63 / 81
63.封じられた抵抗
しおりを挟む
じたじた暴れてみても押さえつける手も、触れる体もびくともしない。
それどころか両手を難なく一括りにされてしまった。
メイリーンもそうだったが、高貴な身分でありながら単独で過ごすということは、それなりに武を持ち合わせているのだろう。
抵抗するジゼルは魔法には自信があるが、腕力はない。睨みつけても、体を捩っても、フェリクの余裕は崩れなかった。
「見たところ大した力はなさそうだ。見つけたのが俺で良かったじゃないか。もし妹だったら命はなかったからな。俺は優しいから、時間をかけてゆっくり聞き出してやるよ」
首元で囁かれる声。触れる吐息にぞわりと嫌悪が溢れる。
もうこれ以上の我慢は限界だ。リュートの居場所は自力で探し当ててみせる。
弟を大切に思う彼の気持ちを踏みにじるようで少し胸が痛みはするけど、今はただこの状況から解放されたかった。心の中で謝罪し、眠りの魔法を発動させようと指先に魔力を込める。
しかし次の瞬間、どういうわけか魔力は霧散してしまった。
もう一度、今度は頭の中でより強力な魔法式を展開してみてもやっぱり何も発動しない。
試しに得意の雷魔法を指先に集めても、思うように形にならなかった。
(どういうこと? まさかこの男も特殊な体質なの?)
「おい、聞いているのか」
焦りだしたジゼルを訝しむフェリクは強く手首を掴んだ。強引な力は単純な恐怖を煽ってくる。
屈辱と悔しさで涙が溢れ出しそうだった。イブリスの姫として、こんなことあってはならないのに。
痛みに顔をしかめたジゼルは咄嗟に未完成な電撃を解き放つ。術式自体は最後まで紡ぐことは出来なかったが、制御できなかった魔力は過剰に放たれたはずだ。
それでも指先から生まれた僅かな光が儚く散るだけだった。あとは空気が振動したのみで、なにひとつ作動しなかった。
おそらくフェリクには魔力の流れなど読み取れない。この国には存在しないものだからだ。
だけど揺れた空気の気配に表情が鋭くなった。青ざめるジゼルから体を離し、フェリクは不可解な表情で周りを一瞥した。
「なんだ今のは……。一体何をした?」
「なんで……」
不安に瞳は揺れ、声が震える。そんなジゼルを眺めるフェリクは眉を顰めた。この様子だと、おそらく意図的に防御したわけではなさそうだ。
解せないジゼルが視線を彷徨わせた先。腕を掴むフェリクの指に光る、金の指輪が妙に気になった。
「綺麗な指輪ね」
「ああ、先祖代々伝わる守護の指輪だ」
「守護……。もしかして、魔法を無力化する効果があるのかしら」
根拠があったわけではない、ただの勘だ。しかしフェリクは驚いたように眉を上げた。
「なんだ、よく知っているな。そうか、お前は盗人か? 今となっては効果もわからないものだが、これはやれないな」
睡眠魔法は初歩的な魔法だが、ジゼルの魔力を封じたのだから指輪の効果は抜群だ。
しかしこれはまずい。ジェイドのように武器も扱える者なら問題はないけれど、抵抗する術を封じられたも同然だった。冷える背中に嫌な汗が伝う。
「触らないで」
「そう怯えなくてもいい。お前ほど美しい女はそうそういないからな。大人しくしてれば悪いようにはしないさ」
拘束を解かないまま、もう片方の手で服の上から体のラインがなぞられる。
豊かな膨らみから細い腰へ。明確な目的を持った動きはジゼルの喉を引きつらせた。
再び抜け出そうとして体を捩っても、押さえつける力は一向に緩まない。全力で振り切りたいのに恐怖でうまく体は動かなかった。
スカートを捲り上げた無遠慮な手が直接腿に触れる。
耐えがたい屈辱から逃げたくても、圧倒的な力の差ではどうすることも出来なかった。
