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24.変えられない過去
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「俺のほうが確実にいい男だし。なあ、天使のガキなんか相手にしてないで俺にしよ。そっちのがミルカにとっても都合いいだろ」
そんなことを言うナツに半ば呆れてしまった。
ミルカにとっても彼は大切な存在だが、蒼真への感情とは全く違う。
先日から急に湧いたナツの執着は、友人を取られるのが嫌だという類のヤキモチにしか感じ取れない。
それならばミルカにもわかる。もう随分と昔、ナツが先にこちらへ来た時は少し拗ねてしまったからだ。
「また言ってるの? ナツのそれは恋じゃないと思うんだけど……」
「恋とか、恋じゃないとか、それってそんなに大事? 俺はミルカを泣かせる奴は許せないし、あんな生意気な子どもに独占させたくない。淫魔にとって精気は食事だろ。なのに殺すとか、頭おかしいよあいつ」
ナツの言葉は当たり前で、何も間違ってない。精気は食事。でもそんな当たり前のことが今のミルカには我慢できなかった。
泣きそうに歪む蒼真の顔が忘れられない。
感情は一瞬で昂って、じんと瞼が熱い。すぐに視界は揺らめいて、心を冷やす雫がほろりと頬を伝って落ちた。
「だって……ソウマ様はミルカが好きなの、大好きなの。何もおかしくないよ。だからあんなに怒ったの。そうでしょ? ミルカのこと、嫌いになったんじゃないよね……?」
「なんのこと?」
「ごめんね、ミルカにもよくわかんない。淫魔になんか生まれなきゃよかった……。ソウマ様と同じ天使なら良かったのかなぁ……」
ぐすぐす泣くミルカの向きを変えさせたナツは、ぐいと溢れる涙を雑に拭う。
いつもスマートな彼のらしくない仕草になんとなく顔を見上げれば、見たこともないような不快な顔をしていた。
「なんだよそれ。あいつが言ったのか? あのガキ、ミルカが淫魔だって知ってて手を出したんだろ?」
「それは、そうだけど……。手を出したというか……」
そう望んだのは自分だ。しょんぼり俯くミルカを再び抱き寄せたナツはため息をついた。
そのやるせない雰囲気は押しのける選択肢をミルカから奪ってしまう。
不意に触れられた首元にピリッと痛みを感じ、思わず身をすくめる。
肩先まで辿ったナツの指を目で追えば、蒼真が付けた噛み跡が目に入った。
「痛そ……。こんなに主張しまくって、許せねぇんだけど。何がしたいんだ天使様は。マジでやめとこ? 天使なんかロクでもないって」
「無理だよ……、だって出会っちゃったんだもん。やめられるわけないよ」
「ミルカほんと馬鹿過ぎ。あー、目を離すんじゃなかった……」
ポンポン背中を叩くナツの呆れが伝わってくる。
彼の心配は友人として嬉しい。でも一瞬で奪われた心はどうにもできない。
それに独占欲の強い蒼真がミルカの過去を許せない気持ちは、なんとなく理解できると同時に嬉しくもあった。
だけどそれを解決出来るとは思えない。
淫魔として生きていたミルカにとって精を得ることはあくまで栄養補給でしかない。ナツとの関係はお互い狩りを面倒だと思う時に与え合う、そんな軽いものだったのに。
まさか今になって後悔するなんて思いもしなかった。
過去のことは変えられない。そんなどうしようもないことを改めて思い知ってしまった。
そんなことを言うナツに半ば呆れてしまった。
ミルカにとっても彼は大切な存在だが、蒼真への感情とは全く違う。
先日から急に湧いたナツの執着は、友人を取られるのが嫌だという類のヤキモチにしか感じ取れない。
それならばミルカにもわかる。もう随分と昔、ナツが先にこちらへ来た時は少し拗ねてしまったからだ。
「また言ってるの? ナツのそれは恋じゃないと思うんだけど……」
「恋とか、恋じゃないとか、それってそんなに大事? 俺はミルカを泣かせる奴は許せないし、あんな生意気な子どもに独占させたくない。淫魔にとって精気は食事だろ。なのに殺すとか、頭おかしいよあいつ」
ナツの言葉は当たり前で、何も間違ってない。精気は食事。でもそんな当たり前のことが今のミルカには我慢できなかった。
泣きそうに歪む蒼真の顔が忘れられない。
感情は一瞬で昂って、じんと瞼が熱い。すぐに視界は揺らめいて、心を冷やす雫がほろりと頬を伝って落ちた。
「だって……ソウマ様はミルカが好きなの、大好きなの。何もおかしくないよ。だからあんなに怒ったの。そうでしょ? ミルカのこと、嫌いになったんじゃないよね……?」
「なんのこと?」
「ごめんね、ミルカにもよくわかんない。淫魔になんか生まれなきゃよかった……。ソウマ様と同じ天使なら良かったのかなぁ……」
ぐすぐす泣くミルカの向きを変えさせたナツは、ぐいと溢れる涙を雑に拭う。
いつもスマートな彼のらしくない仕草になんとなく顔を見上げれば、見たこともないような不快な顔をしていた。
「なんだよそれ。あいつが言ったのか? あのガキ、ミルカが淫魔だって知ってて手を出したんだろ?」
「それは、そうだけど……。手を出したというか……」
そう望んだのは自分だ。しょんぼり俯くミルカを再び抱き寄せたナツはため息をついた。
そのやるせない雰囲気は押しのける選択肢をミルカから奪ってしまう。
不意に触れられた首元にピリッと痛みを感じ、思わず身をすくめる。
肩先まで辿ったナツの指を目で追えば、蒼真が付けた噛み跡が目に入った。
「痛そ……。こんなに主張しまくって、許せねぇんだけど。何がしたいんだ天使様は。マジでやめとこ? 天使なんかロクでもないって」
「無理だよ……、だって出会っちゃったんだもん。やめられるわけないよ」
「ミルカほんと馬鹿過ぎ。あー、目を離すんじゃなかった……」
ポンポン背中を叩くナツの呆れが伝わってくる。
彼の心配は友人として嬉しい。でも一瞬で奪われた心はどうにもできない。
それに独占欲の強い蒼真がミルカの過去を許せない気持ちは、なんとなく理解できると同時に嬉しくもあった。
だけどそれを解決出来るとは思えない。
淫魔として生きていたミルカにとって精を得ることはあくまで栄養補給でしかない。ナツとの関係はお互い狩りを面倒だと思う時に与え合う、そんな軽いものだったのに。
まさか今になって後悔するなんて思いもしなかった。
過去のことは変えられない。そんなどうしようもないことを改めて思い知ってしまった。
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