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52.ミルカの魔界事情

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「ん、充電完了。マジでチート過ぎるよね。落ちこぼれ天使の俺がエッチなサキュバスを調教したら超絶チートな嫁になりました、とかそんな感じ」

「ああん嫁って言われちゃった♡ よくわかんないけどソウマ様の役に立ってるなら嬉しい♡ それにソウマ様は落ちこぼれじゃないわ。ミルカのご主人様だもん」

 曇りないまなこで見上げると、少し照れた蒼真に髪を撫でられる。
 表情は澄ましていてもお揃いのピアスが光る耳元が赤い。
 それを確認したミルカはニマニマ締まりのない顔でキッチンへと向かった。

 今日は蒼真の好きなカレーだ。
 といっても彼の好物が食卓に並ばない日はない。
 胃袋を掴む作戦も地味に実行中である。
 ミルカに妥協という文字はなかった。それもまた蒼真に関してのみだけど。
 
 ご機嫌なミルカは最近よく聞く流行りの歌を口ずさみながら、カレーの入った鍋を温め直す。
 野菜の切り方から調味料によるアレンジ。
 研究を重ねたルーは力作だ。
 スパイシーな香りが鼻腔をすぐり、ミルカは満足げに頷く。

(今日の出来も最高! ミルカってば出来る嫁すぎるぅ♡)

 こうやってにやけるのも毎日のことだったりする。ちょうどいい具合に温まった頃、着替え終えた蒼真が後ろから覗き込んできた。
 
「いい匂い、めっちゃおいしそー。いつもありがと。意外になんでも出来るよね」
「そうなの♡ ソウマ様のためなら何だって出来ちゃう♡ 」
「魔力も異常だしさ、マジでチートが過ぎる」
 
 コップに注いだ水を飲み込んだ蒼真はじっとミルカを見つめる。
 何も言わず真剣な表情でただ眺めてくる彼は珍しく、不思議に思ったミルカは首を傾けた。
 
「どうしたの?」
「んー、ずっと気になってたんだけど……。ミルカってもしかして魔王の娘とか、そういうのだったりする?」
「まさか! 違いますよう!」

 少し緊張したような問いはあまりにも予想外で、くすくす笑うミルカに蒼真もホッと表情を緩める。
 
「だよね、魔界のプリンセスが天使のために地上でカレー作るわけないか」
「そうですよぉ、ミルカのパパは魔王様の補佐なんだもの」
 
 にこやかに言った途端、蒼真の持っていたコップが大きな音を立ててシンクに落ちた。
 幸いガラスではないので割れはしなかったが、ぽかんとする彼の表情はこれまた珍しく、切長の目が大きく見開かれている。
 
「補佐……?」
「そうなの。腹心であり右腕であり親友? なんかよくそんなこと言ってるけど、ミルカには関係ないし」
「いや、あるだろ?! 魔王の腹心って超上級だし、めっちゃ重要人物じゃん……」
 
 俺、もしかしてとんでもない子に手出した……? など呟く蒼真の顔が青くなっていく。
 まさか高すぎる両親の地位で引かれるなんて最悪でしかない。
 それは自分ではどうにも出来ないからだ。
 慌てたミルカは必死にメリットを考える。

「あのね! そう! ソウマ様が望めばパパの跡を継ぐことも出来るよ。天使の補佐だなんて魔王様も喜ぶと思うの。天使初の魔王補佐なんて格好いい♡ ああん素敵♡」
「どう考えても喜ばないでしょ……」

「大丈夫! だって魔王様、面白いこと大好きだもん。でもミルカね、ソウマ様には補佐より魔王のほうが似合うと思うの♡ 魔王の座奪っちゃう? ミルカ、全力で協力しちゃう♡」
「奪わないって。おっそろしいこと言うね」

 軽く言ってみたが至って本気だ。
 怖いものなしのミルカを震え上がらせることができる彼こそ、次期魔王に相応しいと思っている。
 次に帰ったら魔王様に提案してみよう、そんなことをこっそり企んでいるのはまだ蒼真には秘密だけど。
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