【R18】魔族の姫は隣国の王子に溺愛されたい!

ドゴイエちまき

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7.突然のときめき

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「そ、そういう意味じゃないから……」

 あくまで魔法を施すために触れていただけなのに。
 青い瞳に宿る熱が移ったかのように顔が熱い。

 そわそわ落ち着かないのは、跳ねる鼓動がやたらと体内に響くから。
 おかしいほど甘く締め付けられる胸がやけに苦しい。

「魔法、を……。そうよ、特別な意味じゃなくて。だって、お前が……汚れていたから……」

 しどろもどろに呟く言葉は本当の事なのに、逸らす視線のせいで言い訳のように聞こえてしまう。
 掴まれている手がやたらと熱く感じる。
 きっと彼の頬に触れている手のひらは汗ばんでいるはずだ。

 緊張で固くなった両手を引けばリュートは簡単に放してくれた。
 あっけなく開放された指のやり場がなく、なんとなく胸の前で握りしめる。

 まだ熱い皮膚には彼の体温が残っている気がした。
 ちらりと見上げるジゼルを見つめる瞳はさっきと変わらず、甘く優しい。

 青い瞳も金の髪も異国の珍しい色で、とても綺麗だと素直に思う。
 それになんと言っても、愛おし気に細められた瞳に心が吸い込まれてしまいそうだ。

 さっきまでは血痕に目が行ってしまい気が付かなかったが、随分と容姿の整った青年だ。
 涼し気な目元、更に柔らかな微笑みはジゼルの思考を一瞬停止させた。

 むしろ世界が止まってしまったかのようだった。
 急激にときめく胸が痛い。

(どうしよう。そんなつもりじゃなかったけど、手を……握られてしまったわ!)

 十九のジゼルはそろそろ人生の伴侶を見つける年齢である。
 近頃は正式に交際を望む者が声を掛けてくるようになった。

 それこそがこの森で息抜きを必要とする理由なのだが、生まれてこのかた恋人などいたことはない。
 魔族の姫であるジゼルに簡単に手を出す者など、この国にはいないからだ。
 魔王である父の正式な許可がないと容易には近づけない高根の花である。

 しかも赤が尊ばれるこの国において、濃い真紅の髪と瞳を持つジゼルは軽い崇拝対象だったりもする。
 そんなわけで彼女にとって異性とはいまだ未知の生物であった。
 楽しい事が何より好きな父ジェイドはその場のノリで許しそうではあるけれど。

 熱くなった頬を両手で包み、もう一度視線を上げる。
 リュートは自分の衣服を触って、まじまじと綺麗になった布を眺めていた。
 そして視線に気づいた彼はまた気の抜けるような笑顔を見せる。

「ありがとう。あんなに血で汚れていたのに綺麗になってる。魔法って本当にすごいね」

 涼やかな青の瞳は色っぽさを含むのに、無防備に微笑む顔は幼さすら感じさせる。
 甘く締め付けられる胸がこそばゆい。
 正真正銘、急な坂道の一番上から転がるように恋に落ちてしまった。

 単純だろうが、突然訪れたときめきに抵抗する術もなければ、抗おうとする意志もない。
 ぎゅっと胸の前で指を組んだジゼルは思わず、彼の薄いくちびるに視線を向ける。

 父は何も言わないが、やはり魔族の姫たる自分は好きや嫌いよりも、将来国を背負えるような実力のある者を婿に迎えるべきではないのだろうか。

 そう、侍女であり親友のニアに相談したところ、

「ジェイド様が良いとおっしゃっているのでお好きにすべきだとは思いますが、その人とキスが出来るかどうかで決めれば良いんじゃないでしょうか? 姫様の性格上キスも出来ない相手とは、お世継も難しいでしょうし」

 なんて軽く返されたことを思い出したからだ。

(出来るわ! 余裕で出来る! どうしよう、ニア。見つけちゃったわ!)

 もしかすると彼と結ばれることで両国の関係も再び良好なものになるかもしれない。
 これはまさに運命的な恋の出会いなのではないだろうか。

 感動で瞳を潤ませるジゼルだが、だからと言ってどうすれば良いのかまではわからなかった。

 唐突に、

「私は将来イブリスの女王となる身ですが、結婚を前提に付き合って下さい。そして将来は共に国を支えていきましょう」

 などと言えるわけもない。

(ダメに決まってるわ。出会ったばかりの相手に国を背負わせるなんて重すぎる……)

 何かもっとこう、自然に……。
 などと一人で頭を悩ませていると、少し迷いのそぶりを見せたリュートが遠慮がちに訪ねて来た。
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