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27.兄と蒼真(side蒼真)
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「前に彼女さんと会った時、蒼真危ない雰囲気だったからすぐゲーセンに連れてったけどさ。あれからずっとだろ? そんなに合わないなら続かないんじゃね?」
「んー……、そうなるわな……」
ミルカと幼馴染の親密な姿にイラついたあの日、蓮が颯爽とあの場から離れたことに理由があったのは驚いた。
色恋沙汰に興味がないような顔をして、彼はわりとそういうことに聡いらしい。
可愛い年上の彼女とは上手くやってるようだし、なかなか侮れない奴だ。
そんな彼のアドバイスは決してその場凌ぎの言葉ではないだろう。
そもそも後先考えない快楽主義の悪魔なんか嫌いだったし、蒼真は彼らを取り締まるべき立場である。
全てを罰するわけではないけど、この世には秩序というものが必要だからだ。
元々相容れない種族であるミルカとの関係は無理に続けるべきものではない。なのにその選択は取れないでいる。
黙ってしまった蒼真をどう思ったのか、蓮は「さっきのは極論だけど」と付け足した。
「話聞いてる限り、めっちゃ相性よさげだし」
「でしょー? 俺もそう思う」
「なら素直に話してみれば? 意地張ってると長引くよ」
「……なんか重みがあるね」
「経験者だから」
そう言って笑う蓮は本来ならずっと年下の存在なのに、自分より遥か大人に見える。
余裕を感じさせるだなんて、そんなもの虚飾だ。実際はこんなにも余裕がない。
憂鬱な気持ちで挑んだ次のステージはあっさりゲームオーバーになってしまった。
***
午後の授業も心あらずだった。蒼真はぼんやりと窓の外を眺める。
寒々とした灰色の曇り空は心を映すようだ。
くじで引き当てたこの席からは校門が見える。そこに初めてミルカの姿を見つけた蒼真はつい身を乗り出して、教師に注意されたことを思い出す。
まさか学校を突き止められるとは思わなかった。しかもたったの三日間で。
堂々と待ち伏せするミルカを避けることも可能だったが、恐るべき行動力と探知能力に感心を覚え、声をかけることを選択した。
蒼真を見つけたミルカは感激で泣きながら飛びついてきて、そこからは毎日待ち伏せする彼女の「使い魔にして」攻撃を軽く躱す日々だった。
ミルカにとって使い魔とは生涯を共にする唯一無二の絆らしい。そんな捉え方をする人物は初めてだ。
開口一番「ソウマ様♡」と叫んだミルカにより、校内で色んな噂も飛び交ったものだが。
出会ってからのミルカは引くほど一途で過激で、驚くほどポジティブで。実は毎日のやり取りが楽しみでもあった。
過去は過去。ミルカに言った言葉は自分へ向けたものだったりする。
一番に会いたかったなんて、そんなことを思うのは蒼真だって同じだ。
許せないのならばミルカとの契約を切ってしまえばいい。
なのに解除できないことが答えになっている。
何でも後回しにするほど厄介になるのは、それなりに長い人生の中で経験済みだ。蓮に言われずとも早いところ謝罪すべきだろう。
とりあえず不安材料である魔法陣を作動させないよう、冷静に挑まなければ。
幸い明日は祝日だし、一度家に戻ってからミルカの好きなチョコでも手土産にしようと腹を決めたのに。計画通りに行かないのもまたいつものことだった。
「兄さん……なんでいるの」
部屋の前で蒼真を迎えたのは小柄な悪魔ではなく、背の高い兄、鷹夜の姿。
オートロックは天使や悪魔に無効らしい。最近になってそんなことを気付かされてしまった。
ため息と共に髪をかき上げる蒼真に対し、鷹夜は嬉しそうに笑う。
こんな兄だが愛妻家でもある。蒼真がこちらへ来てすぐに結婚した義姉は朗らかで少し変わっているが、優しい人だ。
蒼真と鷹夜、義姉とその姉は昔からの幼馴染で、特に上の姉には昔から人として憧れを抱いている。
昔から優秀な兄と比べられることが蒼真のコンプレックスだった。
何をするにも周りを伺い、結果に落ち込む。そんな幼少期を過ごしてきた。
