43 / 54
43.蒼真の部屋
しおりを挟む
「うん、さっきより顔色いいね。多分、応急処置程度だけどさ。精気って万能じゃん」
「あ……。うん、怠いの消えちゃった……かも」
座っていたオブジェからすとんと足を地につけて立ってみる。
少しのふらつきは否めないが、さっきまで感じていた息苦しさは随分と軽くなっていた。
もしかすると精気不足も関係しているのかもしれない。
ここのところ食事をしていなかったせいだ。
視界もクリアで、はっきり見える蒼真の姿にミルカは「はわわ」とおかしな声を上げた。
白のビッグシルエットのシャツに同色のスキニー。
シンプルな服を好む蒼真はこちらでもすっきりとした格好をしている。
見慣れた月色の瞳に、さらりとした髪は地上にいる時より青が濃く見えた。
「ああん真っ白コーデも素敵ぃ! それに頼りになるぅ♡ ミルカ、ソウマ様のお嫁さんになれて幸せ♡」
「いつなったっけ……。まあいいや、誰にも会わないように最速で飛んでくからしっかり掴まってて」
再び抱き上げられて、言われた通りしっかり首に腕を回してしがみつく。
ついでにマーキングするように擦り寄るミルカに、蒼真のくすぐったそうな笑いが聞こえた。
「じゃ、行くよ。舌噛むから喋っちゃダメだから」
こくこく頷くミルカを確認し、空を見上げる蒼真の背に突如ばさりと白い翼が現れる。
柔らかで清らかな純白の羽。
ミルカの目がまん丸に見開かれる。あまりの驚きにピンと尻尾も立ってしまった。
「そ、ソウマ様が、天使みたいに……!」
「まあ、天使だからね」
驚愕するミルカに軽く答え、トンと地を蹴る。
ふわりとした浮遊感に若干体を強張らせたミルカを気にせず、そのまま上昇した蒼真は一度ぴたりと停止した。
「んー、今の時間帯ならいっか。はっきり見られなきゃ大丈夫でしょ。……多分」
眼下に広がるのはやっぱり真っ白な世界。くるりと見渡しても所々に散らばる差し色があるだけで、全ての建物が白い。
見慣れない光景を眺めるミルカに瞳を向けた蒼真と視線が合う。
くちびるが悪戯っぽく弧を描いたと思った瞬間、びゅんと経験したことのない速さで空を駆けることになった。
「え、きゃ、きゃああああっ?!」
喋ってはいけないと言われたが、あまりにも速く過ぎる景色に思わず悲鳴が飛び出してしまう。
旋回しては降下し、再び高い位置に戻る。
蒼真は楽しそうで、ミルカの悲鳴に屈託のない笑顔を見せた。
意地悪だったり、余裕の顔でミルカを翻弄する彼だが、こういうところは年下っぽく可愛いと思う。
それに絶叫系アトラクションは大好きだし、蒼真が途中で落とすなんてあり得ない。
そう思い直したミルカの悲鳴はすぐに楽しいものへ変わった。
幾人かとすれ違った気もしたが、速度を緩めない蒼真に声をかける者はいなかった。
というより、なんかめっちゃ速いのが過ぎていった、くらいの認識だと思われる。
残念ながら目的地までは案外早く、あっという間に蒼真は軽快に降り立った。
といってもここは屋根の上だけど。
「楽しかった?」
「すっごく楽しかった! 次の土日は遊園地に行こ♡ どこがいい? 飛行機でも新幹線でもなんでも予約しちゃう♡ ホテルはどこにしようかな。可愛いお部屋がいいなぁ」
「んー。それは約束出来ないけど、とりあえず部屋入ろっか」
ミルカを下ろした蒼真は屋根にある窓を開く。
いつの間にか羽は消えていて、ついぺとりと背中に手を当ててしまった。
「何?」
「消えちゃった……」
ここは天界だ。翼を隠す必要は感じられない。
不思議な顔をするミルカに小さく笑い、室内に飛び降りた蒼真は「おいで」と手を伸ばす。
えいっと飛び降りたミルカを抱きとめ、頬に軽いキスをする彼は以前となにも変わらない。
白を基調とした室内に所々青があるのも地上の部屋とあまり差がないように思える。
だがこちらのほうが圧倒的に広い。
それにゲーム機の類がない。
地上での彼しか知らないミルカは、蒼真がここでどうやって過ごしているのかあまり想像はできなかった。
ソファは一人がけで、なんとなくベッドに腰掛けたミルカは部屋の中をきょろきょろ見渡す。
ここは蒼真の実家で、小さな頃から過ごしてきた場所だと思えば平伏して拝みたい気持ちも湧いてくる。
そわそわ落ち着かない体を鎮めるため、枕元にあったクッションを抱きしめた。
顔を埋めると蒼真の匂いがする。
すんすん嗅いでいるとスプリングが軋み、ぎゅっとクッションを抱くミルカの横に蒼真が腰掛けた。
いつの間に用意されたのか、手には飲み物もある。
