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32.反転しちゃう?
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「悪魔に屈することがどれだけ不名誉なことかわかっているのか?!」
「そういうの鬱陶しいんだよね。俺はミルカがいればいいし、元々天使なんか向いてないんだよ。任務だって最低限のことやってるだけだしさ。兄さんと違って落ちこぼれだし」
「蒼真……」
そういえば以前、兄さんは優秀だと言っていたことをミルカはなんとなく思い出した。
だけど生まれた時から上級悪魔に囲まれた生活をしているミルカからすると、この兄の何がそこまで優秀なのかはわからない。
ただ二人の様子から深刻な雰囲気は感じ取れる。
さっきの口調から、もしかすると蒼真はコンプレックスのようなものを抱いてるのかもしれない。
くいっと蒼真の袖を引っ張り、気付いた瞳をミルカは下から覗き込んだ。
「ソウマ様はすごい人よ。だってミルカを使役できるんだもん。魔界の人からするとすごいことなんだけどな。ミルカね、反転なんかしたくないけど命令ならやっちゃおうかな♡」
ね? と楽観的に笑うミルカに「敵わないね」と呟いた蒼真の顔が緩む。
柔らかな表情を見せる弟とは反比例して、鷹夜からはピリピリとした空気が発せられたままだ。
「その淫魔に魅了されたか……。手遅れにならないうちに早く解除しろ。お前は天使で、そいつは悪魔だ。しっかり考えろ蒼真」
「もう手遅れだよ。たしかに魅了されてるよね。俺にとって天使とかそういうの、そんなに重要じゃないんだ。兄さんにはわからないだろうけど」
「そうか……。思っていたより重症だな。それならば俺も遠慮はしない」
鷹夜の声が無機質に響く。不穏な空気に蒼真がいち早く反応した。
「待っ……!」
鷹夜は静かに左手のひらを向ける。そこから発せられた不穏な光。
鎖のように見えるそれはミルカに向かって放たれる。だが反応するより先に、蒼真が庇うように抱き込んだ。
キンと何かがぶつかったような音が響く。空気が振動する感覚と同時に、ふわりと体中を柔らかな青の光が包み込む。
覚えのある力は魔法陣から伝わるものと同じ気配がした。
(これはソウマ様の力? え、嘘、守ってくれてるの? 王子様すぎるんだけどああん好き!)
守られている状況に感激したミルカは興奮気味に蒼真を見上げる。
どうやら彼の前にある薄い光の壁が鷹夜の魔法を弾いているようだ。
だが鷹夜を睨みつける蒼真の表情は苦しそうに歪んでいる。
ミルカの胸を一瞬で満たしたときめきはすぐに不安へと変わった。
「……もうそれほどしかないのか。今の力じゃ俺を止めることは出来ないな。蒼真、無駄な抵抗はよせ」
「嫌味だね。万全でも、無理……だって。ぐ……っ」
「ソウマ様!」
弟を見つめる鷹夜は悲しそうな表情を浮かべているが、光は全く緩められない。
まさか蒼真を手にかけるとは思えないけど、ここで魔力を解放しても良いのか躊躇してしまう。
ミルカは強すぎる力を使い慣れていない。今まで実際に使うような場面なんかなかったからだ。
精神の落ち着かない今、思うように制御できるかわからない。
威圧するための魔力と、それを実際に攻撃手段として操るのはまた別の話だ。
迷っているうちに、蒼真の「ごめん」と苦しげに呟いた声が聞こえ、ミルカを包む光も消えてしまった。
抱き込む体から力が抜けて重みを感じる。
それでも守るように回された腕は緩まない。
苦しそうに息を荒げる姿にミルカの理性がぷつりと音を立てた。
かき抱く腕に添えていた両手をタカヤに向けてまっすぐ伸ばす。煮えたぎる感情に目眩がしそうだ。
胸が締め付けられるような怒りは僅かに声を震わせる。
「ソウマ様のお兄様だからと思って大人しくしてたけど……。許せない。ミルカ、こんなに誰かを憎いと思うの初めて」
コントロールなんかしなくていい。こいつだけは許せない。
瞳の濃さがぐんと増し、ゆらりとミルカの体から溢れ出す赤い光。
部屋中を染める凶悪なほどの魔力に鷹夜は一歩あとずさる。
「ソウマ様になんてことするの? 今すぐ消えて」
「なんて圧だ……。化け物だな。それに勘違いするな、これも蒼真のためだ。捕らえて丁重に解除してやるつもりだったが、そうは言ってられないな。だが今のお前は俺に勝てない」
