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46.隠していた事実
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なんて美しいんだろう。
木漏れ日でちらちらと揺れる虹彩は踊る炎のようだ。
ジェイドの苛烈な赤とも、ジゼルの凛とした真紅とも全く違う。
だけどリュートはすぐに力なく腕を下ろしてしまった。
それと同時に左目はまたもや前髪で遮断される。
「気持ち悪いよね、左右の色が違うなんて異常だ。こんな人間、ユスシアには他に存在しない。ジゼルだっておかしいと思うだろ?」
「おかしい? そんなはず……ないじゃない。どうして? どうして右目は青くなっちゃったの? だって昔は両方とも赤い色だったわ」
「それは……」
言い淀むリュートは視線を下に落とす。
頑なに隠していた片目は容易に説明しずらい理由もあるのだろう。
軽く説明できるようなものなら、彼はきっとここまで隠しはしない。
瞳の色が変化するなんてイブリスではあり得ない。
それに昔はすぐに効いた癒しの魔法を受け入れ難くなった理由も気になる。
しかし今は彼があの少年だった事実が嬉しく、ジゼルの心はただ高揚した。
そっと金色の前髪に指を伸ばす。
リュートはびくりと肩を強張らせたが、拒絶の意志はなかった。
再び現れた緋色の瞳にジゼルはほうっと息を漏らした。
「やっぱりリュートだったのね! 素敵……。こんなに綺麗な瞳、忘れた事なんか一度もないわ。何が気持ち悪いの? どうしてもっと早くに見せてくれなかったの?」
称賛も拗ねた気持ちも、どちらも本心である。
しかし、うっとり見つめるジゼルの視線から逃れるよう、リュートは目線を斜めに下ろしてしまった。
「だって目の色が違うなんて異質で……」
「確かに珍しいけど、リュートには変わりないし。それに空の色と炎の色、二つも持ってるなんて贅沢だわ! 気持ち悪いだなんてただの妬み……」
そこでジゼルの言葉は途切れる。昂っていた感情も同時に冷たく凍りついてしまった。
赤と青。もちろん、どちらも綺麗で彼によく似合う。
でも魔族の象徴である赤はユスシアでは忌避される色だと、そして赤を背負って生まれた者は排除されると、リュートから聞いた情報を思い出したのだ。
押し黙ってしまったジゼルの手をリュートの指が強く握る。
俯いた彼の表情は隠れてしまったけど、触れ合う指先は少し震えているようだった。
「僕は本来なら存在してはいけない人間だ。第一王子として生を受けたのは本当だけど……、市井の人たちは僕を知らない」
「知らない……?」
どういうことだろう。意味がわからない。
不可解な顔で首を傾げるジゼルを見るリュートは、フッと軽く笑う。
「幸いにも双子の弟がいたからね。フェリクは母上と同じ翡翠の瞳で……、こんな僕にも優しくしてくれる大切な弟なんだ。わざわざ忌み子の僕を国民に知らせる必要はないから、僕はこの世界に存在しないことになってる」
「そんなの酷いわ!」
意図せず大きな声が出てしまった。
彼は確かにここにいるのに、存在しないなんてあんまりだ。
あまりにも悲しい境遇を否定するよう、ジゼルはふるりと頭を振る。
「だってリュートは自分の役目を果たしているのに。きっとユスシアの民だってわかってくれるわ! あんなに酷い怪我を負ってまで魔獣から国を守っているんだもの」
「そんな立派なものじゃないよ。僕は魔獣を狩る事しか出来ないから。こんな気味の悪い僕でも人々の暮らしを支えられることが嬉しいし、誇りなんだ。自己満足みたいなものだよ」
そこまで卑下する理由がわからなかった。
左右の瞳が違うことなど、ジゼルにとっては何ひとつ嫌悪する原因になんかならないのに。
それはきっとジェイドやニアも同じだ。
だけど力なく笑う彼には伝わらないのだろうか。腕に触れるとリュートは体を硬らせた。
木漏れ日でちらちらと揺れる虹彩は踊る炎のようだ。
ジェイドの苛烈な赤とも、ジゼルの凛とした真紅とも全く違う。
だけどリュートはすぐに力なく腕を下ろしてしまった。
それと同時に左目はまたもや前髪で遮断される。
「気持ち悪いよね、左右の色が違うなんて異常だ。こんな人間、ユスシアには他に存在しない。ジゼルだっておかしいと思うだろ?」
「おかしい? そんなはず……ないじゃない。どうして? どうして右目は青くなっちゃったの? だって昔は両方とも赤い色だったわ」
「それは……」
言い淀むリュートは視線を下に落とす。
頑なに隠していた片目は容易に説明しずらい理由もあるのだろう。
軽く説明できるようなものなら、彼はきっとここまで隠しはしない。
瞳の色が変化するなんてイブリスではあり得ない。
それに昔はすぐに効いた癒しの魔法を受け入れ難くなった理由も気になる。
しかし今は彼があの少年だった事実が嬉しく、ジゼルの心はただ高揚した。
そっと金色の前髪に指を伸ばす。
リュートはびくりと肩を強張らせたが、拒絶の意志はなかった。
再び現れた緋色の瞳にジゼルはほうっと息を漏らした。
「やっぱりリュートだったのね! 素敵……。こんなに綺麗な瞳、忘れた事なんか一度もないわ。何が気持ち悪いの? どうしてもっと早くに見せてくれなかったの?」
称賛も拗ねた気持ちも、どちらも本心である。
しかし、うっとり見つめるジゼルの視線から逃れるよう、リュートは目線を斜めに下ろしてしまった。
「だって目の色が違うなんて異質で……」
「確かに珍しいけど、リュートには変わりないし。それに空の色と炎の色、二つも持ってるなんて贅沢だわ! 気持ち悪いだなんてただの妬み……」
そこでジゼルの言葉は途切れる。昂っていた感情も同時に冷たく凍りついてしまった。
赤と青。もちろん、どちらも綺麗で彼によく似合う。
でも魔族の象徴である赤はユスシアでは忌避される色だと、そして赤を背負って生まれた者は排除されると、リュートから聞いた情報を思い出したのだ。
押し黙ってしまったジゼルの手をリュートの指が強く握る。
俯いた彼の表情は隠れてしまったけど、触れ合う指先は少し震えているようだった。
「僕は本来なら存在してはいけない人間だ。第一王子として生を受けたのは本当だけど……、市井の人たちは僕を知らない」
「知らない……?」
どういうことだろう。意味がわからない。
不可解な顔で首を傾げるジゼルを見るリュートは、フッと軽く笑う。
「幸いにも双子の弟がいたからね。フェリクは母上と同じ翡翠の瞳で……、こんな僕にも優しくしてくれる大切な弟なんだ。わざわざ忌み子の僕を国民に知らせる必要はないから、僕はこの世界に存在しないことになってる」
「そんなの酷いわ!」
意図せず大きな声が出てしまった。
彼は確かにここにいるのに、存在しないなんてあんまりだ。
あまりにも悲しい境遇を否定するよう、ジゼルはふるりと頭を振る。
「だってリュートは自分の役目を果たしているのに。きっとユスシアの民だってわかってくれるわ! あんなに酷い怪我を負ってまで魔獣から国を守っているんだもの」
「そんな立派なものじゃないよ。僕は魔獣を狩る事しか出来ないから。こんな気味の悪い僕でも人々の暮らしを支えられることが嬉しいし、誇りなんだ。自己満足みたいなものだよ」
そこまで卑下する理由がわからなかった。
左右の瞳が違うことなど、ジゼルにとっては何ひとつ嫌悪する原因になんかならないのに。
それはきっとジェイドやニアも同じだ。
だけど力なく笑う彼には伝わらないのだろうか。腕に触れるとリュートは体を硬らせた。
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