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第1話 回顧(お題: 本屋)
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「どうして俺の欲しい本はいつも俺の手の届かない一番上の棚にあるんだ」
真木洋介は、つま先立ちをして精一杯手を伸ばしても目的の本に手が届かない今の状況に悪態をついていた。
店内にあるはずの踏み台を探すため身体の向きを変えようとした瞬間、洋介の身体を大きな影が包み込んだ。
「これか?」
背後から聞き覚えのある声。
骨ばった大きな手、そこから伸びる日焼けした逞しい腕が洋介の頬を掠めて一番上の棚の本を掴む。
洋介が振り返るとそこには2歳年下の幼馴染、海藤猛が立っていた。
「この本でいいのか?」
掴んだ本の表紙を洋介に見せながらもう一度猛が尋ねた。
「ああ、その本だ」
久しぶりに会った幼馴染は、幼さがほんの少し残っているものの少年という言葉がもう似合わなくなった青年に成長していた。自分よりも低かった背丈も今では見上げるほど伸びている。
「お前が本屋に来るなんて珍しいな」
急に大人びた猛に眩しさを感じながら洋介は猛をからかう。
「失礼だな、俺だって本くらい読む。それにこれでも一応受験生だからな。参考書を探しに来た」
大きな図体をしているが猛はまだ中学生。来年高校を受験する中学3年生だ。
猛は掴んでいる本の表紙をまじまじと眺めた後、それを洋介の手の中にポイと投げた。
「それ、大学受験用の参考書だろ。まだ高2なのにもう受験の準備か?」
「まあな、行きたい学部はもう決まってるし受験準備は早いに越したことないだろ」
「やっぱり法学部か?」
「ああ」
洋介は参考書をパラパラとめくり中身を確認している。
その美しい横顔に猛の目は釘付けになっていた。
洋介が高校に入学してからはほとんど会う機会がなく、直接言葉を交わすのは一年半ぶりだ。
以前よりも色香が増した洋介に猛の胸は締め付けられる。諦めたはずの恋心がまた頭を持ち上げ始める。
「お前はどんな参考書を探してるんだ? 俺が使ってた高校受験の参考書でよければお前にやるぞ」
「いいのか?」
「構わないよ。今からうちに来て好きな参考書を持ってけよ」
そう言うと洋介は手に持っていた自分の参考書の会計を済ませ、猛と二人で家へと向かった。
オレンジ色の大きな夕陽が帰り道の正面に浮かんでいる。
猛の顔が赤く染まっているのは夕陽に照らされているからだけではない。洋介への消すことのできない恋情を思い知らされ、そしてその恋が実ることのない絶望へと導かれることを予感した心が騒いでいるせいだ。
スラリと美しくのびた洋介のうなじを見つめながら、猛は哀しいため息をそっと零した。
****
「お前なんで高校受験の参考書なんか後生大事にとってあるんだ?」
恋人の声がキッチンでコーヒーを淹れていた猛の耳に届く。
「ああ、それな。その参考書から学んだことが多くて捨てられないんだ。一種のお守りみたいなもんだな」
そう言いながらコーヒーカップを2つ手に持って猛がリビングに入ってくる。
消し去ることのできない恋情があることを知り、たとえ実らなくてその恋情を心の内で守り抜くと誓った参考書。
「これ、俺がお前にやった参考書か」
「ああ」とだけ短く応え、猛は恋人の手にコーヒーカップを手渡した。
真木洋介は、つま先立ちをして精一杯手を伸ばしても目的の本に手が届かない今の状況に悪態をついていた。
店内にあるはずの踏み台を探すため身体の向きを変えようとした瞬間、洋介の身体を大きな影が包み込んだ。
「これか?」
背後から聞き覚えのある声。
骨ばった大きな手、そこから伸びる日焼けした逞しい腕が洋介の頬を掠めて一番上の棚の本を掴む。
洋介が振り返るとそこには2歳年下の幼馴染、海藤猛が立っていた。
「この本でいいのか?」
掴んだ本の表紙を洋介に見せながらもう一度猛が尋ねた。
「ああ、その本だ」
久しぶりに会った幼馴染は、幼さがほんの少し残っているものの少年という言葉がもう似合わなくなった青年に成長していた。自分よりも低かった背丈も今では見上げるほど伸びている。
「お前が本屋に来るなんて珍しいな」
急に大人びた猛に眩しさを感じながら洋介は猛をからかう。
「失礼だな、俺だって本くらい読む。それにこれでも一応受験生だからな。参考書を探しに来た」
大きな図体をしているが猛はまだ中学生。来年高校を受験する中学3年生だ。
猛は掴んでいる本の表紙をまじまじと眺めた後、それを洋介の手の中にポイと投げた。
「それ、大学受験用の参考書だろ。まだ高2なのにもう受験の準備か?」
「まあな、行きたい学部はもう決まってるし受験準備は早いに越したことないだろ」
「やっぱり法学部か?」
「ああ」
洋介は参考書をパラパラとめくり中身を確認している。
その美しい横顔に猛の目は釘付けになっていた。
洋介が高校に入学してからはほとんど会う機会がなく、直接言葉を交わすのは一年半ぶりだ。
以前よりも色香が増した洋介に猛の胸は締め付けられる。諦めたはずの恋心がまた頭を持ち上げ始める。
「お前はどんな参考書を探してるんだ? 俺が使ってた高校受験の参考書でよければお前にやるぞ」
「いいのか?」
「構わないよ。今からうちに来て好きな参考書を持ってけよ」
そう言うと洋介は手に持っていた自分の参考書の会計を済ませ、猛と二人で家へと向かった。
オレンジ色の大きな夕陽が帰り道の正面に浮かんでいる。
猛の顔が赤く染まっているのは夕陽に照らされているからだけではない。洋介への消すことのできない恋情を思い知らされ、そしてその恋が実ることのない絶望へと導かれることを予感した心が騒いでいるせいだ。
スラリと美しくのびた洋介のうなじを見つめながら、猛は哀しいため息をそっと零した。
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「お前なんで高校受験の参考書なんか後生大事にとってあるんだ?」
恋人の声がキッチンでコーヒーを淹れていた猛の耳に届く。
「ああ、それな。その参考書から学んだことが多くて捨てられないんだ。一種のお守りみたいなもんだな」
そう言いながらコーヒーカップを2つ手に持って猛がリビングに入ってくる。
消し去ることのできない恋情があることを知り、たとえ実らなくてその恋情を心の内で守り抜くと誓った参考書。
「これ、俺がお前にやった参考書か」
「ああ」とだけ短く応え、猛は恋人の手にコーヒーカップを手渡した。
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