確信したセリフにミルカは眉を顰める。だけど止める気はない。濃縮した魔力を放つ寸前、鷹夜の指が空をなぞった。
「そういうの鬱陶しいんだよね。俺はミルカがいればいいし、元々天使なんか向いてないんだよ。任務だって最低限のことやってるだけだしさ。兄さんと違って落ちこぼれだし」
「蒼真……」
そういえば以前、兄さんは優秀だと言っていたことをミルカはなんとなく思い出した。
だけど生まれた時から上級悪魔に囲まれた生活をしているミルカからすると、この兄の何がそこまで優秀なのかはわからない。
ただ二人の様子から深刻な雰囲気は感じ取れる。
さっきの口調から、もしかすると蒼真はコンプレックスのようなものを抱いてるのかもしれない。
くいっと蒼真の袖を引っ張り、気付いた瞳をミルカは下から覗き込んだ。
「ソウマ様はすごい人よ。だってミルカを使役できるんだもん。魔界の人からするとすごいことなんだけどな。ミルカね、反転なんかしたくないけど命令ならやっちゃおうかな♡」
ね? と楽観的に笑うミルカに「敵わないね」と呟いた蒼真の顔が緩む。
柔らかな表情を見せる弟とは反比例して、鷹夜からはピリピリとした空気が発せられたままだ。
「その淫魔に魅了されたか……。手遅れにならないうちに早く解除しろ。お前は天使で、そいつは悪魔だ。しっかり考えろ蒼真」
「もう手遅れだよ。たしかに魅了されてるよね。俺にとって天使とかそういうの、そんなに重要じゃないんだ。兄さんにはわからないだろうけど」
「そうか……。思っていたより重症だな。それならば俺も遠慮はしない」
鷹夜の声が無機質に響く。不穏な空気に蒼真がいち早く反応した。
「待っ……!」
鷹夜は静かに左手のひらを向ける。そこから発せられた不穏な光。
鎖のように見えるそれはミルカに向かって放たれる。だが反応するより先に、蒼真が庇うように抱き込んだ。
キンと何かがぶつかったような音が響く。空気が振動する感覚と同時に、ふわりと体中を柔らかな青の光が包み込む。
覚えのある力は魔法陣から伝わるものと同じ気配がした。
(これはソウマ様の力? え、嘘、守ってくれてるの? 王子様すぎるんだけどああん好き!)
守られている状況に感激したミルカは興奮気味に蒼真を見上げる。
どうやら彼の前にある薄い光の壁が鷹夜の魔法を弾いているようだ。
だが鷹夜を睨みつける蒼真の表情は苦しそうに歪んでいる。
ミルカの胸を一瞬で満たしたときめきはすぐに不安へと変わった。
「……もうそれほどしかないのか。今の力じゃ俺を止めることは出来ないな。蒼真、無駄な抵抗はよせ」
「嫌味だね。万全でも、無理……だって。ぐ……っ」
「ソウマ様!」
弟を見つめる鷹夜は悲しそうな表情を浮かべているが、光は全く緩められない。
まさか蒼真を手にかけるとは思えないけど、ここで魔力を解放しても良いのか躊躇してしまう。
ミルカは強すぎる力を使い慣れていない。今まで実際に使うような場面なんかなかったからだ。
精神の落ち着かない今、思うように制御できるかわからない。
威圧するための魔力と、それを実際に攻撃手段として操るのはまた別の話だ。
迷っているうちに、蒼真の「ごめん」と苦しげに呟いた声が聞こえ、ミルカを包む光も消えてしまった。
抱き込む体から力が抜けて重みを感じる。
それでも守るように回された腕は緩まない。
苦しそうに息を荒げる姿にミルカの理性がぷつりと音を立てた。
かき抱く腕に添えていた両手をタカヤに向けてまっすぐ伸ばす。煮えたぎる感情に目眩がしそうだ。
胸が締め付けられるような怒りは僅かに声を震わせる。
「ソウマ様のお兄様だからと思って大人しくしてたけど……。許せない。ミルカ、こんなに誰かを憎いと思うの初めて」
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瞳の濃さがぐんと増し、ゆらりとミルカの体から溢れ出す赤い光。
部屋中を染める凶悪なほどの魔力に鷹夜は一歩あとずさる。
「ソウマ様になんてことするの? 今すぐ消えて」
「なんて圧だ……。化け物だな。それに勘違いするな、これも蒼真のためだ。捕らえて丁重に解除してやるつもりだったが、そうは言ってられないな。だが今のお前は俺に勝てない」
確信したセリフにミルカは眉を顰める。だけど止める気はない。濃縮した魔力を放つ寸前、鷹夜の指が空をなぞった。
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