上 下
8 / 54

8.蒼真の条件

しおりを挟む

「どうして……?」

 可愛いと思ってくれているのなら、今すぐ主従の契約を交わしてくれたらいいのに。
 理解できないミルカは彼を見上げたまま情けない顔をする。
 
「俺さ、疑り深いし、すっごい独占欲強いんだよね。自分の持ち物を人に貸すのも嫌いだし、約束を破られるのも嫌い。使い魔は契約違反をしたら罰を与えられるの知ってる?」

 使役されるべき悪魔が主人を裏切った場合、酷い罰があることは有名な話だ。だからこそみんな天使に目をつけられないように行動する。
 ミルカはその問いに、こくんと小さく頷く。

「俺が求める契約条件は重いよ。それに、俺が君に主従の魔法を埋め込むとしたら……ここになる」

 トン、と軽く指で押さえられた場所は胸の中心、ミルカの心臓に位置する場所だ。蒼真はさっきと変わらず笑っているのに、なぜか切なげに見えた。

「もしお姉さんが俺を裏切ったら、魔法陣から与えられる罰は確実に心臓を止める。だってこんなに可愛い君を手に入れてしまったら、もう抑えられないよ。誰にも渡したくないし、それなら壊して永遠に俺だけのものにしたい」

 なんですって?
 告げられた理由の衝撃でミルカの顔も身体も固まってしまう。
 
「それって結構ヤバいよね。だからもう俺に関わっちゃダメだよ」
「心臓を……止める?」
「うん。さすがのお姉さんも怖いでしょ」

 裏切りは死。つまりそういうことだろう。
 肩を震わせたミルカを見た蒼真は、そっと体を離そうとする。だけど察知したミルカは強くしがみついて彼を引き留めた。逃がさないように足を絡めると蒼真は珍しく目を丸くしている。

「なにそれ最っ高……!」
「え?」
「最高ですぅ! さすがソウマ様♡ 今すぐ契約しましょう♡ ああん興奮で疼いちゃう♡」

 裏切りを許せないほど執着してくれるなんて。それに、誰にも渡したくないから壊してしまいたいだなんて。さっきのセリフは唐突すぎる愛の告白でしかない。
 感激に瞳を潤ませるミルカの興奮は最高潮だった。蒼真は軽く引いている。

「……ちゃんと聞いてた?」
「だってそんなにミルカのことを好きでいてくれるなんて嬉しい! 大好き! 今すぐミルカをソウマ様のものにして!」

 ちゅっちゅと蒼真の顔中にキスを降らすミルカを彼は鬱陶しそうに引き剥がす。
 うんざりした顔は見慣れたもので、さっきふと感じた切なさなど影も形もなかった。

「これでも結構悩んだのに……、お姉さんのヤバさを甘く見てた。本当に後悔しない? 俺は一度手に入れたら絶対に解放してあげないよ」

 ため息をついた蒼真は興奮冷めやらぬミルカの頬を包んで、じっと視線を合わせる。
 はじめは冷たく感じた薄い月色だったのに、今では何より好きな色だ。この目で真っ直ぐ見つめられると体の芯から熱く潤ってしまう。

「それでも、俺のものになる? ミルカ」

 それはもはや問いかけではなかった。だって肯定しかあり得ないから。

「嬉しい! 絶対に離さないで! ミルカの心も体も魂も、全部全部ソウマ様のものよ♡」

 言い終わると同時に再び蒼真に飛びついて首に腕を回す。何度もキスを繰り返すミルカだったが、今度は引き剥がされることはなく、蒼真は長い口づけに応えてくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...