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17.幼馴染

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 「あぁん♡  最高だった……♡」
 
 カフェのカウンター席で小さくひとりごちるミルカは溶けて落ちそうな頬を両手で押さえている。

 何度も抱かれては余韻を楽しんでるうちに眠り、目覚めは彼の腕の中。
 料理を作れば褒めてもらえるし、べたべたとくっついては蒼真を眺めるという、大変に幸せな二日間を過ごした。

 休みの日は共にいることが多いけど、それでもいつもよりずっと優しかった気がする。
 
 ただひとつ、ふと見せる蒼真の様子が引っ掛かる。なにかを耐えるような、やるせないような。
 そんな根拠のない疑問は、やっぱり何度聞いてもはぐらかされてしまったのだけど。

 蒼真は契約を交わしたあるじで、彼の言うことは絶対だ。
 使い魔である自分が対等に扱ってもらえることが奇跡なんだし、深く考えてはいけない。
 一昨日から何度も自分に言い聞かせている言葉をミルカは再び心の中で繰り返す。
 
 それでも何となく感じる寂しさは否定できない。さっきまで蕩けそうだった心は少し陰ってしまった。

 らしくないわ……なんて自己分析をしながら、思わず溢れそうなため息を手元にある甘い飲み物で押し込んだ。
 楽しみにしてた限定ドリンクは思っていたほど美味しく感じない。

 店内は盛況。友人との会話を楽しんでいたり、スマホを眺めたり、PCを開いたり、様々な人で溢れかえっている。

 雑多な環境をしばらくぼんやり眺めていたミルカの意識を、昔から馴染んだ声が現実へと引き戻した。

「ミルカ?」

 突然聞こえた声に顔を上げれば、見慣れた顔がある。少し長めの前髪から覗く人懐っこい笑顔。
 艶やかな黒髪の彼は幼馴染みだ。
 
「ナツ……。久しぶり」
 
 焦茶の瞳は本来ならば血のような赤い色をしている。
 背も高く均整の取れた体に、垂れ目がちな色香を含む顔立ち。

 ミルカと同じ淫魔である彼とは子どもの頃からずっと気が合って、こちらに来てからも遊んだり共に過ごすことが多かった。
 そういえば蒼真に出会ってからは同族の誰とも会っていないことを今更思い出す。

「うん、久しぶり。気配が違うから別人かと思ったけど、やっぱミルカだった。三か月ぶりくらい? 元気そうじゃん」
「ナツも元気そうね。って……気配?」
「うん、なんか……。いや、気のせいだな。ミルカに限ってそんなことないだろうし」

 隣に腰掛けた彼は親しげな笑顔のまま、頬杖をついた。
 ただそこにいるだけなのに、まるで映画のワンシーンのように見える容姿は同族とはいえさすがだと思う。

 黙っていれば近寄りがたく見えるけど、ミルカの前ではいつもにこやかだ。コミュニケーション能力の高いナツは人の秘密を聞き出すのが上手い。

 気配が違うとは、もしかすると使い魔になったせいかもしれない。実はまだ魔界の両親にも打ち明けていなかったりする。何も後ろめたいことはないけど、過保護な両親はなにかと面倒なことになりそうだからだ。
 
 昔からナツには何でも話してきたし、信頼している友人だ。彼になら打ち明けても良いだろう。むしろ盛大に惚気られる相手が欲しい。

 ずいと顔を寄せたミルカは上目遣いで可愛らしく、焦茶の瞳を覗き込んだ。
 昔からこうやってお願いすると優しいナツは何でも聞いてくれる。
 内緒話するような近い距離も幼い頃から変わらない。
 
「あのね、聞いて欲しいんだけどぉ」
「なになに?」
 
 いつもの調子で話し出すミルカにナツも軽い相槌を打つ。
 
「えへへ。実はね、ミルカ……彼氏が出来ちゃいました♡」
「は?」

「すっごく格好良くてね、優しくて、でもちょっと意地悪で、エッチも最高なの♡  それにいい匂いがするし。あ、これはミルカがそう思うだけかもしれないけどぉ。だってソウマ様香水つけないし、むしろ他の女がそんなこと言い出したら軽く処しちゃおうかなとか思っちゃうし♡」

「ちょ……、ミル……」
「あとね、声もすごく好きなの! 名前を呼ばれるだけできゅーんてなっちゃうなんて初めてなの♡ 爽やかに見せかけて実は冷たい目も良いし、意外に強引なとこも好きだし、何もかも完璧すぎて、ああんもうどうしよう!」
「ミルカ! ストップ!」

 頬を両手で包んで体をくねらすミルカの両肩をナツの大きな手が掴む。
 まだまだ言い足りないミルカとしては水を差されたようで、思わず拗ねた声が出てしまった。
 
「なによもう、惚気くらい聞いてよぉ」
「いや、情報量が多すぎるし意味わかんないし。彼氏って何? いつの間に? 誰だよ、俺の知ってるやつ?」

「ううん、ナツは会ったことないよ。あのね、実は彼、天使なの♡ 運命的な出会いってやつ? それでね……」
「は?」

 
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