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31.ミルカを信じて

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「そうなの? ミルカ、人の魔力とか理力とかあんまりわかんないけど……ソウマ様の精力は全然弱ってないわ。むしろいつもすごいし♡  あんなに翻弄されるのソウマ様が初めて♡」
 
 頬に手を当て、ほうっと悩ましげな息を吐くミルカに、鷹夜は盛大にむせだした。
 慣れっこの蒼真は特に気にしていないようだが、表情は相変わらず曇っている。
 
「せ、精力と理力は別物だ……。悪魔は違うのか?」
「ミルカは魔力を消費するとお腹空いちゃうし、同じかなぁ? そういうの考えたことなかったかも」
 
 そもそも魔力が尽きるなんてミルカにはあり得ない。
 魔界の有力者である両親のおかげか、身に宿る魔力は膨大な量だ。
 ほにゃっと首を傾げる緩い様子にタカヤはぐっとこめかみを押さえる。

呆れてものも言えないとは、きっとこういう状態を言うのだろう。
 しんとした空間で、蒼真がぽつりと口を開いた。
 
「でも契約は解きたくない……。使い魔である限り、俺の力はミルカに届くはずだから。もしかすると一年以上かかるかもだけど、理力の調子が戻ったら帰ってくるよ。それまで待っててくれる?」
 
 ミルカを伺う蒼真は珍しく気弱に笑う。いつも自信たっぷりに全部お見通しだって、そんな顔をしているのに。
 なんとなく切なくなって、掴んだ両手をぎゅっと握る。
 
「あったりまえです! 寂しいけどミルカ何年でも待つわ。すっごく寂しいけど! 」
「本当に? 契約を継続するってことは俺がいなくなっても他から精気を得ること出来ないんだよ? 魔法陣からの力は飢えない程度しかないんだ。わかってる?」

「疑うなんて酷いですぅ。ミルカがソウマ様のお願いを聞かないわけないのに。大丈夫! ミルカを信じて♡」
 
 堂々と胸を張るミルカを信じられないものでも見るような目で眺めた蒼真は、泣きそうに笑う。
 強く抱きしめられ、耳元で聞こえる「ありがとう」は嬉しくもあるけど、そこまで信用されていないことに少しの寂しさも覚えた。

 腕を解き、ミルカから兄へ視線を移した蒼真の目は強く、迷いはもう感じられない。
 
「一度契約してしまえば使役しない限り理力は削られない。だからなにも問題ないよね? 天界へは帰る。でも契約は解かない。それでいいだろ?」

 うんうん頷くミルカは「さすがソウマ様!」と小さく呟く。だが鷹夜は厳しい顔を崩さず首を振った。
 
「残念ながら答えはノーだ。お前をもう地上へは来させない。そうなれば二度とその悪魔とは会えないからな。主従の契約も必要ない」
「言うと思ったけど、横暴だね。俺が定期的に帰ればいいだけだろ。今回みたいにずっと帰らないでいるのはもうやめるよ。そのほうが早く済むし」

 隣で頷くミルカとしては鷹夜の反応が気に入らないが、予想していたらしい蒼真は冷静さを崩さなかった。

 絶対に離れない! という意志を示すためにしがみついた腕に、むぎゅっと頬を押し付ける。
 そんなミルカを鷹夜は白けた目で眺めるのみだった。

「ダメだ。俺が契約を解きたい理由はもう一つある。そいつは危険だ。術を反転し、逆にお前を使役する可能性があるからだ。おそらくその淫魔の魔力なら可能だろう」
「そんなことするわけないじゃない!」
 
 思ってもいなかった言葉に目を丸くしたミルカは咄嗟に叫んでしまった。そんなこと考えたこともないし、この先やろうとも思わない。
 思わず立ち上がったミルカを鷹夜は相変わらず冷えた視線で眺める。

「ミルカはソウマ様に命令されたいの。ソウマ様の言うことなら何でも聞いちゃうんだから! むしろたくさん命令してほしいの♡ あんなこととか、こんなこととか♡」

 妄想だけでトロンと瞳にハートを浮かべ、よだれを垂らしそうなミルカに鷹夜はドン引きである。

「これだから淫魔は……」などと呟いていたが、ふっと笑った蒼真に視線を移し、怪訝な顔をする。
 
「使役、か……それも良いかも。俺はミルカになら反転されてもいいよ。そしたらこんな悩みから解放されるし」
「馬鹿なことを言うな!」

 被せるように発せられた大声にミルカは耳を塞ぐ。
 不満を伝えるように蒼真を見上げれば、彼は静かな表情をしていた。
 感情が読み取れないこの顔を見るのは久しぶりな気がする。
 
「何? 兄さん声でかい」
「そんなことになったら二度と天界には戻れない。それでもいいのか?」

「いいよ、堕天ってやつでしょ? 理力……堕天したら魔力になるのかな? どっちでもいいけどそれならミルカから供給して貰えるし、便利じゃん。うん、そうしよっかな」

 蒼真はやたらと落ち着いている。軽い口調も余裕を感じさせる笑みもいつも通りだ。
 だけど鷹夜の顔は更に険しく変化して、二人のやり取りを見ているミルカの気は落ち着かない。
 
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