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13.☆元カノ気になる?

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「兄さんなら強制的に契約を解除できる。悔しいけど俺じゃ敵わないんだ。特に今はね。絶対に守ってみせるって言えると格好いいんだけど」

 情けないよね、と自嘲の笑みを漏らす蒼真にミルカはぷるぷる首を振る。
 今は、という言葉が妙に引っ掛かった。

 最近の蒼真は疲れているように見えるから。天使の仕事である浄化はミルカが思うより大変みたいだ。労りの意味を込めて、いい子いい子と艶やかな髪を撫でる。
 
「ソウマ様はいつでも世界一格好いいですぅ♡ それにミルカ強いから大丈夫」
「たしかにミルカの魔力やたらと高いけどさ、天使に魅了は効かないし、簡単に俺に封印されたじゃん」

「あれは油断したし……、逃げることも出来たのよ? でもソウマ様に封印されることは運命だったの♡ だってあれがきっかけだったんだもん♡」

 出会った日を思い出し、嬉しそうに顔を緩ませるミルカを見て蒼真も笑う。
 いつも余裕の表情を崩さない彼の少し困ったような笑顔は最高だし、気を許してくれていると思えば優越感すら与えてくれる。

 頬をぺたりとくっつけたら、すりっと甘えるような仕草をされて、危うく叫びそうになったミルカは必死で理性を総動員した。

 それを隠せているのかはわからないけど、何となく蒼真は気付いている気がする。むしろ遊ばれているのかもしれない。
 
(ソウマ様になら遊ばれてもいい……! むしろミルカで遊んでほしい! 悪い男に引っ掛かっちゃって可哀想だねとか言うくせに、ちっとも可哀想なんて思ってなさそうな笑顔で翻弄してほしい! ああん、そんなソウマ様も素敵ぃ♡)
 
 今日も妄想は最大に絶好調だ。悶え転げそうな体を我慢しながらニヤけるミルカの髪を、長い指が絡める。
 神経なんか通ってないのに蒼真が触れると嘘みたいに心地良いから不思議に思う。おかげで我に返ることが出来た。

「ミルカはチョロいし危なっかしいからさ、俺以外の天使に絶対近づいちゃダメだよ」
「当たり前ですぅ♡ ミルカ、天使なんか大っ嫌いだもん。ソウマ様は特別なの♡」
 
 顔を上げて瞳を合わせ、頬に小さな音を立ててキスをする。
 それから何度もくちびるに吸い付いては軽く食んだ。たったそれだけで、情欲に素直な体はどうしようもなく疼いてしまう。

 見下ろす先にある切長の瞳。とろんと見惚れるミルカを捕らえる目が楽しそうに細められた。
 
「俺の元カノ、気になる?」

 さらりと問われた言葉にミルカの目が大きく開く。ほわほわした蕩ける感情も体も一瞬で冷えてしまった。

 今このタイミングでそんなことを聞いてほしくない。ミルカだけを見て、ミルカだけを感じて欲しいのに。他のことなんか考えないで。

 不満あらわにむうっと眉を寄せても彼の表情は変わらない。蒼真は決して鈍感ではない。これはわざとだ。試すような彼は、たまにどうしようもなく意地が悪い。
 
「気になる! だって……」
 
 情事中に見せる、いつもと違う艶のある声に特別な表情。それを他に知っている女がいるなんて許せない。

 色んな男を食料としてつまみ食いしていた身だが、それとこれとは別だ。ミルカの場合、そこに愛情なんかなかった。
 
「ソウマ様が好きって言っていいのはミルカだけなの。キスもエッチもミルカだけじゃなきゃヤなの。可愛いなんて他の人に言わないで」
「言わないし、しないよ。ミルカだけだって」

「過去もイヤなの!」
「それは……まあ、仕方なくない? 過去は過去だし」

 眉尻を下げて笑いながらも、声を落とした蒼真は目を逸らす。
 それは少し珍しい仕草で、なんとなく引っかかるものがあった。
 でもきっとミルカの主張に困っているからだろうと、深く追うことはやめた。
 
「わかってるけど、イヤなものはイヤなの。全部なかったことにしたいの。本当はソウマ様から他の女の記憶も消してしまいたい。生まれた時からずっと一緒にいたかったよぉ……」

 どうして誰より先に出会えなかったのか、それが悔しくて仕方ない。
 じわりと浮かんだ雫はすぐに零れ落ちて、抱き寄せた蒼真の舌が拭う。

 こんなふうに誰かに感情を揺さぶられることも以前ならなかったのに。彼と出会ってから思い通りにならないことが多くなった。きっと蒼真は気づいていないだろうけど。

「かーわい。俺、ミルカのそういうとこすっげー好き」

 すんと鼻を鳴らすミルカの耳に聞こえてきた声は楽しそうだった。
 
「そういうとこって……どういうとこ?」
 
 要領を得ないミルカは顔を上げる。そこには機嫌の良い蒼真がいて、細腰を抱いた腕に、ぐっと力が入った。
 
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