なのに、こんなに適当に生きてていいんだ、と身をもって教えてくれる彼女はある意味人生の師だ。
「んー……、そうなるわな……」
ミルカと幼馴染の親密な姿にイラついたあの日、蓮が颯爽とあの場から離れたことに理由があったのは驚いた。
色恋沙汰に興味がないような顔をして、彼はわりとそういうことに聡いらしい。
可愛い年上の彼女とは上手くやってるようだし、なかなか侮れない奴だ。
そんな彼のアドバイスは決してその場凌ぎの言葉ではないだろう。
そもそも後先考えない快楽主義の悪魔なんか嫌いだったし、蒼真は彼らを取り締まるべき立場である。
全てを罰するわけではないけど、この世には秩序というものが必要だからだ。
元々相容れない種族であるミルカとの関係は無理に続けるべきものではない。なのにその選択は取れないでいる。
黙ってしまった蒼真をどう思ったのか、蓮は「さっきのは極論だけど」と付け足した。
「話聞いてる限り、めっちゃ相性よさげだし」
「でしょー? 俺もそう思う」
「なら素直に話してみれば? 意地張ってると長引くよ」
「……なんか重みがあるね」
「経験者だから」
そう言って笑う蓮は本来ならずっと年下の存在なのに、自分より遥か大人に見える。
余裕を感じさせるだなんて、そんなもの虚飾だ。実際はこんなにも余裕がない。
憂鬱な気持ちで挑んだ次のステージはあっさりゲームオーバーになってしまった。
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午後の授業も心あらずだった。蒼真はぼんやりと窓の外を眺める。
寒々とした灰色の曇り空は心を映すようだ。
くじで引き当てたこの席からは校門が見える。そこに初めてミルカの姿を見つけた蒼真はつい身を乗り出して、教師に注意されたことを思い出す。
まさか学校を突き止められるとは思わなかった。しかもたったの三日間で。
堂々と待ち伏せするミルカを避けることも可能だったが、恐るべき行動力と探知能力に感心を覚え、声をかけることを選択した。
蒼真を見つけたミルカは感激で泣きながら飛びついてきて、そこからは毎日待ち伏せする彼女の「使い魔にして」攻撃を軽く躱す日々だった。
ミルカにとって使い魔とは生涯を共にする唯一無二の絆らしい。そんな捉え方をする人物は初めてだ。
開口一番「ソウマ様♡」と叫んだミルカにより、校内で色んな噂も飛び交ったものだが。
出会ってからのミルカは引くほど一途で過激で、驚くほどポジティブで。実は毎日のやり取りが楽しみでもあった。
過去は過去。ミルカに言った言葉は自分へ向けたものだったりする。
一番に会いたかったなんて、そんなことを思うのは蒼真だって同じだ。
許せないのならばミルカとの契約を切ってしまえばいい。
なのに解除できないことが答えになっている。
何でも後回しにするほど厄介になるのは、それなりに長い人生の中で経験済みだ。蓮に言われずとも早いところ謝罪すべきだろう。
とりあえず不安材料である魔法陣を作動させないよう、冷静に挑まなければ。
幸い明日は祝日だし、一度家に戻ってからミルカの好きなチョコでも手土産にしようと腹を決めたのに。計画通りに行かないのもまたいつものことだった。
「兄さん……なんでいるの」
部屋の前で蒼真を迎えたのは小柄な悪魔ではなく、背の高い兄、鷹夜の姿。
オートロックは天使や悪魔に無効らしい。最近になってそんなことを気付かされてしまった。
ため息と共に髪をかき上げる蒼真に対し、鷹夜は嬉しそうに笑う。
こんな兄だが愛妻家でもある。蒼真がこちらへ来てすぐに結婚した義姉は朗らかで少し変わっているが、優しい人だ。
蒼真と鷹夜、義姉とその姉は昔からの幼馴染で、特に上の姉には昔から人として憧れを抱いている。
昔から優秀な兄と比べられることが蒼真のコンプレックスだった。
何をするにも周りを伺い、結果に落ち込む。そんな幼少期を過ごしてきた。
なのに、こんなに適当に生きてていいんだ、と身をもって教えてくれる彼女はある意味人生の師だ。
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