「あ……。うん、怠いの消えちゃった……かも」
座っていたオブジェからすとんと足を地につけて立ってみる。
少しのふらつきは否めないが、さっきまで感じていた息苦しさは随分と軽くなっていた。
もしかすると精気不足も関係しているのかもしれない。
ここのところ食事をしていなかったせいだ。
視界もクリアで、はっきり見える蒼真の姿にミルカは「はわわ」とおかしな声を上げた。
白のビッグシルエットのシャツに同色のスキニー。
シンプルな服を好む蒼真はこちらでもすっきりとした格好をしている。
見慣れた月色の瞳に、さらりとした髪は地上にいる時より青が濃く見えた。
「ああん真っ白コーデも素敵ぃ! それに頼りになるぅ♡ ミルカ、ソウマ様のお嫁さんになれて幸せ♡」
「いつなったっけ……。まあいいや、誰にも会わないように最速で飛んでくからしっかり掴まってて」
再び抱き上げられて、言われた通りしっかり首に腕を回してしがみつく。
ついでにマーキングするように擦り寄るミルカに、蒼真のくすぐったそうな笑いが聞こえた。
「じゃ、行くよ。舌噛むから喋っちゃダメだから」
こくこく頷くミルカを確認し、空を見上げる蒼真の背に突如ばさりと白い翼が現れる。
柔らかで清らかな純白の羽。
ミルカの目がまん丸に見開かれる。あまりの驚きにピンと尻尾も立ってしまった。
「そ、ソウマ様が、天使みたいに……!」
「まあ、天使だからね」
驚愕するミルカに軽く答え、トンと地を蹴る。
ふわりとした浮遊感に若干体を強張らせたミルカを気にせず、そのまま上昇した蒼真は一度ぴたりと停止した。
「んー、今の時間帯ならいっか。はっきり見られなきゃ大丈夫でしょ。……多分」
眼下に広がるのはやっぱり真っ白な世界。くるりと見渡しても所々に散らばる差し色があるだけで、全ての建物が白い。
見慣れない光景を眺めるミルカに瞳を向けた蒼真と視線が合う。
くちびるが悪戯っぽく弧を描いたと思った瞬間、びゅんと経験したことのない速さで空を駆けることになった。
「え、きゃ、きゃああああっ?!」
喋ってはいけないと言われたが、あまりにも速く過ぎる景色に思わず悲鳴が飛び出してしまう。
旋回しては降下し、再び高い位置に戻る。
蒼真は楽しそうで、ミルカの悲鳴に屈託のない笑顔を見せた。
意地悪だったり、余裕の顔でミルカを翻弄する彼だが、こういうところは年下っぽく可愛いと思う。
それに絶叫系アトラクションは大好きだし、蒼真が途中で落とすなんてあり得ない。
そう思い直したミルカの悲鳴はすぐに楽しいものへ変わった。
幾人かとすれ違った気もしたが、速度を緩めない蒼真に声をかける者はいなかった。
というより、なんかめっちゃ速いのが過ぎていった、くらいの認識だと思われる。
残念ながら目的地までは案外早く、あっという間に蒼真は軽快に降り立った。
といってもここは屋根の上だけど。
「楽しかった?」
「すっごく楽しかった! 次の土日は遊園地に行こ♡ どこがいい? 飛行機でも新幹線でもなんでも予約しちゃう♡ ホテルはどこにしようかな。可愛いお部屋がいいなぁ」
「んー。それは約束出来ないけど、とりあえず部屋入ろっか」
ミルカを下ろした蒼真は屋根にある窓を開く。
いつの間にか羽は消えていて、ついぺとりと背中に手を当ててしまった。
「何?」
「消えちゃった……」
ここは天界だ。翼を隠す必要は感じられない。
不思議な顔をするミルカに小さく笑い、室内に飛び降りた蒼真は「おいで」と手を伸ばす。
えいっと飛び降りたミルカを抱きとめ、頬に軽いキスをする彼は以前となにも変わらない。
白を基調とした室内に所々青があるのも地上の部屋とあまり差がないように思える。
だがこちらのほうが圧倒的に広い。
それにゲーム機の類がない。
地上での彼しか知らないミルカは、蒼真がここでどうやって過ごしているのかあまり想像はできなかった。
ソファは一人がけで、なんとなくベッドに腰掛けたミルカは部屋の中をきょろきょろ見渡す。
ここは蒼真の実家で、小さな頃から過ごしてきた場所だと思えば平伏して拝みたい気持ちも湧いてくる。
そわそわ落ち着かない体を鎮めるため、枕元にあったクッションを抱きしめた。
顔を埋めると蒼真の匂いがする。
すんすん嗅いでいるとスプリングが軋み、ぎゅっとクッションを抱くミルカの横に蒼真が腰掛けた。
いつの間に用意されたのか、手には飲み物もある。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる