上 下
20 / 54

20.★仲良さそうだったけど

しおりを挟む
 ごく自然に肩を抱かれ、距離が縮まる。
 あまりにも流れるような動作に抵抗をする間もなかった。だけどくちびるが触れ合う寸前にミルカは手のひらで静止をかける。
 
「あっぶない! 浮気したらミルカ死んじゃうから! ソウマ様とそういう契約してるの。危うく罰を受けるところだったじゃない! ミルカはソウマ様を裏切らないの!」

「死……? なにそれ、こっわ……。キスだけで死ぬとか、悪魔より怖いわ」
「やっばいよね! さすがソウマ様♡ 愛されてる感じがして滾っちゃう♡ それにミルカだってソウマ様が他の子とキスしたら許せないもん。てゆーか絶対に処す」

 契約解除されるより命を捧げるほうがずっといい。そしたらきっと蒼真は一生ミルカを忘れられなくなる。

 にまにま笑うミルカに若干引きながらナツは近づいていた体を離した。カウンターに頬杖を突いたその顔はどう見ても呆れている。
 
「相変わらずポジティブが過ぎる。俺には理解出来ないけど……ミルカがいなくなるのは嫌だから、殺されないようにしろよ。後で会うの大丈夫か? 一緒にいてやろうか?」
「ナツってば心配症なんだから。大丈夫だってば、むしろ邪魔しないで。じゃあミルカはもう帰るね。ソウマ様が来る前に片付けないと」

 スッと席を立つミルカの腕をナツが掴む。珍しく真剣な目に、ミルカはきょとんと大きな瞳を向けた。
 
「何かあったら俺を呼べ。絶対に行くから」
「うん……? わかった」

 よくわからないけど、心配してくれていることは伝わってくる。浮かない顔をしたナツは少し気になるけど、ミルカの第一優先は蒼真だ。
 手を振り、店を後にしたミルカは急いで家へと足を早めた。
 



 先日と同じく、蒼真は友人とご飯を食べてくるとのことだった。
 連絡があった時間はもうすぐで、ミルカはソワソワと時計を何度も確認している。

 お気に入りの猫耳パーカーワンピのルームウェアも、結わず丁寧に梳かした髪も、それに湯上がりメイクだって準備は万端だ。
 いつだって蒼真に会う時は最高に可愛くしていたいミルカは何度も鏡で確認する。

 蒼真は独占欲が強い。それは身をもって知っているし、彼自身もそう言っていた。ナツのことを聞かれることは間違いないだろう。

 でもナツはただの幼馴染だ。そこに恋愛感情はない。蒼真と契約を結んでからは、やましいことなど一つもない。
 淫魔の体質は蒼真も知っているし大丈夫。
 説明すればきっとわかってもらえる。あとはいつも通りイチャイチャ過ごしたい。

 だって今日も朝まで一緒にいられるはず。楽観的なミルカは暗い考えを振り切り、楽しい想像に努めることにした。
 そうしないと嫌な予感に押しつぶされてしまいそうだったから。


***
 

「おかえりなさい、ソウマ様♡」
 
 満面の笑みで迎えたミルカを見て少し驚いた顔をした蒼真に抱きつき、キスをせがむ。

 少し間はあったものの、抵抗も拒否もせず彼はいつも通り応えてくれる。
 何度か啄んでいるうちに軽いキスは次第に深いものへと変わっていった。

 ミルカの部屋の玄関は広い。
 なのに華奢な体は追い詰められ、背後の壁に押し付けられている。
 彼の長い指が腕を辿り、両手を壁に縫い付けられた。その力は強く、少し痛みを伴う。

 恍惚の吐息を漏らしたミルカを見下ろす瞳はカフェで見た時と同じ、凍てつくような月色をしている。
 夢中で口づけを交わしていたミルカは、思っていた以上の苛立ちを含む視線にびくりと体を強張らせた。
 
「さっきの悪魔、すごく仲良さそうだったけど……本当にただの幼馴染?」
 
 冷たい眼差しと、いつもより低い不機嫌な声。怯むミルカはこくこく頷く。
 
「そ、そうなの……。ナツとは子どもの頃からずっと仲良くて、兄妹みたいな感じで……」
「んー、俺が聞きたいのはそういうのじゃなくて……。ミルカの力を封じてた間、悪魔から精気を貰ってたって言ってたよね。それって、あいつ?」
「あ……」

 蒼真に知られたくなかったこと。それを言い当てられて血の気がざあっと引いた。
 そういえば初めて抱かれたあの日、蒼真のマンション前で「幼馴染」と口を滑らせたことを思い出す。

 あれは蒼真と契約を結ぶ前の話だ。契約違反にはならないし、ナツに異性として特別な感情があるわけではない。
 なにもやましいことはないはず。だけど蒼真の冷たい視線に、とてつもない罪悪感を感じてしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...