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25.蒼真と蓮(side蒼真)

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――やってしまった。

 空き教室で一人、蒼真は何度目かのため息をつく。
 あれから罪悪感で自己嫌悪に陥る日々を過ごしている。

 いつもなら適当に話をしたり友人とゲームをして過ごす昼休みだが、どうにも気が乗らない。
 ここのところ空をぼんやり眺めるばかりだったりする。

 暖かい季節なら屋上に行きたいところだが、あいにく今の時期に屋外へは出たくない。
 ちなみにここの鍵はこっそり拝借したものだ。
 
 ミルカを眠らせるために発動した魔法のおかげで、ただでさえ不足気味な理力を更に消費してしまった。おかげでひとつ石を無駄にしたのも情けなくて、いっそ笑えてくる。

 理力不足は天界へ戻れば解決する問題だが、出来ればそれはしたくない。あんなところに悪魔であるミルカを連れて行きたくないからだ。

 なのにこのままでは少し前に兄から言われた通り、帰らないといけない日が来るのかもしれない。
 あの兄のことだ、今戻ればおそらく地上へは帰してもらえないだろう。全てのタイミングが悪すぎる。
 
 それにカフェで偶然ミルカを見つけた時を思い出すたび、心は昏く濁った。
 彼女は基本的に人間も天使も見下していて、無防備な笑顔を見せるのは蒼真の前だけったりする。

 なのにあの日のミルカは無邪気に笑っていた。それだけでも驚いたのに、一緒にいる男との親密な距離は蒼真の感情を凍りつかせるには十分だった。

 しかも甘い声と蕩ける顔で、あいつにも何度も抱かれたであろう姿を想像すると気が狂いそうになる。
 
 でもミルカは淫魔だ。そもそも蒼真だって過去に何もなかったわけじゃない。
 謝るべきだと思っていても、次に会えば冗談ではなく本当に監禁……もしくは魔法陣を発動させてしまいそうだ。
 どこまでも自分勝手な思考に嫌気がさす。これでは悪魔と変わりない。

「最っ低だよなぁ……」
「何が?」

 完全に独り言のつもりだったのに、背後から返ってきた相槌にびくりと肩が跳ねる。
 顔だけを声の方向に動かせば、同じクラスの友人が蒼真に近づいてきた。

 早瀬 蓮。
 目立つほうではないが、真面目で顔立ちの整った彼は蒼真とは違う層に人気がある。
 だが本人は同級生にこれといって興味はなかったようで、夏休みの間に幼馴染と付き合うことになったと報告を受けた時には目を丸くしたものだ。

 ゲーム好きの蓮とは話が合い、一年の頃から何かと一緒に過ごすことが多い。
 天界からこちらへ来て、蒼真が一番はじめに興味を持ったのはゲームだった。情報としては知っていたが、こんなものを作り出すなんて人間はすごいな、なんて感心しているうちにいつの間にか趣味となっている。

「さすが蓮。見つかっちゃった」
「よくこんな場所見つけたな。こっちに行ったって聞いたから来てみたんだけど。これさ、最近ログインしてなくね?」
 
 教室を見回しながら隣に座った蓮が見せた画面には、毎日起動していたアクションRPGが表示されている。
 そういえば今日から大型イベントが開始されているはずだ。以前なら必ずログインしていたのに、すっかり忘れていた。
 
「んー、そんな気分じゃなくてねー」
「ふーん、珍しいな。彼女さんとなにかあった?」
「ま、そんなとこ」

 机に突っ伏した蒼真が隣を見ると、蓮は驚いたように目を開いている。
 
「何?」
「まさか本当にそうとは思わなかった。お前でもそんなことで悩むんだな」
「えー、どういう意味よ」

「蒼真、いつも余裕な感じあるからさ。俺たちとは違うっていうか……、なんか達観してるというか。本当に同じ歳かなってたまに思う」
「え、俺そんなふうに見えてんの?」

 普通の高校生として振る舞っていたつもりの蒼真としては、若干のショックを受けた。

 なるべく不自然な行動を避けるべき立場としては気をつけたほうが良いのかもしれない。
 うーんと眉を寄せる蒼真を眺めた蓮はスマホの画面をタップする。

「別に悪いことじゃないだろ。チャラいし余裕あるとこが良いって女子が言ってた」
「なら良かった」
「チャラいって喜ぶところなんだ……」
「悪くはないでしょ」

 へらっと笑う蒼真に呆れた顔を向けた蓮はすぐに画面に視線を戻した。
 軽くて話しやすい雰囲気のほうが情報収集するにも都合が良い。
 作り笑顔は元々得意だし、それが長年の生活で得たスタイルだ。
 
「蒼真がいいならいいけど。とりあえずクエスト手伝ってよ」
「んー、仕方ないなぁ。どこからいく? どれでもいいよ。多分余裕だし」
「蒼真、無駄にレベル高いからな」
「無駄ゆーな」

 机の上に放り出したままだったスマホを手に取る。相変わらずミルカからの新着メッセージはない。

 
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