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4.使い魔にしてほしい
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「おかえりなさい、ソウマ様♡」
ワンルームマンションの扉前。にっこり微笑むミルカを目にした少年は、げんなりと嫌な顔をした。
七宮 蒼真(ななみや そうま)。
日本での彼の名前である。ミルカ同様、この地で人に紛れて暮らす彼は、担当区である市内の公立高校に通っている。もちろんながら両親はここではなく天界に在住のようだ。高校生として過ごしているが部活もバイトも所属なし。
どうやら天界の仕事で得た報酬で生活を賄っていると知った時には、養ってあげたい! などと叫んでしまった。
友人関係は良好。文武ともに優秀なことも含め、整った容姿のせいで忌々しいことに女生徒からの人気も上々。これは由々しき事態なので封印が解け次第、彼女たちには適当な相手と番わそうとミルカは密かに企んでいる。
恋を結ぶ手段は天使だけが持つものではないのだ。
あの後、なんとしても彼と再会することを決意したミルカは些細な情報と己の勘と嗅覚を元に、たった三日で蒼真の通う高校を突き止め、周囲の状況を調べ上げた。
それからは彼と交渉の日々である。いつも追い返されることに納得できないのだが、そのツンとした表情も好きだったりする。
「なんで家の前にいるの」
「ソウマ様が学校に来るなとおっしゃるから……」
「家に押しかけるとか、もっと迷惑だから。ここオートロックなんだけど、お姉さん不法侵入って知ってる?」
顔をしかめてこめかみを押さえる蒼真は大きなため息をつく。あんなキスなんかするんじゃなかったとは、もはや彼の口癖になりつつあった。
「ソウマ様ってば♡ そんなことどうでもいいじゃないですかぁ。 それより、今日こそミルカを使い魔にしてくださいませ♡ ああん、ソウマ様のはじめてを貰えるなんて、想像するだけで滾っちゃいますぅ♡」
「おいコラ、変な言い方すんな」
ミルカからすると奇跡的なことに、蒼真には使い魔がいない。単純に悪魔が嫌いだと言った彼だが、歓喜に打ち震えるミルカには何のダメージもなかった。
むしろ「少しずつお互いを知ればきっとソウマ様も悪魔が……というよりミルカを好きになると思うんです♡」なんて堂々と言い返せるくらいにミルカはポジティブの塊だった。
「俺に構ってないで、おとなしく魔界で引きこもってなよ。お姉さん、お腹減ってるのに元気だね」
「ソウマ様、優しい……♡」
「いや、気遣いじゃないし。毎日追い払うのも結構しんどいんだけど。まさか惚れられるとは思わなかった……。俺の立場も考えてよ」
頭を抱えるソウマに「お腹なら大丈夫です」とミルカは胸を張る。
「だって人間からは食事出来ないけど、同じ悪魔から分けてもらってますから」
ケロッと言ったミルカの言葉に蒼真の表情がピタリと固まった。そんな顔を見るのは初めてだ。ミルカは無邪気な顔で蒼真の腕にしがみつく。
呑気に見上げる先にある瞳はいつの間にか薄い月色に変わっていた。その色がいつも以上に冷たく感じるのは気のせいかしら。
そんなことを思ったミルカは、ふと原因を考えてみた。
(もしかするとソウマ様は断食という罰を与えるのがノルマだったのかな……。でもお腹が減るのはいやだもの)
欲望に忠実に生きてきたミルカの脳には我慢などという文字はない。
「もしかしてご存知ないですか? 悪魔同士だったら吸収じゃなくて、相手から精気を与えてもらうことが出来るんですよ。なのでミルカはとっても元気です。幼馴染はインキュバスだし、周りはみんな精力が強くって! 持つべきものは友ですよね♡」
半年くらい精気を断っても死にはしない。だけど空腹はまた別の話だ。人から吸収するほどの精は得られないが、餓えは満たすことが出来る。
「……知ってる。でもさ、それって人間から精気を奪うやり方と同じだろ?」
「はい♡ 体液から得ることが……。ひっ?!」
