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26.蒼真と蓮②(side蒼真)

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 会いに来るなと言ったものの、あのミルカがこれだけ連絡をしてこないのは初めてだ。
 思わず重くなった気分を切り替えるよう、無理にでもゲームに集中することにした。

 トップ画面からイベントへと進み、属性を考えながらパーティを組む。
 蒼真と同じく、画面を見たままの蓮がぽつりと話し出した。

「で、何があったんだよ」
「んー?」
「ストーカーのお姉さん、改め彼女さんと」
「あーね、呼び方……」

「あの人、毎日来てたもんな。誰に告られてもスルーしてた蒼真が、まさかストーカーと付き合うとは思わなかった。まあ、可愛いけどさ」
 
 冷静な蓮に思わず苦笑する。
 確かにモテるけども老若男女問わず人間に好感を持たれるように振る舞っているのだから、当たり前の結果だと思っている。幸いにも顔がいいのは自覚済みだが。

 もちろん手を出して面倒ごとにはなりたくないので、好意はありがたくお断りしていた。
 天使と人間では寿命も違うし、正体を明かすわけにもいかない。

 それ以上に悪魔なんて論外だ。なのにほんの悪戯心で手を出してしまった。まさか付き纏われることになるとは思っていなかったけど。
 
「俺さぁ、めっちゃ一途なの」
「良いことじゃん」

「でしょ? でもクッソ重いんだよね。自分でも異常だと思うし。でさ、そういうのバレたくないじゃん? だから隠して付き合うんだけど、いっつも変に距離が出来るんだよね。でもミルカだったらそういうの全部受け止めてくれるかなーとか……、なんかそう思っちゃって。で、気付いたら好きになってた」

 今まで蓮に、というより誰にもこんな話はしたことがなかった。
 だけど心のモヤモヤが驚くほどするすると出てくる。どうやら抱え込むのも限界らしい。
 蓮は変わらず冷静な顔でスマホの画面を見ながら相槌を打つ。その適当さが今はありがたかった。
 
「ふーん……、ミルカさんて言うんだ。あの人、蒼真の塩対応にめげたことないもんな。あれは俺なら心折れるわ。マジで強メンタル」
「そ、めげないんだよね。可愛いでしょ。ド執着の塊だし、従順だし、素直だし、えっろいし。なんでも言うこと聞いちゃうんだよね。俺のためなら犯罪でもサクッとしそうなとこが好き」 
 
 そう惚気た途端、指が滑ったらしい蓮の操作が大きくミスった。
 攻撃を受けた蓮のキャラに慌てて回復アイテムを使用し、ボスに属性ダメージを与える。クエストクリアの文字を見た蒼真はふうっと息をついた。
 
「れーん、何やってんの。俺に感謝しなよー。……ん? どうかした?」
「どうって……、引いてる。お前そんな趣味してたんだ……」

 心なしか物理的な距離も開いた気がする。どんな趣味だと思われたのかはわからないが、異常な執着には自覚がある。わざとらしく人差し指をくちびるに当て、蒼真はにっこり微笑んだ。
 
「んー、内緒にしといてね。優しくて爽やかな俺のイメージが崩れるから」
「どうでもいいけど……。元気ないから愚痴聞いてやろうと思ったけど惚気じゃん。なんで喧嘩してんの?」

 わざわざ探しに来たのは蓮なりの気遣いだったらしい。クエストの手伝いは口実ではなさそうだが。
 うーんと唸った蒼真は再び机に突っ伏した。
 
「喧嘩というか……蓮はさ、彼女の過去とか気にならん? 元カレとか」
「俺んとこはお互い初めてだから」

「なにそれ初々しい。俺の彼女さー、色々あったのは承知の上だったんだけど、実際その相手を知るとやっぱダメって言うか……我慢ならんと言うか……。いや、ほんとは過去全部許せないんだけど……」

 こうやって口にするとあまりにも稚拙な嫉妬だと思い知る。過去に相手がいるくらい、ごく普通のことなのに。

 顔も存在も知らない相手にすら嫉妬してしまう身としては、ああやって親しい姿を見てしまうとどうにもダメだった。
 語尾につれて声は小さくなったが蓮には聞こえていたらしい。
 
「なんとなくわかるけど、彼女さん年上だし仕方なくね?」
「まー、そうなんだけど……。価値観の違いって、思ってたよりしんどい」
 
 まさに蓮の言う通りだが、蒼真にとってのセックスは特別な行為であって、ミルカにとってはただの食事。
 今は契約で縛り付けているけど、それがなければきっと彼女は本能に抗えない。

 そんなことわかっているはずなのに納得できない青さは、学生としてあまりにも長く過ごしているせいだろうか。
 ため息をついた蒼真に蓮が憐れむような視線をよこした。
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