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34.ニアの評価
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良いのか悪いのか、艶のある声だって表情だって鮮明に思い出せてしまう。
しかし頬を染めた理由までわからないらしいニアは、再度の大きなため息とともに肩を落とした。
「当然ですよ! なんせ他国の人ですし、姫様にはもっと強くて頼りがいのある方と結ばれてほしいと思っていたのに。せめて姫様と同等、もしくは近いくらいの魔力がある人はいないのかしら」
ニアの口調はもはや諦めを含んでいる。
ジゼルとしては、「強くて頼りがいがあるなんて、まさにリュートだわ」といったところだが、ニアは彼の剣技を目にしていない。安心させるようジゼルは軽く彼女の腕に触れる。
「リュートは十分強いわ。言ったでしょ? バドゥーグをたった一人で倒したのよ」
「それ、本当に本当なんですか? バドゥーグによく似た下等の魔獣を見間違えたとか」
「本当だってば! あんなの見間違えるはずないでしょ」
しかしニアの言いたいことは何となく理解もできる。
イブリスの王家は代々濃い赤の髪と瞳を有していて、色合いに差はあれど強い魔力を保持していることが一目でわかる容姿だ。
こちらにも武器は存在するが、やはり魔力の強さが優遇される。
リュートの髪は眩い日の光のようで、瞳は深い空のような青。
ジゼルだって実際に彼の剣を目にするまでは、あれほどまでに強い男とは思ってもいなかったのだから。
「でもね、リュートは……」
ニアには彼の良さをわかってほしい。
何から話そうかと口を開いたジゼルが話すより早く、ぐぅと食べ物を催促する音が二人の間に響いた。
「あ……」
よりによってなんで今……。
文句を言いたいところだが、自分の体なので仕方ない。
もしかして昨夜ぐったりと体が動かなくなるまで愛されたせいかもしれない。
そんな考えに至り、ますます羞恥が押し寄せてくる。
ばつが悪いジゼルをぱちくり眺めたニアは小さく噴きだした。
「早く仕度しましょうね。今日は姫様のお好きなパイがあるはずですよ」
くすくす笑いながら立ち上がったニアに促され、気を取り直したジゼルは素直にクローゼットの前へと移動した。
基本的にジゼルが身に着けるものは赤が多い。
何を着るか二人で選んだ結果、今日は珍しく紫が主体のものにした。
胸元のリボンと編み上げになっているウエスト部分がアクセントのシックなドレスワンピース。
動きに合わせて揺れるやや短めのボリュームあるスカート部分を確認し、鏡台へと移動する。
金で縁取られたゴシック調の黒いドレッサーもジゼルのお気に入りだ。
大きな鏡に映る姿は髪も瞳も、紅玉のような美しい真紅で彩られている。
(リュートの瞳も、あの少年のような緋色だったらニアも喜んでくれたのかしら)
ついそんなことを思い、軽い自己嫌悪に陥ってしまった。
赤でも青でも彼には変わりないのに。
表情が曇るジゼルを鏡越しに見つめ、艶やかな真紅の髪を結うニアは僅かに苦笑する。
「リュート王子が優しいお方だということはわかりますよ。私にも丁寧に接してくださいますし。ただやっぱり、姫様に憧れを抱いていた者たちを納得させるほどのお力は必要かと……。そうだ、いっそ姫様を巡る熱き決闘の開催なんていかがですか? すっごく面白そう!」
「何を言ってるのよ。そんなので怪我人が出たらどうするの。そもそも参加人数なんてたかが知れてるわよ。開催するだけ無駄よ、無駄。私は反対よ」
直接の誘いをして来た者は片手で足りるくらいの人数だが、みな強い魔力を持つ男ばかりだった。
自信がなければジゼルに声を掛けることなど出来ない。
そんな者たちとリュートを戦わせるなど絶対に阻止したいジゼルは強い拒否を示す。
