
 しかし、今のリアムの苛立った表情は人間の行動を学習して真似をしただけとは思えなかった。

「怒ってるのか?」

 ノアがリアムに尋ねてみた。
「怒ってるよ! ノアが自分の身を危険に晒して喜んでいることが気に入らないよ!」
 この反応は本当に学習した人間の表情や言動を真似しているだけなのか?
 それを確かめようとノアが口を開きかけた瞬間、階下から物音がした。

    カチャリ

 予想通り犯人は裏口から侵入してきた。その姿は家中に設置されている監視カメラで捉えている。
 この家に姿を隠す場所などないことを犯人は知る由もない。

 ノアとリアムは静かに待っていた。犯人が簡単に逃げられない場所に進むまで。

 階段を昇ってくる足音が聞こえてきた。
 ノアの寝室に向かっているのだろう。

 セキュリティシステムに仕掛けていた2つ目の罠がこれだ。偽の間取り図にノアの寝室と記載されているのは厚い壁で覆われた窓のない小部屋。一度入ってしまえば出口はドアのみ。そのドアも一見普通のドアに見えて特殊素材で作られている要塞仕様。外から鍵をかけてしまえば人間の力で壊すことはできない。閉じ込めてしまえば任務完了だ。

 リアムは物陰に隠れて犯人が二階の要塞部屋に入るのを待っていた。
 犯人は階段を上がりきり、迷うことなく罠を仕掛けた部屋へと向かう。屋敷内の明かりは数か所薄暗いフットライトが点いているだけで暗闇に近い。犯人は恐らくナイトビジョンゴーグルをつけているのだろう。

 あと少しで要塞部屋のドアに手が届く位置まで来た瞬間、犯人が何かに気づいてリアムが隠れている物陰に顔を向けた。

「しまった! サーモグラフィか!」

 犯人はナイトビジョンゴーグルだけではなくサーモグラフィカメラも装備していた。アンドロイドであるリアムの体温は平均的な人間の体温よりも少し高い。サーモグラフィでは他の熱源よりも濃い赤で表示される。

    バチ、バチッ

 大きな音とともに青白い光が廊下を数秒照らす。その青白い光の中にスタンガンの電極針が突き刺さったリアムが浮かび上がる。

「リアム!」

 ノアが思わず声を上げた。

 ――「機械は先に倒しておかないとな」

 耳障りの悪い不気味な声が暗闇の中から聞こえてきた。
 その足音は真っ直ぐにノアの方に向かってくる。
 リアムは恐らく動けず床に横たわっているのだろう。

 暗闇の中のノアにはその憎々しい声と足音だけが犯人の位置を知る拠り所で、ナイトビジョンを装備した犯人に歯が立つはずもない。
 ナイフを振り上げている犯人はノアの目の前にいる。だがノアには犯人の姿もその手に握られているナイフも見えていない。
 犯人がナイフを振り下ろそうとした瞬間、犯人の身体が後ろに飛んだ。
 かろうじて動けるようになったリアムが犯人の襟首を掴みノアから引き剥がしたのだった。
 犯人の体は廊下を転がり、勢い余って階段を落ちていく。まるでボールが弾むように犯人の体は何度も階段に叩きつけられ、最後にはドスンと鈍い音をたてて止まった。

 ノアは急いで廊下と階段の電気を点けた。
 階下には首が不自然な方向に曲がった男の体が横たわっていた。


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