上 下
4 / 54

4.使い魔にしてほしい

しおりを挟む
「おかえりなさい、ソウマ様♡」
 
 ワンルームマンションの扉前。にっこり微笑むミルカを目にした少年は、げんなりと嫌な顔をした。
 七宮 蒼真(ななみや そうま)。
 日本での彼の名前である。ミルカ同様、この地で人に紛れて暮らす彼は、担当区である市内の公立高校に通っている。もちろんながら両親はここではなく天界に在住のようだ。高校生として過ごしているが部活もバイトも所属なし。
 どうやら天界の仕事で得た報酬で生活を賄っていると知った時には、養ってあげたい! などと叫んでしまった。 
友人関係は良好。文武ともに優秀なことも含め、整った容姿のせいで忌々しいことに女生徒からの人気も上々。これは由々しき事態なので封印が解け次第、彼女たちには適当な相手と番わそうとミルカは密かに企んでいる。
 恋を結ぶ手段は天使だけが持つものではないのだ。
 あの後、なんとしても彼と再会することを決意したミルカは些細な情報と己の勘と嗅覚を元に、たった三日で蒼真の通う高校を突き止め、周囲の状況を調べ上げた。
 それからは彼と交渉の日々である。いつも追い返されることに納得できないのだが、そのツンとした表情も好きだったりする。

「なんで家の前にいるの」
「ソウマ様が学校に来るなとおっしゃるから……」
「家に押しかけるとか、もっと迷惑だから。ここオートロックなんだけど、お姉さん不法侵入って知ってる?」

 顔をしかめてこめかみを押さえる蒼真は大きなため息をつく。あんなキスなんかするんじゃなかったとは、もはや彼の口癖になりつつあった。
 
「ソウマ様ってば♡ そんなことどうでもいいじゃないですかぁ。 それより、今日こそミルカを使い魔にしてくださいませ♡ ああん、ソウマ様のはじめてを貰えるなんて、想像するだけで滾っちゃいますぅ♡」
「おいコラ、変な言い方すんな」

 ミルカからすると奇跡的なことに、蒼真には使い魔がいない。単純に悪魔が嫌いだと言った彼だが、歓喜に打ち震えるミルカには何のダメージもなかった。
 むしろ「少しずつお互いを知ればきっとソウマ様も悪魔が……というよりミルカを好きになると思うんです♡」なんて堂々と言い返せるくらいにミルカはポジティブの塊だった。

「俺に構ってないで、おとなしく魔界で引きこもってなよ。お姉さん、お腹減ってるのに元気だね」
「ソウマ様、優しい……♡」
「いや、気遣いじゃないし。毎日追い払うのも結構しんどいんだけど。まさか惚れられるとは思わなかった……。俺の立場も考えてよ」

 頭を抱えるソウマに「お腹なら大丈夫です」とミルカは胸を張る。
 
「だって人間からは食事出来ないけど、同じ悪魔から分けてもらってますから」

 ケロッと言ったミルカの言葉に蒼真の表情がピタリと固まった。そんな顔を見るのは初めてだ。ミルカは無邪気な顔で蒼真の腕にしがみつく。
 呑気に見上げる先にある瞳はいつの間にか薄い月色に変わっていた。その色がいつも以上に冷たく感じるのは気のせいかしら。
 そんなことを思ったミルカは、ふと原因を考えてみた。

(もしかするとソウマ様は断食という罰を与えるのがノルマだったのかな……。でもお腹が減るのはいやだもの)

 欲望に忠実に生きてきたミルカの脳には我慢などという文字はない。
 
「もしかしてご存知ないですか? 悪魔同士だったら吸収じゃなくて、相手から精気を与えてもらうことが出来るんですよ。なのでミルカはとっても元気です。幼馴染はインキュバスだし、周りはみんな精力が強くって! 持つべきものは友ですよね♡」

 半年くらい精気を断っても死にはしない。だけど空腹はまた別の話だ。人から吸収するほどの精は得られないが、餓えは満たすことが出来る。
 
「……知ってる。でもさ、それって人間から精気を奪うやり方と同じだろ?」
「はい♡ 体液から得ることが……。ひっ?!」
 
 低くなった声音に疑問を感じたが、それより興味を持ってくれたことが嬉しいミルカは明るい笑顔で答える。だけど全てを言うことはできなかった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

可愛い女性の作られ方

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。 起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。 なんだかわからないまま看病され。 「優里。 おやすみなさい」 額に落ちた唇。 いったいどういうコトデスカー!? 篠崎優里  32歳 独身 3人編成の小さな班の班長さん 周囲から中身がおっさん、といわれる人 自分も女を捨てている × 加久田貴尋 25歳 篠崎さんの部下 有能 仕事、できる もしかして、ハンター……? 7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!? ****** 2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。 いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

記憶喪失のフリをしたら夫に溺愛されました

秋月朔夕
恋愛
フィオナは幼い頃から、自分に冷たく当たるエドモンドが苦手だった。 しかしある日、彼と結婚することになってしまう。それから一年。互いの仲は改善することなく、冷えた夫婦生活を送っていた。 そんなある日、フィオナはバルコニーから落ちた。彼女は眼を覚ました時に、「記憶がなくなった」と咄嗟にエドモンドに嘘をつく。そのことがキッカケとなり、彼は今までの態度は照れ隠しだったと白状するが、どんどん彼の不穏さが見えてくるようになり……。

俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜

せいとも
恋愛
高校時代バスケ部のキャプテンとして活躍する蒼空先輩は、マネージャーだった凛花の初恋相手。 当時の蒼空先輩はモテモテにもかかわらず、クールで女子を寄せ付けないオーラを出していた。 凛花は、先輩に一番近い女子だったが恋に発展することなく先輩は卒業してしまう。 IT企業に就職して恋とは縁がないが充実した毎日を送る凛花の元に、なんと蒼空先輩がヘッドハンティングされて上司としてやってきた。 高校の先輩で、上司で、後から入社の後輩⁇ 複雑な関係だが、蒼空は凛花に『はじめまして』と挨拶してきた。 知り合いだと知られたくない? 凛花は傷ついたが割り切って上司として蒼空と接する。 蒼空が凛花と同じ会社で働きだして2年経ったある日、突然ふたりの関係が動き出したのだ。 初恋相手の先輩で上司の複雑な関係のふたりはどうなる? 表紙はイラストAC様よりお借りしております。

身長差38センチもある後輩・白河真雪くんが隙あらば過保護に溺愛してきます

ユカヲ
恋愛
【毎日22時更新・最終話まで予約投稿しています】 「俺は桃花のことが大好きで、俺の彼女にしたい。  ゆくゆくは結婚して、一生を共に過ごしたいと思ってる」 たった一週間足らず一緒に仕事した後輩から、プロポーズ!? いつもデロデロに愛されるんですが、新人教育係としてどう対応したらいいの? ♡・・・♡・・・♡ 紅 桃花(くれない ももか) 25歳 レイエスフーズ 商品営業部リテールグループ営業担当 白河 真雪(しらかわ まゆき) 22歳 レイエスフーズ 新入社員(新人研修中) 創業者会長の孫 ♡・・・♡・・・♡ 業界大手の冷凍食品会社『レイエスフーズ』に勤める桃花は、仕事にやりがいを感じている入社4年目。 背が低くて胸が大きいことがコンプレックスだが、日々笑顔で熱血に営業を頑張っている。 そんな中、上司から新人研修中の、真雪を指導するように任された。 真雪は背が高くて、モデル並みのスタイルをした王子様系イケメン。 新人なのに、仕事が出来すぎる真雪は、研修中にも関わらず数々の成果をあげていく。 しかもレイエスフーズ創業者会長の孫であり、次期社長とのウワサがあるスーパー新入社員だった。 実は幼い頃から桃花に憧れていて、ずっと好きだったとグイグイ迫ってくる真雪は、毎日甘々な愛情を注いでくる。 桃花は優しくて一途な真雪に、だんだん惹かれていった。 新人研修が終了し、離れ離れの部署になったが、お互いの気持ちを確かめ合った2人は、社内でも噂のカップルになる。 幸せに愛情を育む2人は、あることから会社の存続が危ぶまれる重大な秘密を知り、覚悟を持って内部告発して――――。 ♡・・・♡・・・♡ どんな時も溺愛してくる後輩イケメンの真雪と、何事にも一生懸命なヒロイン桃花の恋愛模様をどうぞ温かく見守ってください。 エブリスタ様でも公開中です。 作品はすべてフィクションです。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...