それどころか両手を難なく一括りにされてしまった。
メイリーンもそうだったが、高貴な身分でありながら単独で過ごすということは、それなりに武を持ち合わせているのだろう。
抵抗するジゼルは魔法には自信があるが、腕力はない。睨みつけても、体を捩っても、フェリクの余裕は崩れなかった。
「見たところ大した力はなさそうだ。見つけたのが俺で良かったじゃないか。もし妹だったら命はなかったからな。俺は優しいから、時間をかけてゆっくり聞き出してやるよ」
首元で囁かれる声。触れる吐息にぞわりと嫌悪が溢れる。
もうこれ以上の我慢は限界だ。リュートの居場所は自力で探し当ててみせる。
弟を大切に思う彼の気持ちを踏みにじるようで少し胸が痛みはするけど、今はただこの状況から解放されたかった。心の中で謝罪し、眠りの魔法を発動させようと指先に魔力を込める。
しかし次の瞬間、どういうわけか魔力は霧散してしまった。
もう一度、今度は頭の中でより強力な魔法式を展開してみてもやっぱり何も発動しない。
試しに得意の雷魔法を指先に集めても、思うように形にならなかった。
(どういうこと? まさかこの男も特殊な体質なの?)
「おい、聞いているのか」
焦りだしたジゼルを訝しむフェリクは強く手首を掴んだ。強引な力は単純な恐怖を煽ってくる。
屈辱と悔しさで涙が溢れ出しそうだった。イブリスの姫として、こんなことあってはならないのに。
痛みに顔をしかめたジゼルは咄嗟に未完成な電撃を解き放つ。術式自体は最後まで紡ぐことは出来なかったが、制御できなかった魔力は過剰に放たれたはずだ。
それでも指先から生まれた僅かな光が儚く散るだけだった。あとは空気が振動したのみで、なにひとつ作動しなかった。
おそらくフェリクには魔力の流れなど読み取れない。この国には存在しないものだからだ。
だけど揺れた空気の気配に表情が鋭くなった。青ざめるジゼルから体を離し、フェリクは不可解な表情で周りを一瞥した。
「なんだ今のは……。一体何をした?」
「なんで……」
不安に瞳は揺れ、声が震える。そんなジゼルを眺めるフェリクは眉を顰めた。この様子だと、おそらく意図的に防御したわけではなさそうだ。
解せないジゼルが視線を彷徨わせた先。腕を掴むフェリクの指に光る、金の指輪が妙に気になった。
「綺麗な指輪ね」
「ああ、先祖代々伝わる守護の指輪だ」
「守護……。もしかして、魔法を無力化する効果があるのかしら」
根拠があったわけではない、ただの勘だ。しかしフェリクは驚いたように眉を上げた。
「なんだ、よく知っているな。そうか、お前は盗人か? 今となっては効果もわからないものだが、これはやれないな」
睡眠魔法は初歩的な魔法だが、ジゼルの魔力を封じたのだから指輪の効果は抜群だ。
しかしこれはまずい。ジェイドのように武器も扱える者なら問題はないけれど、抵抗する術を封じられたも同然だった。冷える背中に嫌な汗が伝う。
「触らないで」
「そう怯えなくてもいい。お前ほど美しい女はそうそういないからな。大人しくしてれば悪いようにはしないさ」
拘束を解かないまま、もう片方の手で服の上から体のラインがなぞられる。
豊かな膨らみから細い腰へ。明確な目的を持った動きはジゼルの喉を引きつらせた。
再び抜け出そうとして体を捩っても、押さえつける力は一向に緩まない。全力で振り切りたいのに恐怖でうまく体は動かなかった。
スカートを捲り上げた無遠慮な手が直接腿に触れる。
耐えがたい屈辱から逃げたくても、圧倒的な力の差ではどうすることも出来なかった。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる