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40.鷹夜とミルカ
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きゃはきゃは笑う藍音に鷹夜は顔を片手で覆って苦い顔をしている。
遠慮なしにひとしきり笑った彼女は「さて」とミルカの顔を覗き込んだ。
「ミルカちゃん本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃ……ない……かも」
ぐったりともたれかかかるミルカの姿を改めて見た藍音は眉根を下げた。
擬態のためにいつも隠している、ハートのような先の尖った尻尾がスカートの隙間から覗いている。
きっと丸まった二つのツノも頭に現れているはずだ。
「うーん、やっぱり悪魔にはここの空気は厳しいか……。ミルカちゃんなら大丈夫かと思ったんだけど、魔力が濃いほどつらいのかもしれないね」
なんせ悪魔を連れてきたのなんか初めてなの、と言って謝罪するアイネにぷるぷる首を振る。
「大丈夫じゃないけど……帰らない。ソウマ様に、会いたいの」
「うんうん、そうだよね! ああー……乙女の恋から摂取できる栄養大好き! これぞ天使に産まれた醍醐味よね。やっぱり私たちは縁結びが使命なのよ。はい、鷹夜くん、か弱き乙女を運んであげて」
キラキラした瞳で身悶えてから藍音はビシッと鷹夜を指差す。
びくりと肩を震わせた彼はうんざりと嫌な顔をしている。
「えっ……俺が悪魔を? 嫌ですよ。それにそいつのどこが、か弱き乙女なんですか」
「君ぃ……そういうとこだぞ。どこからどう見ても可愛い女の子でしょお? 言っとくけどね、魔界から訴えられても仕方ないことしたのよ、あんた。この子どう見ても上級悪魔でしょ。そんなのもわかんないなんて、あんた何年天使やってんの」
「上級? 淫魔なのに?」
鷹夜が驚く通り、淫魔は本来なら下級魔族である。だがミルカの母は魔界屈指の上級淫魔だ。
加えて有力者の父。
ミルカは正真正銘、魔界では有名なお嬢様だったりする。
「そういう偏見が直感を曇らせるのよ。蒼真もだけど。情けない兄弟よねぇ。これは上司命令よ。さっさと運びなさいよ」
「ぐっ……。横暴だ……」
そうは言いつつもミルカの肩に手を置いた鷹夜は面倒そうに小柄な体を抱き上げる。
その嫌悪感溢れる表情にピシリとミルカの低い沸点が限界を超えた。
「ミルカだってソウマ様以外の奴に触られたくないわよ! ソウマ様のお兄様だからって調子に乗らないで。天使のくせにミルカに触れられるなんて幸運だと思いなさいよ、クッソ兄貴! あんたなんか一瞬で消してしまえるんだから!」
一気に言い終え、ぜえはあと息を吐いて強く睨むミルカに鷹夜はぽかんと間抜けな顔をしている。
徐々に理解したらしい彼の表情がみるみるうちに険しくなっていくが、同じくぽかんと口を開けた藍音が派手に噴き出した。
バシバシと鷹夜の背中を叩く彼女は涙さえ浮かべている。
「爽快! その通りよねぇ。勘違い恥ずかしいね鷹夜くん♡ 今どんな気持ちかな? お姫様をさっさとお運びあそばして、クソ兄貴♡」
「やかましいですよ藍音さん! こいつ強制送還していいですか?」
「あらあら、いいの? 弟君の機嫌を治してくれる貴重な悪魔ちゃんなのに? あのままじゃ一生口聞いてくんないどころか……堕天しちゃうかもよ。しかも一番タチの悪い感じにね」
きゃらきゃら笑っていた藍音の声が静かに響く。一転した真剣な瞳に鷹夜の眉間のシワも更に深くなった。
堕天などミルカにとっては何の問題もないし、むしろ悪魔サイドに来てくれるのなら歓迎したいところだ。だけど天使からすると大事らしい。
「あくまで弟のためだ。俺はお前を認めるわけじゃない」
「やだぁ、ツンデレ。ミルカちゃんごめんねー。兄弟揃ってメンタルよわよわだから許してあげて。ほら行くよ。さっさと歩く」
ぐったりしつつもツンと顔を背けるミルカに不機嫌な表情の鷹夜。
先に歩き始めた藍音について彼も歩き出す。
「あ、今回のことは妹にも伝えておくから。それが一番あんたには効くでしょ。何が悪かったのかもう一度よく考えなさい」
振り向きもせず投げかけられた言葉に鷹夜の顔が青くなる。
明らかに動揺し、藍音を呼ぶ鷹夜を彼女は気にも留めない。
軽い足取りですいすい歩く背中は凛としていて、迷いというものが一才感じられなかった。
彼女の中ではきっと善悪より自分の判断が重要なんだろう。
それはミルカも同じだけど、蒼真が姉のように慕う気持ちもなんとなく理解できる。
