上 下
32 / 54

32.反転しちゃう?

しおりを挟む
「悪魔に屈することがどれだけ不名誉なことかわかっているのか?!」
「そういうの鬱陶しいんだよね。俺はミルカがいればいいし、元々天使なんか向いてないんだよ。任務だって最低限のことやってるだけだしさ。兄さんと違って落ちこぼれだし」
「蒼真……」

 そういえば以前、兄さんは優秀だと言っていたことをミルカはなんとなく思い出した。
 だけど生まれた時から上級悪魔に囲まれた生活をしているミルカからすると、この兄の何がそこまで優秀なのかはわからない。

 ただ二人の様子から深刻な雰囲気は感じ取れる。
 さっきの口調から、もしかすると蒼真はコンプレックスのようなものを抱いてるのかもしれない。
 くいっと蒼真の袖を引っ張り、気付いた瞳をミルカは下から覗き込んだ。
 
「ソウマ様はすごい人よ。だってミルカを使役できるんだもん。魔界の人からするとすごいことなんだけどな。ミルカね、反転なんかしたくないけど命令ならやっちゃおうかな♡」

 ね? と楽観的に笑うミルカに「敵わないね」と呟いた蒼真の顔が緩む。
 柔らかな表情を見せる弟とは反比例して、鷹夜からはピリピリとした空気が発せられたままだ。
 
「その淫魔に魅了されたか……。手遅れにならないうちに早く解除しろ。お前は天使で、そいつは悪魔だ。しっかり考えろ蒼真」

「もう手遅れだよ。たしかに魅了されてるよね。俺にとって天使とかそういうの、そんなに重要じゃないんだ。兄さんにはわからないだろうけど」
「そうか……。思っていたより重症だな。それならば俺も遠慮はしない」

 鷹夜の声が無機質に響く。不穏な空気に蒼真がいち早く反応した。
 
「待っ……!」
 
 鷹夜は静かに左手のひらを向ける。そこから発せられた不穏な光。
 鎖のように見えるそれはミルカに向かって放たれる。だが反応するより先に、蒼真が庇うように抱き込んだ。

 キンと何かがぶつかったような音が響く。空気が振動する感覚と同時に、ふわりと体中を柔らかな青の光が包み込む。
 覚えのある力は魔法陣から伝わるものと同じ気配がした。
 
(これはソウマ様の力? え、嘘、守ってくれてるの? 王子様すぎるんだけどああん好き!) 
 
 守られている状況に感激したミルカは興奮気味に蒼真を見上げる。
 どうやら彼の前にある薄い光の壁が鷹夜の魔法を弾いているようだ。

 だが鷹夜を睨みつける蒼真の表情は苦しそうに歪んでいる。
 ミルカの胸を一瞬で満たしたときめきはすぐに不安へと変わった。

「……もうそれほどしかないのか。今の力じゃ俺を止めることは出来ないな。蒼真、無駄な抵抗はよせ」
「嫌味だね。万全でも、無理……だって。ぐ……っ」
「ソウマ様!」
 
 弟を見つめる鷹夜は悲しそうな表情を浮かべているが、光は全く緩められない。
 まさか蒼真を手にかけるとは思えないけど、ここで魔力を解放しても良いのか躊躇してしまう。

 ミルカは強すぎる力を使い慣れていない。今まで実際に使うような場面なんかなかったからだ。
 精神の落ち着かない今、思うように制御できるかわからない。
 威圧するための魔力と、それを実際に攻撃手段として操るのはまた別の話だ。

 迷っているうちに、蒼真の「ごめん」と苦しげに呟いた声が聞こえ、ミルカを包む光も消えてしまった。
 抱き込む体から力が抜けて重みを感じる。
 それでも守るように回された腕は緩まない。

 苦しそうに息を荒げる姿にミルカの理性がぷつりと音を立てた。
 かき抱く腕に添えていた両手をタカヤに向けてまっすぐ伸ばす。煮えたぎる感情に目眩がしそうだ。
 胸が締め付けられるような怒りは僅かに声を震わせる。
 
「ソウマ様のお兄様だからと思って大人しくしてたけど……。許せない。ミルカ、こんなに誰かを憎いと思うの初めて」
 
 コントロールなんかしなくていい。こいつだけは許せない。
 瞳の濃さがぐんと増し、ゆらりとミルカの体から溢れ出す赤い光。
 部屋中を染める凶悪なほどの魔力に鷹夜は一歩あとずさる。
 
「ソウマ様になんてことするの? 今すぐ消えて」
「なんて圧だ……。化け物だな。それに勘違いするな、これも蒼真のためだ。捕らえて丁重に解除してやるつもりだったが、そうは言ってられないな。だが今のお前は俺に勝てない」
 
 確信したセリフにミルカは眉を顰める。だけど止める気はない。濃縮した魔力を放つ寸前、鷹夜の指が空をなぞった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...