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【番外編】★月明かりと悪戯な指先①
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リュートの部屋には今夜もイブリスの月光が柔らかに降り注ぐ。
大きな窓から明かりが差すベッドの上。壁に背をつけてもたれるジゼルは、同じように隣に座るリュートを眺める。正確には、本を捲る長い指をじっと見つめていた。
月明かりだけでは少し心許ないため、彼の手元はジゼルが灯した小さな光が煌々と照らしている。
初歩的な光魔法だが、魔力を使うたびにリュートはいつも嬉しそうに礼を述べる。
そんなところもジゼルの心を掴んで離さないのだから、天然とは恐ろしい。
それにしてもジゼルからすれば、本を読む時はソファや机と対の椅子に座るものだ。
しかし彼は壁際に寄せたベッドの上で寛ぐほうが落ち着くらしい。
なんでもずっとそうやって過ごしてきたとか。
おかげでジゼルも横に並んで座ることが、いつの間にか日常になっていた。
近頃の彼はイブリスの史実に興味があるようだ。
文字を追う瞳は少し伏せられていて、時折くちびるに触れる仕草が妙に色香を感じさせる。
いつもは同じように本を読んで過ごすことが多いのだけど、今日はどうにもその手を視線で追ってしまう。
書庫から持ってきた本は開きもせず、シーツの上に置いたままだった。
じっと見つめる先。リュートの指はジゼルより長く、手のひらも大きい。
ルゥを優しく撫でるその手を見るたびに、小さな欲求がいつもジゼルの頭をよぎるのだ。
「私も、撫でられたいわ」
ぽつりと漏れた願望は思いのほか鮮明な音で響いた。
完全に無意識だった。だけど咄嗟に口を押さえても時は戻らない。
ジゼルに視線を移したリュートも単純に驚いているようだ。
「……僕に?」
「あ、えっと、あの、ちが……」
リュートは読んでいた本を閉じ、ジゼルの逸らした視線を覗き込んだ。左右の色が違う双眸。そのどちらもまっすぐにジゼルだけを見つめている。
「違うの?」と聞く顔は楽しそうで、固い指がするりと頬を撫でた。
「違わ……ない」
気恥ずかしさで逆の方向に視線を逸らしたら、今度は頭を緩やかに撫でられる。
真っ赤に染まっているであろう頬も月明かりで見えているのだろうか。リュートはくすくす笑っている。
「どうしたの、突然。なにかあった?」
「何もないけど……。いつもルゥが気持ちよさそうにしてるから、どんな感じなのかしらって……そう思っただけよ」
「そんなこと思ってたんだ。ジゼルは今日も可愛いなぁ」
屈み込み、ちゅっと軽く口づけたリュートの手は真紅の髪を撫でたまま。
繰り返される優しい手つきは心地よくて、全てを委ねてしまいたくなる。
うっとり瞳を閉じていると、大切なものに触れるようそっと体を抱き寄せられた。
それからすぐ、髪にあった手が背中に滑る。
下から上へゆっくり撫で上げる指先。伝わるのは優しさだけじゃなくて、甘い愛撫を感じさせる動きにぞくりと肩が震えた。
「あ、ちょっと……」
「気持ちいい? ルゥは背中も喜ぶよ」
「あっ、知ってる、けど……。ん……」
抗議の目を向けてもリュートは笑みを崩さない。
無邪気なようで彼は意外と策略家である。
優しい手つきではあるけれど、明らかにルゥを撫でる手とは違う。繊細な強さで触れる手のひらは、わざと焦らされているようだ。
「それに、尻尾の上も喜ぶんだよね」
「ひっ……!」
腰を辿った指が下へと移動し、ヒップに到達する。
包むように添わされた手のひらが丁寧に円を描く。じっとりと撫でる手が熱い。小さな赤いくちびるから上がる吐息は、すでに艶を含んでいる。
びくびく震えるジゼルは縋るようにリュートの背中に腕を回す。強く握りしめたおかげで白いシャツに無数の皺が寄った。
大きな窓から明かりが差すベッドの上。壁に背をつけてもたれるジゼルは、同じように隣に座るリュートを眺める。正確には、本を捲る長い指をじっと見つめていた。
月明かりだけでは少し心許ないため、彼の手元はジゼルが灯した小さな光が煌々と照らしている。
初歩的な光魔法だが、魔力を使うたびにリュートはいつも嬉しそうに礼を述べる。
そんなところもジゼルの心を掴んで離さないのだから、天然とは恐ろしい。
それにしてもジゼルからすれば、本を読む時はソファや机と対の椅子に座るものだ。
しかし彼は壁際に寄せたベッドの上で寛ぐほうが落ち着くらしい。
なんでもずっとそうやって過ごしてきたとか。
おかげでジゼルも横に並んで座ることが、いつの間にか日常になっていた。
近頃の彼はイブリスの史実に興味があるようだ。
文字を追う瞳は少し伏せられていて、時折くちびるに触れる仕草が妙に色香を感じさせる。
いつもは同じように本を読んで過ごすことが多いのだけど、今日はどうにもその手を視線で追ってしまう。
書庫から持ってきた本は開きもせず、シーツの上に置いたままだった。
じっと見つめる先。リュートの指はジゼルより長く、手のひらも大きい。
ルゥを優しく撫でるその手を見るたびに、小さな欲求がいつもジゼルの頭をよぎるのだ。
「私も、撫でられたいわ」
ぽつりと漏れた願望は思いのほか鮮明な音で響いた。
完全に無意識だった。だけど咄嗟に口を押さえても時は戻らない。
ジゼルに視線を移したリュートも単純に驚いているようだ。
「……僕に?」
「あ、えっと、あの、ちが……」
リュートは読んでいた本を閉じ、ジゼルの逸らした視線を覗き込んだ。左右の色が違う双眸。そのどちらもまっすぐにジゼルだけを見つめている。
「違うの?」と聞く顔は楽しそうで、固い指がするりと頬を撫でた。
「違わ……ない」
気恥ずかしさで逆の方向に視線を逸らしたら、今度は頭を緩やかに撫でられる。
真っ赤に染まっているであろう頬も月明かりで見えているのだろうか。リュートはくすくす笑っている。
「どうしたの、突然。なにかあった?」
「何もないけど……。いつもルゥが気持ちよさそうにしてるから、どんな感じなのかしらって……そう思っただけよ」
「そんなこと思ってたんだ。ジゼルは今日も可愛いなぁ」
屈み込み、ちゅっと軽く口づけたリュートの手は真紅の髪を撫でたまま。
繰り返される優しい手つきは心地よくて、全てを委ねてしまいたくなる。
うっとり瞳を閉じていると、大切なものに触れるようそっと体を抱き寄せられた。
それからすぐ、髪にあった手が背中に滑る。
下から上へゆっくり撫で上げる指先。伝わるのは優しさだけじゃなくて、甘い愛撫を感じさせる動きにぞくりと肩が震えた。
「あ、ちょっと……」
「気持ちいい? ルゥは背中も喜ぶよ」
「あっ、知ってる、けど……。ん……」
抗議の目を向けてもリュートは笑みを崩さない。
無邪気なようで彼は意外と策略家である。
優しい手つきではあるけれど、明らかにルゥを撫でる手とは違う。繊細な強さで触れる手のひらは、わざと焦らされているようだ。
「それに、尻尾の上も喜ぶんだよね」
「ひっ……!」
腰を辿った指が下へと移動し、ヒップに到達する。
包むように添わされた手のひらが丁寧に円を描く。じっとりと撫でる手が熱い。小さな赤いくちびるから上がる吐息は、すでに艶を含んでいる。
びくびく震えるジゼルは縋るようにリュートの背中に腕を回す。強く握りしめたおかげで白いシャツに無数の皺が寄った。
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