なんてぼんやりする頭でそんなことを思った。
瞼を開けるのも億劫だ。しばらく眠るように大人しくしていたミルカの耳に、扉を開く静かな音が聞こえた。
遠慮なしにひとしきり笑った彼女は「さて」とミルカの顔を覗き込んだ。
「ミルカちゃん本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃ……ない……かも」
ぐったりともたれかかかるミルカの姿を改めて見た藍音は眉根を下げた。
擬態のためにいつも隠している、ハートのような先の尖った尻尾がスカートの隙間から覗いている。
きっと丸まった二つのツノも頭に現れているはずだ。
「うーん、やっぱり悪魔にはここの空気は厳しいか……。ミルカちゃんなら大丈夫かと思ったんだけど、魔力が濃いほどつらいのかもしれないね」
なんせ悪魔を連れてきたのなんか初めてなの、と言って謝罪するアイネにぷるぷる首を振る。
「大丈夫じゃないけど……帰らない。ソウマ様に、会いたいの」
「うんうん、そうだよね! ああー……乙女の恋から摂取できる栄養大好き! これぞ天使に産まれた醍醐味よね。やっぱり私たちは縁結びが使命なのよ。はい、鷹夜くん、か弱き乙女を運んであげて」
キラキラした瞳で身悶えてから藍音はビシッと鷹夜を指差す。
びくりと肩を震わせた彼はうんざりと嫌な顔をしている。
「えっ……俺が悪魔を? 嫌ですよ。それにそいつのどこが、か弱き乙女なんですか」
「君ぃ……そういうとこだぞ。どこからどう見ても可愛い女の子でしょお? 言っとくけどね、魔界から訴えられても仕方ないことしたのよ、あんた。この子どう見ても上級悪魔でしょ。そんなのもわかんないなんて、あんた何年天使やってんの」
「上級? 淫魔なのに?」
鷹夜が驚く通り、淫魔は本来なら下級魔族である。だがミルカの母は魔界屈指の上級淫魔だ。
加えて有力者の父。
ミルカは正真正銘、魔界では有名なお嬢様だったりする。
「そういう偏見が直感を曇らせるのよ。蒼真もだけど。情けない兄弟よねぇ。これは上司命令よ。さっさと運びなさいよ」
「ぐっ……。横暴だ……」
そうは言いつつもミルカの肩に手を置いた鷹夜は面倒そうに小柄な体を抱き上げる。
その嫌悪感溢れる表情にピシリとミルカの低い沸点が限界を超えた。
「ミルカだってソウマ様以外の奴に触られたくないわよ! ソウマ様のお兄様だからって調子に乗らないで。天使のくせにミルカに触れられるなんて幸運だと思いなさいよ、クッソ兄貴! あんたなんか一瞬で消してしまえるんだから!」
一気に言い終え、ぜえはあと息を吐いて強く睨むミルカに鷹夜はぽかんと間抜けな顔をしている。
徐々に理解したらしい彼の表情がみるみるうちに険しくなっていくが、同じくぽかんと口を開けた藍音が派手に噴き出した。
バシバシと鷹夜の背中を叩く彼女は涙さえ浮かべている。
「爽快! その通りよねぇ。勘違い恥ずかしいね鷹夜くん♡ 今どんな気持ちかな? お姫様をさっさとお運びあそばして、クソ兄貴♡」
「やかましいですよ藍音さん! こいつ強制送還していいですか?」
「あらあら、いいの? 弟君の機嫌を治してくれる貴重な悪魔ちゃんなのに? あのままじゃ一生口聞いてくんないどころか……堕天しちゃうかもよ。しかも一番タチの悪い感じにね」
きゃらきゃら笑っていた藍音の声が静かに響く。一転した真剣な瞳に鷹夜の眉間のシワも更に深くなった。
堕天などミルカにとっては何の問題もないし、むしろ悪魔サイドに来てくれるのなら歓迎したいところだ。だけど天使からすると大事らしい。
「あくまで弟のためだ。俺はお前を認めるわけじゃない」
「やだぁ、ツンデレ。ミルカちゃんごめんねー。兄弟揃ってメンタルよわよわだから許してあげて。ほら行くよ。さっさと歩く」
ぐったりしつつもツンと顔を背けるミルカに不機嫌な表情の鷹夜。
先に歩き始めた藍音について彼も歩き出す。
「あ、今回のことは妹にも伝えておくから。それが一番あんたには効くでしょ。何が悪かったのかもう一度よく考えなさい」
振り向きもせず投げかけられた言葉に鷹夜の顔が青くなる。
明らかに動揺し、藍音を呼ぶ鷹夜を彼女は気にも留めない。
軽い足取りですいすい歩く背中は凛としていて、迷いというものが一才感じられなかった。
彼女の中ではきっと善悪より自分の判断が重要なんだろう。
それはミルカも同じだけど、蒼真が姉のように慕う気持ちもなんとなく理解できる。
なんてぼんやりする頭でそんなことを思った。
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