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3.ハロウィンの夜③

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「残念だけど、おしまい。お姉さん可愛いからサービスしちゃった。悪魔って本当に馬鹿だよね。今日はお姉さんで三人目。いくら気配を消してるからってさ、罠にかかるまで気づかないってどうなの?」
「罠?」
 
 まだよく働かない頭を、ミルカはこてんと横に倒す。

「あれ? 気づいてない? そんなに気持ちよかった?」
「ん、よかったぁ♡  あんなキスはじめて……♡」
 
 最高に美味しかったし、気持ちよかった。おまけに目の前の顔が好きすぎる。天使だって構わない。種族の違いなんか些細なことにしか思えない。
 容易く意見を変えるくらい、コロッとミルカは魅了されてしまった。
 とろんと潤む瞳でぼうっと見上げる様子に彼は瞬きをして、それから面白そうに笑う。

「それは光栄。でもごめんね。俺は君たちの行いを取り締まる立場だからさ、お姉さんの力を封印したってわけ」

 爽やかな笑顔に爽やかな声。しかし告げられた内容にミルカの思考は現実へと引き戻される。

「は?」
「一か月くらいかな。長くて二か月。その間は人間と契約も出来ないし、精気を奪うことも出来ない。断食だと思ってさ、魔界に帰ってしばらくおとなしくしてるといいよ。……雑魚悪魔」

 見下すような眼差しを向けた彼は、じゃあねと手を振り、軽やかな足取りで闇夜へ消えていく。その後ろ姿を呆然と見つめるミルカはヘナヘナと石段に全身を預けた。
 いつの間に……? そんな疑問を巡らせる。
  
「はっ、もしかして……!」

 思い当たるとしたら、一瞬感じた胸の痛み。緊張する指先でワンピースの襟元を引っ掛けて胸の辺りを覗く。
 するとくっきりした谷間の少し上、しっかりと濃い青の魔法陣が浮かび上がっていた。
 その印にミルカは落胆の息を吐く。封印を示すその印は昔に本で見た通り、寸分違わない模様を描いている。

「違う……。ミルカが欲しいのはこれじゃないのに。一か月……? しかも三人ですって……?」

 わなわな震えるミルカの瞳に怒りの炎が灯る。ピンクの瞳が更に濃さを増した。
 一か月なんて悪魔にはほんの短い期間だ。精気を吸わなくても生きてはいける。それよりたった一か月しか縛られないことが、なにより三人目ということが不満だった。

「許せないわ! あとの二人はどこのどいつよ?! 絶対に突き止めて、その悪魔どもの記憶を奪いに行ってやるわ! それにしても……ああん、素敵だったぁ……♡」
 
 極上の精気に、尊いまでに好みの顔。均整のとれた高い身長だって、爽やかなのにどこか色気を含む声だって最高だった。それに蔑んだあの目。
 思わずミルカの口から悩ましい吐息がこぼれ出る。

「これが恋なのね。あの方に一生使役してもらえるなんて幸せすぎる♡ 次に描いてもらうのは主従の魔法陣よ。ミルカを唯一の使い魔にしてもらわなきゃ!」

 もし彼に今現在使い魔がいるのであれば、そいつらは全員消す。他の女になんか、いや例え男であろうが髪の一本すら触らせたくない。
 今日は運命の日だわ! 大魔王様の祝福よ!
 この日を境にミルカのストーカー生活が幕を開けた。
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