低くなった声音に疑問を感じたが、それより興味を持ってくれたことが嬉しいミルカは明るい笑顔で答える。だけど全てを言うことはできなかった。
ワンルームマンションの扉前。にっこり微笑むミルカを目にした少年は、げんなりと嫌な顔をした。
七宮 蒼真(ななみや そうま)。
日本での彼の名前である。ミルカ同様、この地で人に紛れて暮らす彼は、担当区である市内の公立高校に通っている。もちろんながら両親はここではなく天界に在住のようだ。高校生として過ごしているが部活もバイトも所属なし。
どうやら天界の仕事で得た報酬で生活を賄っていると知った時には、養ってあげたい! などと叫んでしまった。
友人関係は良好。文武ともに優秀なことも含め、整った容姿のせいで忌々しいことに女生徒からの人気も上々。これは由々しき事態なので封印が解け次第、彼女たちには適当な相手と番わそうとミルカは密かに企んでいる。
恋を結ぶ手段は天使だけが持つものではないのだ。
あの後、なんとしても彼と再会することを決意したミルカは些細な情報と己の勘と嗅覚を元に、たった三日で蒼真の通う高校を突き止め、周囲の状況を調べ上げた。
それからは彼と交渉の日々である。いつも追い返されることに納得できないのだが、そのツンとした表情も好きだったりする。
「なんで家の前にいるの」
「ソウマ様が学校に来るなとおっしゃるから……」
「家に押しかけるとか、もっと迷惑だから。ここオートロックなんだけど、お姉さん不法侵入って知ってる?」
顔をしかめてこめかみを押さえる蒼真は大きなため息をつく。あんなキスなんかするんじゃなかったとは、もはや彼の口癖になりつつあった。
「ソウマ様ってば♡ そんなことどうでもいいじゃないですかぁ。 それより、今日こそミルカを使い魔にしてくださいませ♡ ああん、ソウマ様のはじめてを貰えるなんて、想像するだけで滾っちゃいますぅ♡」
「おいコラ、変な言い方すんな」
ミルカからすると奇跡的なことに、蒼真には使い魔がいない。単純に悪魔が嫌いだと言った彼だが、歓喜に打ち震えるミルカには何のダメージもなかった。
むしろ「少しずつお互いを知ればきっとソウマ様も悪魔が……というよりミルカを好きになると思うんです♡」なんて堂々と言い返せるくらいにミルカはポジティブの塊だった。
「俺に構ってないで、おとなしく魔界で引きこもってなよ。お姉さん、お腹減ってるのに元気だね」
「ソウマ様、優しい……♡」
「いや、気遣いじゃないし。毎日追い払うのも結構しんどいんだけど。まさか惚れられるとは思わなかった……。俺の立場も考えてよ」
頭を抱えるソウマに「お腹なら大丈夫です」とミルカは胸を張る。
「だって人間からは食事出来ないけど、同じ悪魔から分けてもらってますから」
ケロッと言ったミルカの言葉に蒼真の表情がピタリと固まった。そんな顔を見るのは初めてだ。ミルカは無邪気な顔で蒼真の腕にしがみつく。
呑気に見上げる先にある瞳はいつの間にか薄い月色に変わっていた。その色がいつも以上に冷たく感じるのは気のせいかしら。
そんなことを思ったミルカは、ふと原因を考えてみた。
(もしかするとソウマ様は断食という罰を与えるのがノルマだったのかな……。でもお腹が減るのはいやだもの)
欲望に忠実に生きてきたミルカの脳には我慢などという文字はない。
「もしかしてご存知ないですか? 悪魔同士だったら吸収じゃなくて、相手から精気を与えてもらうことが出来るんですよ。なのでミルカはとっても元気です。幼馴染はインキュバスだし、周りはみんな精力が強くって! 持つべきものは友ですよね♡」
半年くらい精気を断っても死にはしない。だけど空腹はまた別の話だ。人から吸収するほどの精は得られないが、餓えは満たすことが出来る。
「……知ってる。でもさ、それって人間から精気を奪うやり方と同じだろ?」
「はい♡ 体液から得ることが……。ひっ?!」
低くなった声音に疑問を感じたが、それより興味を持ってくれたことが嬉しいミルカは明るい笑顔で答える。だけど全てを言うことはできなかった。
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