だって彼にはイブリスの者に危害を加えられない制約があるのだから。
しかし頬を染めた理由までわからないらしいニアは、再度の大きなため息とともに肩を落とした。
「当然ですよ! なんせ他国の人ですし、姫様にはもっと強くて頼りがいのある方と結ばれてほしいと思っていたのに。せめて姫様と同等、もしくは近いくらいの魔力がある人はいないのかしら」
ニアの口調はもはや諦めを含んでいる。
ジゼルとしては、「強くて頼りがいがあるなんて、まさにリュートだわ」といったところだが、ニアは彼の剣技を目にしていない。安心させるようジゼルは軽く彼女の腕に触れる。
「リュートは十分強いわ。言ったでしょ? バドゥーグをたった一人で倒したのよ」
「それ、本当に本当なんですか? バドゥーグによく似た下等の魔獣を見間違えたとか」
「本当だってば! あんなの見間違えるはずないでしょ」
しかしニアの言いたいことは何となく理解もできる。
イブリスの王家は代々濃い赤の髪と瞳を有していて、色合いに差はあれど強い魔力を保持していることが一目でわかる容姿だ。
こちらにも武器は存在するが、やはり魔力の強さが優遇される。
リュートの髪は眩い日の光のようで、瞳は深い空のような青。
ジゼルだって実際に彼の剣を目にするまでは、あれほどまでに強い男とは思ってもいなかったのだから。
「でもね、リュートは……」
ニアには彼の良さをわかってほしい。
何から話そうかと口を開いたジゼルが話すより早く、ぐぅと食べ物を催促する音が二人の間に響いた。
「あ……」
よりによってなんで今……。
文句を言いたいところだが、自分の体なので仕方ない。
もしかして昨夜ぐったりと体が動かなくなるまで愛されたせいかもしれない。
そんな考えに至り、ますます羞恥が押し寄せてくる。
ばつが悪いジゼルをぱちくり眺めたニアは小さく噴きだした。
「早く仕度しましょうね。今日は姫様のお好きなパイがあるはずですよ」
くすくす笑いながら立ち上がったニアに促され、気を取り直したジゼルは素直にクローゼットの前へと移動した。
基本的にジゼルが身に着けるものは赤が多い。
何を着るか二人で選んだ結果、今日は珍しく紫が主体のものにした。
胸元のリボンと編み上げになっているウエスト部分がアクセントのシックなドレスワンピース。
動きに合わせて揺れるやや短めのボリュームあるスカート部分を確認し、鏡台へと移動する。
金で縁取られたゴシック調の黒いドレッサーもジゼルのお気に入りだ。
大きな鏡に映る姿は髪も瞳も、紅玉のような美しい真紅で彩られている。
(リュートの瞳も、あの少年のような緋色だったらニアも喜んでくれたのかしら)
ついそんなことを思い、軽い自己嫌悪に陥ってしまった。
赤でも青でも彼には変わりないのに。
表情が曇るジゼルを鏡越しに見つめ、艶やかな真紅の髪を結うニアは僅かに苦笑する。
「リュート王子が優しいお方だということはわかりますよ。私にも丁寧に接してくださいますし。ただやっぱり、姫様に憧れを抱いていた者たちを納得させるほどのお力は必要かと……。そうだ、いっそ姫様を巡る熱き決闘の開催なんていかがですか? すっごく面白そう!」
「何を言ってるのよ。そんなので怪我人が出たらどうするの。そもそも参加人数なんてたかが知れてるわよ。開催するだけ無駄よ、無駄。私は反対よ」
直接の誘いをして来た者は片手で足りるくらいの人数だが、みな強い魔力を持つ男ばかりだった。
自信がなければジゼルに声を掛けることなど出来ない。
そんな者たちとリュートを戦わせるなど絶対に阻止したいジゼルは強い拒否を示す。
だって彼にはイブリスの者に危害を加えられない制約があるのだから。
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