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39.藍音と鷹夜
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手持ちの服はほぼ黒を使用したものばかりだ。
唯一持っていた白のオフショルワンピースを選択したミルカは鏡の前で全身の確認をする。
透け感のあるエアリーなフリルワンピ。
ウエストの切り替えからふわりと広がる膝丈までのフレアは珍しく清楚系だ。
目立つ谷間部分にある編み上げリボンはなかなか際どいけど、これで蒼真を誘惑するのも悪くない。
そんな計算もありながら軽くメイクも整える。
天界に財布などは必要ないだろう。何も持たずに飛び出したマンションから、先ほどの公園までを走り抜ける。
ベンチには変わらず藍音が座っていて、全力で駆け寄るミルカに明るく手を振った。
「ミルカちゃんってば白い服も似合う~! かーわいーいー♡ そしてセクスィ♡」
息を切らせるミルカはそれに返すことも出来ず、とすんとベンチに腰を下ろす。
普段あまり走ることのない体は思っていた以上の疲労を感じ、このまま寝転んでしまいたくなった。
「大丈夫? 落ち着いたら行こうか。関係者用の通路に部下を待たせてるから」
「も、大丈夫……。部下?」
「まぁ、真面目だけが取り柄な出来の悪い部下だけどね」
ここじゃちょっと目立つから、と木陰に進む藍音に続いてミルカも後ろを追う。
身を隠してくれる大きな木の下で止まり、ミルカの手を握った藍音からふわりと柔らかな光が溢れてくる。
温かで優しい理力……なのはなんとなくわかる。
だけど悪魔の本能か、ぞわりとした不快感が否めない。
蒼真から与えられた魔法陣がない今、天使の力は体が拒絶を訴える。
それに藍音の力は蒼真よりずっと清らかで混じりっけがない。
そわそわと落ち着かないミルカに藍音は困ったように笑った。
「やっぱり変な感じする?」
「うん……、なんかちょっと……気持ち悪い」
「そっかぁ……。天界の空気はちょっと厳しいかも。蒼真に頑張ってもらわなきゃだね」
うんうんと一人で納得する藍音の声がした直後、身を包む光が濃くなった。
思わず目を閉じたミルカは空いている手で強く藍音の腕にしがみつく。
ほんの数秒だったのか、数分だったのか。気付いた時には寒気がするほどの真っ白な空間に立っていた。
感じたことのない圧迫感が体を苛む。ふらつくミルカは呼吸も荒く、強烈な目眩に項垂れている。
藍音の「大丈夫?」と気遣う声になんとか頷いてみせるが、真っ直ぐに立っていることさえ困難だ。
「藍音さん! うわ……酒くっさ。また飲み過ぎですか」
「大丈夫だってー。浄化魔法でアルコールなんかすぐに吹っ飛んじゃうから問題ない!」
聞き覚えのある声にそっと顔を上げると、盛大に顔を顰めた鷹夜がこちらを見ていた。
だが藍音は悪びれもせずケタケタ笑っている。まさに酔っ払いである。
「クソ……お兄様……」
「淫魔……。まさか本当に連れてくるとは……」
目の前にいるのは蒼真を害した相手で、ミルカから契約の証を奪った原因だ。
文字通り噛み付いてやりたいがそれほどの元気はなかった。
一瞬強い光を宿したピンクの瞳も、すぐに抗えない重みで覇気がなくなってしまう。
崩れそうな体は藍音が支えてくれている。
「はいはい感謝してよね。優しい上司が、かっわいい弟の機嫌を直してあげるんだから」
「アイネちゃんまさか……」
「そ! 部下の鷹夜くんでーす。ごめんね、見たくないかなと思ったんだけど一番適役で……。仕事は出来るんだけどねぇ、肝心なとこでポンコツというか。今もね、弟が口聞いてくれないとか嘆いててさ、当たり前だよねー! ざまぁ♡」
唯一持っていた白のオフショルワンピースを選択したミルカは鏡の前で全身の確認をする。
透け感のあるエアリーなフリルワンピ。
ウエストの切り替えからふわりと広がる膝丈までのフレアは珍しく清楚系だ。
目立つ谷間部分にある編み上げリボンはなかなか際どいけど、これで蒼真を誘惑するのも悪くない。
そんな計算もありながら軽くメイクも整える。
天界に財布などは必要ないだろう。何も持たずに飛び出したマンションから、先ほどの公園までを走り抜ける。
ベンチには変わらず藍音が座っていて、全力で駆け寄るミルカに明るく手を振った。
「ミルカちゃんってば白い服も似合う~! かーわいーいー♡ そしてセクスィ♡」
息を切らせるミルカはそれに返すことも出来ず、とすんとベンチに腰を下ろす。
普段あまり走ることのない体は思っていた以上の疲労を感じ、このまま寝転んでしまいたくなった。
「大丈夫? 落ち着いたら行こうか。関係者用の通路に部下を待たせてるから」
「も、大丈夫……。部下?」
「まぁ、真面目だけが取り柄な出来の悪い部下だけどね」
ここじゃちょっと目立つから、と木陰に進む藍音に続いてミルカも後ろを追う。
身を隠してくれる大きな木の下で止まり、ミルカの手を握った藍音からふわりと柔らかな光が溢れてくる。
温かで優しい理力……なのはなんとなくわかる。
だけど悪魔の本能か、ぞわりとした不快感が否めない。
蒼真から与えられた魔法陣がない今、天使の力は体が拒絶を訴える。
それに藍音の力は蒼真よりずっと清らかで混じりっけがない。
そわそわと落ち着かないミルカに藍音は困ったように笑った。
「やっぱり変な感じする?」
「うん……、なんかちょっと……気持ち悪い」
「そっかぁ……。天界の空気はちょっと厳しいかも。蒼真に頑張ってもらわなきゃだね」
うんうんと一人で納得する藍音の声がした直後、身を包む光が濃くなった。
思わず目を閉じたミルカは空いている手で強く藍音の腕にしがみつく。
ほんの数秒だったのか、数分だったのか。気付いた時には寒気がするほどの真っ白な空間に立っていた。
感じたことのない圧迫感が体を苛む。ふらつくミルカは呼吸も荒く、強烈な目眩に項垂れている。
藍音の「大丈夫?」と気遣う声になんとか頷いてみせるが、真っ直ぐに立っていることさえ困難だ。
「藍音さん! うわ……酒くっさ。また飲み過ぎですか」
「大丈夫だってー。浄化魔法でアルコールなんかすぐに吹っ飛んじゃうから問題ない!」
聞き覚えのある声にそっと顔を上げると、盛大に顔を顰めた鷹夜がこちらを見ていた。
だが藍音は悪びれもせずケタケタ笑っている。まさに酔っ払いである。
「クソ……お兄様……」
「淫魔……。まさか本当に連れてくるとは……」
目の前にいるのは蒼真を害した相手で、ミルカから契約の証を奪った原因だ。
文字通り噛み付いてやりたいがそれほどの元気はなかった。
一瞬強い光を宿したピンクの瞳も、すぐに抗えない重みで覇気がなくなってしまう。
崩れそうな体は藍音が支えてくれている。
「はいはい感謝してよね。優しい上司が、かっわいい弟の機嫌を直してあげるんだから」
「アイネちゃんまさか……」
「そ! 部下の鷹夜くんでーす。ごめんね、見たくないかなと思ったんだけど一番適役で……。仕事は出来るんだけどねぇ、肝心なとこでポンコツというか。今もね、弟が口聞いてくれないとか嘆いててさ、当たり前だよねー! ざまぁ♡」
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